この記事は2026年4月27日に配信されたメールマガジン「アンダースロー(ウィークリー): サナエノミクスへの評価が日経平均株価を大きく押し上げ」を一部編集し、転載したものです。

アンダースロー
(画像=years/stock.adobe.com)

目次

  1. シンカー
    1. 米国: 防衛産業基盤の強化を通じた成長戦略
  2. サナエノミクスへの評価が日経平均株価を大きく押し上げ
  3. 日本経済メインシナリオ 2024-2029年(4月22日)
    1. 2024年(実績):日銀の拙速な利上げでマイナス成長に
    2. 2025年(実績):高市政権の誕生で成長期待が高まる
    3. 2026年:様々な景気下押し圧力を積極財政でオフセット
    4. 2027年:企業の投資と消費の拡大で日銀は本格的な利上げサイクル入り
    5. 2028年:構造的経済停滞脱却で潜在成長率が上昇
    6. 2029年:高圧経済の維持と財政収支の黒字化
  4. 交易条件の悪化による名目GDP成長率の減速が日銀にデュアル・マンデートを重要視させる(4月24日)

シンカー

米国: 防衛産業基盤の強化を通じた成長戦略

2026年大統領経済報告書では、防衛政策について、国家安全保障の強化と国内経済成長を一体化させた戦略を構築している。中国やロシアが国家主導で大規模な軍事・産業増強を進めてきたなか、冷戦後の米国では防衛産業基盤への投資が数十年にわたり不足してきた結果、潜在的な安全保障リスクを高めたほか、防衛産業の比率が高い国内製造業の衰退にも寄与したとトランプ政権は指摘する。「低コストのドローン、ミサイル、および類似技術の最近の進歩は、国家が紛争に関与する方法、そして侵略を防衛・抑止する方法を変える可能性がある。

この状況に対応し、米軍の優位性をさらに強化するには、米国の防衛産業基盤(DIB)の復活が必要である。」と強い危機感を示している。2009年から2019年の10年間で、世界の国防費に占める米国のシェアは約9ポイント低下して38%となり、中国のシェアは約6ポイント上昇して14%となった。また、2021年には売上高ベースで世界最大の防衛関連企業15社のうち7社が中国の国有企業であり、米国の民間企業数と同数であるとしている。中国の急速な軍事力増強に対応する必要性が強調されている。米国製造業復活の糸口としても、DIBの強化が必要とされている。

「米国の産業衰退のかなりの部分は防衛部門に集中している。防衛関連の雇用は1985年から2021年の間に210万人減少した。これは同時期の製造業全体の雇用喪失の約40%に相当する。冷戦終結以降の連邦政府の防衛調達・研究開発費の大幅な減少を部分的に反映している。」と記している。防衛関連需要の低迷により、コスト削減と効率化を目的とした企業の寡占化が進み、その結果として競争の喪失に伴う価格引き上げやイノベーションの減退も問題視されている。政府主導の防衛関連研究開発は波及効果を生み、イノベーション(技術革新)と雇用の起点となってきた歴史がある。商業用途と軍事用途の双方を持つデュアルユース技術について、国防総省のプロジェクトから生まれた多くの例として、先端金属、人工衛星、全地球測位システム(GPS)、高精細テレビ(HD TV)、インターネットなどが挙げられており、半導体も当初は軍需が大きな割合を占めていたとされる。

米ソ冷戦の終結により「米国1強」の地政学的環境となるなかで、軍事起点のイノベーションは減少した。トランプ政権は、需要と供給の両面からDIBの復活に取り組んでいる。需要面では、国防費の増加に加え、受注企業の予見可能性を高めるための長期購買契約の推進、同盟国への軍事物資の販売促進が挙げられる。販売促進の意味としては、NATO加盟国が2035年までに国防関連支出をGDP比5%へ引き上げるにあたり、同盟国の安全保障能力の強化と防衛関連市場の拡大を通じて米国のDIB活性化に同時に資する点が期待されている。供給面でも、新興企業などからの参入を促す各種支援や、国防総省による融資などが取り組み例として挙げられている。トランプ政権が意図する軍事力の強化は、経済力の一層の強化でもある。

