この記事は2026年4月24日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「『女性たちの定年後─お金・仕事・暮らしのリアル』」を一部編集し、転載したものです。
『女性たちの定年後─お金・仕事・暮らしのリアル』
坊美生子 著/祥伝社 刊/1,050円+税
本書は、新聞記者・シンクタンク研究員として労働問題を追ってきた著者が、日本の雇用環境分析と女性11人のライフストーリーをまとめた一冊だ。
まず心をつかまれたのは、ミドル女性を取り巻く現実が膨大なデータで可視化されていた点である。研修会社を経営する評者が、働く女性たちと接する中で肌感覚で捉えていた「ミドル女性や独身女性の増加」「働き続けてきた女性たちの複雑な人生」が数値で裏付けられており、「やはりそうだったのか」とうなずきながら読み進めた。
特に印象的なのは、年金制度についてだ。「夫婦世帯前提」で設計された公的年金の構造が、未婚率や熟年離婚が増加する現代において、大きな男女間年金格差を生んでいる。離婚女性の家計リスクの高さは深刻で、制度と現実の乖離は看過できない。もはや個人の備えに委ねるべき課題ではなく、制度設計そのものの再考を迫るものだろう。
企業におけるミドル女性へのキャリア形成支援の不足も重要な論点である。研修機会や能力開発の差は、そのまま定年前後の適応力の差につながる。本書が示すとおり、40~50代への学びの機会の設計は、企業の人材戦略上の課題である。評者の世代には「キャリアを自分で設計する」という発想自体がほぼなかった。一方、現代では選択肢が広がり、「何を選ぶか」が問われる難しい時代ともいえる。
女性たちはライフイベントや役割の変化を通じ、価値観を更新しながら生きてきた。その転換力は環境変化の激しい時代に大きな強みとなる。適切な支援があれば、その力は組織や社会で重要な人的資源となり得る。
本書は、女性の定年後を「老後準備」でなく、「人生をどう継続するか」という問いとして提示する。個人の問題にとどまらず、制度や企業、社会の在り方を問い直す一冊である。
(WINTH 代表 西川由喜)
週刊金融財政事情 2026年4月28日号