そして、大きな方向性としてはこの方針が政権を問わず継続するとみられ、米国の中長期的な高成長に資すると考えられる。他国が取り残される場合、米国の需要・資産・通貨への依存が継続することを意味する。従来の画一的な効率化や自由貿易からは距離を置き、コスト負担の増加を伴ってでもDIBや製造業の強化を図ることは、政府財政の恒常的な拡大につながるものの、成長率の押し上げによりGDP比では伸びが抑制され、財政状況は安定すると想定されている。インフレ圧力の上昇という側面はあるものの、生産性向上や化石燃料の国内生産によるエネルギー価格の抑制、規制緩和などで対応しつつ、同時に緩和的な金融政策によって金利上昇圧力を抑制するというのがトランプ政権のスタンスである。(松本賢)

サナエノミクスへの評価が日経平均株価を大きく押し上げ

  • 高市政権の高圧経済を目指す政策方針への期待から、日経平均株価は大きく上昇している。高圧状態を目指す経済では、0%の需給ギャップを前提にせず、戦略投資のリミッターを外して2%超まで押し上げることで企業を貯蓄超過(異常なプラスの貯蓄率)から投資超過(正常なマイナスの貯蓄率)に戻し、コストカット型経済から投資・成長型経済に転換することで構造的デフレ圧力を完全に払拭させる。企業が持続的に投資超過となるまでは、「責任ある積極財政」で企業と政府の合わせた支出をする力である、ネットの資金需要(企業貯蓄率+財政収支、GDP%、4QMA、マイナスが強い)を十分に拡大させる。そして、これまで消滅してしまっていたネットの資金需要の復活がリフレと家計へ所得を回す力となり、3%程度の安定的な名目成長が実現する。構造的経済停滞からの完全脱却による持続的な名目成長への移行をマーケットは織り込んでいるとみられる。

  • 日経平均株価は名目GDP(兆円)、ネットの国内資金需要、マクロ政策ダミー(2012年10-12月期まで0、2013年1-3月期以降に1、2025年4-6月期に2、10-12月期から3)、設備投資サイクルといえる実質民間設備投資(%GDP)で推計できる。これらの変数を使うことで、2000年からの日経平均株価のマクロ・フェアバリュー(四半期ベース)が算出できる。名目GDPで、経済規模の拡大が株式市場の時価総額の拡大、企業収益(EPS)の拡大につながる動きをとらえる。ネットの資金需要と設備投資サイクルで、企業と政府の合わせた支出する力が、マネーの拡大と家計に所得が回る力となり、日本経済のリフレの力を通じた成長期待によって、PERが上昇する動きをとらえる。アベノミクスの大規模金融緩和により、物価安定を0%の物価上昇率とする古い日銀の考え方から、2%の物価安定目標に変化した以降の動きをマクロ政策ダミーで捉える。

  • 日経平均=-93,979+ 186 名目GDP(兆円)-620 ネットの資金需要(財政収支+企業貯蓄率、名目GDP比)+ 3,034マクロ政策ダミー(2013年1-3月期以降に1、2025年4-6月期に2、10-12月期から3、2026年1-3月期から6)-481 実質民間設備投資(%GDP、12QMA); R2=0.94

  • 構造的経済停滞からの脱却と株価上昇の起点となったのは、「三本の矢」として大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略を掲げたアベノミクスのマクロ政策である。大規模な日銀の量的緩和によるリフレ政策で企業の信用サイクルは回復し、為替は異常な円高水準から脱したことでデフレではない状況を作り出した。緩和的な金融政策に移行したことが、アベノミクスダミー1の点灯で日経平均を3,000円程度押し上げる力があったとみられる。しかし、財政政策が十分ではなくネットの資金需要の拡大は不十分で、名目成長率は緩やかであった。構造的経済停滞からの完全脱却に繋がる投資・成長型経済への転換の成長戦略への期待も十分でなかったといえる。

  • 高市首相は、通常国会の施政方針演説で、サナエノミクスは投資拡大であることを明確に示した。これまでの経済停滞は、人口動態の悪化よりも、官民の国内投資の不足に原因があるとした。高市政権の方針は官民連携の戦略投資による「成長型経済」への移行と、「強い経済」の実現である。高市政権は、戦略分野と分野横断的課題への対応を中心に、将来の経済成長をもたらす投資をはじめ、足元で必要な政策を果断に実施するための歳出を躊躇しない方針だ。グローバルなインフレの局面であるが、内需のまだ弱い日本は、内需が強くインフレ懸念もより強い他の国々より、投資拡大の余地が大きく、グローバルな成長投資の競争に勝てる環境にあると言える。

  • 現在、積極財政によって経済規模が拡大を始めたことによって、国内の設備投資サイクルはまだ上向いている。官民連携の戦略投資によって、設備投資サイクルを更に大きく押し上げ、企業を異常な貯蓄超過(投資不足)から正常な投資超過に回復させ、経済停滞から完全に脱することを目指している。設備投資サイクルが上向いている間は、将来の供給能力が拡大する期待が続き、極度の円売りが起こるリスクが防がれる。極度の通貨売りは、将来の供給能力の棄損リスクによって起こるからだ。

  • マクロ政策ダミーは、高市政権の積極財政で追加の1が点灯し,成長戦略である官民連携の成長投資の拡大でさらに1が点灯した。そして、年初の衆議院選挙の大勝によってサナエノミクスが信任され、それぞれのダミー効果が倍増(合計6)したと捉え、市場がネットの資金需要が-2.5%まで拡大(2025年10-12月期:+2.4%)することを織り込んでいれば、現状の名目GDP(2026年4-6月期見通し:674兆円)で日経平均株価60,000円が説明可能となる。

  • 原油価格上昇による交易条件の悪化で名目GDPの伸びが減速するリスクが高まっているものの、積極財政と、日銀の拙速な利上げが回避されれば、2026年末には日経平均株価は62,000円程度がマクロ・フェアバリューとなる。そして、安定的に3%程度の名目成長率を続ける前提の下、2028年末に名目GDPは720兆円程度となれば、日経平均株価は70,000円に向けて上昇していくことが見込まれる。

図1:ネットの国内資金需要(財政収支+企業貯蓄率)

ネットの国内資金需要(財政収支+企業貯蓄率)
(出所:内閣府、日銀、クレディ・アグリコル証券)

図2:日経平均のマクロ・フェアバリュー

日経平均のマクロ・フェアバリュー
(出所:日銀、内閣府、Bloomberg、クレディ・アグリコル証券)

図3:日経平均のマトリクス表

日経平均のマトリクス表
(出所:日銀、内閣府、Bloomberg、クレディ・アグリコル証券)

図4:米国国防費と米国製造業雇用者数

米国国防費と米国製造業雇用者数
(出所:BLS、セントルイス連銀、クレディ・アグリコル証券)

以下は配信したアンダースローのまとめです

日本経済メインシナリオ 2024-2029年(4月22日)

2024年(実績):日銀の拙速な利上げでマイナス成長に

日銀が拙速なマイナス金利政策の解除と追加利上げを実施して信用サイクルが下押され、グローバルな景気減速もあり、実質GDP成長率はマイナスとなる経済停滞に。輸入物価の上昇の転嫁が進み、物価上昇率の高止まりが、実質賃金の下押しとなり、内需が停滞。

内需は停滞しながらも、名目賃金等の上昇を背景とした日銀の利上げ姿勢継続により、長期金利は上昇。

2025年(実績):高市政権の誕生で成長期待が高まる

グローバルな景気減速とトランプ政権の不確実性の景気下押しが続く。賃金上昇によって、消費は緩やかな回復基調。日銀の利上げが一時休止することで、設備投資のサイクルは堅調に。実質GDP成長率は0.5%程度の潜在成長率を上回る。緊縮的な石破政権の退陣後、高市政権の経済政策の方針は積極財政に変化し、大規模な経済対策を実施。

日銀の利上げ、高市政権の積極財政と成長期待の高まりで長期金利、超長期金利は大きく上昇。株式市場も、緊縮的な石破政権による石破ディスカウントが剥落し、高市政権下での成長期待と円安サポートで上昇が続く。

2026年:様々な景気下押し圧力を積極財政でオフセット

高市政権は、積極財政で高圧経済を目指す。追加の経済対策を実施。官民連携の成長投資の始動による設備投資サイクルの上振れで、企業貯蓄率の低下がみられる。ネットの資金需要が回復の方向へ。これまで過度であった物価上昇率(生鮮食品とエネルギーを除く)は減速し、実質賃金が上昇を始める。実質GDP成長率は、トランプ関税と地政学上のリスクによる原油価格上昇の中、グローバルな景気減速に下押されながらも、潜在成長率なみを維持する。0.75%への利上げの後、政権の高圧経済の方針の下、利上げは1年間止まり、利上げの再開は年末。

ネットの資金需要の回復に伴う安定的な名目GDPの成長で、リスク資産は堅調な推移が続く。長期、超長期金利は成長期待の持続、2027年以降の日銀の利い上げサイクルの織り込みで緩やかな上昇が続く。

2027年:企業の投資と消費の拡大で日銀は本格的な利上げサイクル入り

企業の競争がコスト削減から投資に明確に変化し、設備投資のGDP比率はなかなか到達できなかった18%を大きく上回る。実質賃金の上昇が加速し、消費の拡大につながる。実質GDP成長率は潜在成長率を十分に上回り、景気回復に加速感。物価上昇率は2%の物価目標に向かって拡大を続ける。日銀はようやく中立金利にむけた本格的な利上げサイクルに入る。2026年末と2027年4月の利上げの後、四半期ごとに0.25%の利上げを続ける。物価上昇率と政策金利が同じようなペースで上昇し、実質政策金利はゼロ近傍が維持され、構造的経済停滞脱却を支援。

マイナスのネットの資金需要と名目GDPの持続的成長でリスク資産の上昇は続き、日経平均株価は6万円台が定着。日銀の利上げに伴い長期金利も上昇するものの、利上げの到達点が意識され始めることでカーブのフラット化が続く。

2028年:構造的経済停滞脱却で潜在成長率が上昇

企業の期待収益率・成長率の上振れで潜在成長率が1%程度に上昇。実質GDP成長率は1%台半ばの水準へ加速。企業貯蓄率が正常なマイナスに転じて構造的デフレ圧力を払拭し、物価上昇率も目標の2%に達することで、予想インフレ率もアンカーされ、構造的経済停滞を完全脱却。政策金利は2.25%まで上昇し、2%の物価目標の達成と合わせて、実質政策金利が若干のプラスに戻るところが到達点となる。

構造的経済停滞からの完全脱却で名目GDPの成長が持続し、日経平均株価は7万円に向けて上昇。金利は、利上げが到達点に達し、GDPの伸び率がやや落ち着くことでカーブはさらにフラット化。

2029年:高圧経済の維持と財政収支の黒字化

日銀が若干の実質政策金利のプラスの水準で利上げを止めることで、景気がやや過熱気味の高圧経済となる。プラスの実質政策金利と円高は景気を下押すが、高圧経済が支えとなり、実質GDP成長率は引き続き1%を上回る。経済規模の持続的拡大の予見可能性による企業の投資の拡大で、企業貯蓄率のマイナス幅が拡大する中、名目GDPの拡大によって税収が増加し、財政収支は赤字を脱する。

実質の成長率は鈍化しながらも、ネットの資金需要の安定的な推移と名目GDPの拡大でリスク資産やインフレ期待の底割れは回避される。

交易条件の悪化による名目GDP成長率の減速が日銀にデュアル・マンデートを重要視させる(4月24日)

3月のコア消費者物価指数(除く生鮮食品)は前年同月比+1.8%と、2月の同+1.6%から上昇幅が拡大した。地政学上のリスクによる原油価格上昇の影響が出て、エネルギーが同-5.7%と、-9.1%からガソリンの暫定税率廃止などによって下落していた幅が縮小した。コアコア消費者物価指数(除く生鮮食品・エネルギー)は同+2.4%と、+2.5%から上昇幅が縮小した。輸入物価指数は同+7.9%と大幅な上昇を始めている。貯蓄率(資金循環統計)が2%程度まで低下してファンダメンタルズが悪化している家計の防御的反応を警戒して、企業は値上げにこれまでよりは慎重になるだろう。需要の価格弾力性が大きくなって、購入数量が大きく減少リスクがあるからだ。グローバル・コア消費者物価指数(除く食品・エネルギー)は、同+1.4%と変化はなく、内需の弱さを反映して、日銀の物価安定目標の2%をまだ下回っている。

地政学上のリスクによる原油価格の上昇によって、物価指標の動きが複雑になっていくとみられる。原油価格が高止まり、経済対策などによるエネルギー補助の拡大がなければ、エネルギーを含むコア消費者物価指数の前年同月比は2026年度末へ3%に向けて上昇していく可能性がある。一方、エネルギーのコストの上昇が、家計の購買力を減退させることで、エネルギーを含まないコアコア消費者物価指数の前年同月比は2%を下回る展開になるとみられる。食料も除けば、グローバル・コア消費者物価指数の前年同月比は、1%台前半で低迷するだろう。どの物価指標を重視するかによって、インフレの状態の判断が分かれるようになる。日銀はインフレ期待の上昇を重視して前者、交易条件の悪化による景気の悪化をリスクと考える政府は後者を重視していくとみられる。

最も大きな問題となるのは、政府が重視するGDPデフレーターである。GDPで、輸入は控除項目であるため、輸入物価の上昇による交易条件の悪化は、GDPデフレーターには下押し圧力となる。輸入物価の上昇によって名目GDPが拡大したというのは間違いで、輸入物価が国内に価格転嫁されていくなかで、この下押しがなくなるだけである。GDPデフレーターへの下押しによって、名目GDPの前年同期比が急減速していくことになる。昨今の景気回復の機運は、これまで拡大できなかった名目GDPが、年率3%程度の拡大トレンドとなり、経済のパイの拡大に支えられている。名目GDP成長率が1%台に減速し、企業の設備投資の機運を削ぐことに対する、政府の警戒は強くなっていくだろう。

日本銀行法第四条(政府との関係)には、「日本銀行は、その行う通貨及び金融の調節が経済政策の一環をなすものであることを踏まえ、それが政府の経済政策の基本方針と整合的なものとなるよう、常に政府と連絡を密にし、十分な意思疎通を図らなければならない。」とされている。政府の経済政策の基本方針は、「責任ある積極財政の考え方の下、戦略的に財政出動を行うことで強い経済を構築する」ことだ。政府が金融政策の手段の独立性を尊重しながら、日銀に連携を求めるのは当然だ。

日銀法第四条の解釈として、日銀は、政府と連絡を密にしていれば、結果的に政府の経済政策の基本方針と整合的にならなくても良いと解釈し、物価安定の一つの責務で金融政策運営を行いたいと考えているようだ。1月23日の植田日銀総裁の定例記者会見でも、「政府との対話については、密な意見交換をするということで一生懸命努力してまいりましたし、それはうまく実行されていると思います。今後も緊密な意見交換を続けていきたいというふうに思っております。」と、「緊密な意見交換」のみが重要であると考えているような発言あった。

1月22・23日の金融政策決定会合の議事要旨では、政府が「強い経済成長」と「安定的な物価上昇」の両立の実現というデュアル・マンデート(二つの責務)を正式に求めたことが明らかとなった。デュアル・マンデートは、既に3回も公になっている。一つ目は、城内経済財政担当大臣の就任記者会見、二つ目は初めての経済財政諮問会議における高市首相の植田総裁の前での発言、三つ目は高市政権として初めて策定した経済対策の方針である。

高市首相は、通常国会の施政方針演説で、サナエノミクスは投資拡大であることを明確に示した。これまでの経済停滞は、人口動態の悪化よりも、官民の国内投資の不足に原因があるとした。高市政権の方針は官民連携の戦略投資による「成長型経済」への移行と、「強い経済」の実現である。高市政権は、戦略分野と分野横断的課題への対応を中心に、将来の経済成長をもたらす投資をはじめ、足元で必要な政策を果断に実施するための歳出を躊躇しない方針だ。グローバルなインフレの局面であるが、内需のまだ弱い日本は、内需が強くインフレ懸念もより強い他の国々より、投資拡大の余地が大きく、グローバルな成長投資の競争に勝てる環境にあると言える。

現在、積極財政によって経済規模が拡大を始めたことによって、国内の設備投資サイクルはまだ上向いている。官民連携の戦略投資によって、設備投資サイクルを更に大きく押し上げ、企業を異常な貯蓄超過(投資不足)から正常な投資超過に回復させ、経済停滞から完全に脱することを目指している。設備投資サイクルが上向いている間は、将来の供給能力が拡大する期待が続き、極度の円売りが起こるリスクが防がれる。極度の通貨売りは、将来の供給能力の棄損リスクによって起こるからだ。

日銀の拙速な利上げは、設備投資サイクルの更なる押し上げという政策方針と整合的ではない。日銀は金融政策の正常化が、「息の長い成長につながる」としているが、政府が求めているのは「強い経済成長」であり、大きなギャップがある。更に、原油価格の急上昇による交易条件の悪化で、これまでの景気回復の推進力であった名目GDP成長率が減速するリスクがある。政府との連携を重視しなければならない日銀は、追加利上げに前のめりではなくなり、追加利上げに向けて年末まで経済・物価動向を慎重に点検していくことになるだろう。

図1:消費者物価指数とGDPデフレーター

消費者物価指数とGDPデフレーター
(出所:総務省、内閣府、クレディ・アグリコル証券)

図2:名目GDP

名目GDP
(出所:内閣府、クレディ・アグリコル証券)

図3:企業貯蓄率と国内設備サイクル

企業貯蓄率と国内設備サイクル
(出所:内閣府、日銀、クレディ・アグリコル証券)

日本経済見通し

日本経済見通し
CACIB
(出所:内閣府、日銀、総務省、Bloomberg、クレディ・アグリコル証券)

会田 卓司
クレディ・アグリコル証券 東京支店 チーフエコノミスト
松本 賢
クレディ・アグリコル証券 マクロストラテジスト

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