この記事は2026年5月15日に配信されたメールマガジン「アンダースロー:サナエノミクスへの批判に対する反論」を一部編集し、転載したものです。
サナエノミクスへの批判に対する反論
サナエノミクスは投資拡大である。これまでの経済停滞は、人口動態の悪化よりも、官民の国内投資の不足に原因がある。高市政権の方針は官民連携の戦略投資による「成長型経済」への移行と、「強い経済」の実現である。グローバルなインフレの局面であるが、内需のまだ弱い日本は、内需が強くインフレ懸念もより強い他の国々より、投資拡大の余地が大きく、グローバルな戦略投資の競争に勝てる有利な環境にあると言える。
長期金利の上昇は、グローバルな金利上昇の影響に加え、高市政権の経済政策による成長期待を織り込んだ動きと見るべきである。金利上昇を過度に恐れ、強い経済成長に必要な戦略投資が不十分となることがリスクである。内閣府見通しでは、政府の利払費は2026年度から2035年度へ2~3倍に増加する見込みであるものの、同時に2035年度の財政収支は黒字化が見込まれている。経済成長によって財政全体が改善に向かう見通しなのであれば、利払い費の増加は問題とは言えないだろう。
サナエノミクスは、積極財政による官民連携の国内投資の拡大で、供給能力を拡大し、経済と国力の回復を目指すものである。官民連携の戦略投資によって、設備投資サイクルを更に大きく押し上げ、企業を異常な貯蓄超過(投資不足)から正常な投資超過に回復させ、経済停滞から完全に脱することを目指している。設備投資サイクルが上向いている間は、将来の供給能力が拡大する期待が続き、極度の円売りが起こるリスクが防がれる。極度の通貨売りは、将来の供給能力の棄損リスクや、海外からの供給に依存することによって起こるためである。
投資の拡大は、短期的には需要増で需給ギャップを押し上げ高圧経済の状態となるが、将来的な供給能力の拡大によって、インフレ安定化と潜在成長率の上昇、労働生産性の向上による実質賃金の上昇につながる。その間の家計の負担は、消費減税を含む期間を限定する財政支援で支えることになり、決してバラマキではない。日銀の拙速な利上げで設備投資サイクルを腰折れさせた場合、将来の供給能力の棄損リスクによって、中長期的には円安の力がより強くなるリスクを生む。
世界の経済政策の新しい潮流は、官民連携の強化による戦略的な国内投資の拡大を通じた国力の増大である。この潮流の変化を政府のマクロ戦略に組み込むことが重要である。将来の成長や所得を生む戦略投資であっても、プライマリーバランスの黒字化目標は、税収の範囲内に投資額を収める制約となる。戦略投資の可否は、財源の有無ではなく、国債の利払い負担を上回る便益を将来世代に残せるのかが判断基準となる。グローバルでの官民連携の戦略投資の激しい競争の中、日本だけ、無用な足かせをはめて戦えば、競争に敗れ、国力の衰退の原因となってしまう。
高市首相は、通常国会の施政方針演説で、サナエノミクスは投資拡大であることを明確に示している。これまでの経済停滞は、人口動態の悪化よりも、官民の国内投資の不足に原因があるとしている。高市政権の方針は官民連携の戦略投資による「成長型経済」への移行と、「強い経済」の実現である。高市政権は、戦略分野と分野横断的課題への対応を中心に、将来の経済成長をもたらす投資をはじめ、足元で必要な政策を果断に実施するための歳出を躊躇しない方針だ。グローバルなインフレの局面であるが、内需のまだ弱い日本は、内需が強くインフレ懸念もより強い他の国々より、投資拡大の余地が大きく、グローバルな戦略投資の競争に勝てる有利な環境にあると言える。投資による供給能力の拡大が、インフレの安定化にもつながる。
戦略投資による供給能力の拡大であるサナエノミクスを、バラマキによる需要拡大に焦点を置いたものであるとの見方や、「責任ある積極財政」に対し、財政不安が金利上昇や通貨安を招くと懸念する見方は依然根強い。そうした指摘は主に次の通りである。「物価高・円安・金利高・中東リスク下で、積極財政は利払い費の過度な増加を招く」、「日銀の利上げはビハインド・ザ・カーブで、円安是正のためにも金利引上げが必要」、「消費減税はポピュリズムであり、バラマキは短命政権を招く」、「金利上昇で債務対GDP比は再び悪化し得るため、今こそ財政健全化を進めるべきである」、「財政信認維持のために、PB黒字化は引き続き目指すべきである」、「サナエノミクスは政府主導の産業政策色が強く、重商主義的で古い」。
高市政権発足後に長期金利が上昇した背景は、グローバルな金利上昇の影響に加え、高市政権の経済政策に対する成長期待を織り込んだ動きと見るべきである。3%程度の名目GDP成長率が持続することを前提に置けば、国債の30年超長期金利が3%台で推移することは自然な水準である。「長期金利の大幅上昇は消費減税など政府の財政緩和姿勢に市場が警鐘を鳴らした証左だ」と、金利上昇を過度に恐れ、強い経済成長に必要な戦略投資が不十分となることがリスクである。内閣府の「中長期の経済財政に関する試算(成長移行ケース)」では、企業貯蓄率は2026年度の+3.7%から2035年度に-0.4%、財政収支と合わせたネットの資金需要(マイナスが強い)も2035年度に+0.4%と、過度な資金需要は見込まれていない。官民合わせた資金需要が強くない状況下では、金利急騰リスクは極めて限定的である。
同様に、金利上昇に伴う政府の利払い費の増加を懸念する指摘にも問題が多い。利払い費が増加しても、膨大な金融資産を保有する日本政府は受け取る金利収入も多く、短期金利が2%まで上昇するケースでも、OECDが試算するネットの利払費は2027年でGDP比1%程度と、OECD加盟国の中でも極めて低水準である。内閣府見通しでは、政府の利払費は2026年度13.0兆円から2035年度31.8兆円へ、2~3倍に増加する見込みであるものの、同時に一般政府収支(対GDP比)は2026年度の-0.5%から2035年度には+0.8%と、財政黒字化が見込まれている。経済成長による税収・税外収入・基金や地方政府を含めた収支改善が、利払い費増加分を上回ることが想定されているためであり、最終的に財政全体が改善に向かう見通しなのであれば、利払い費の増加は問題とは言えないだろう。
インフレや過度な円安によって日銀はビハインド・ザ・カーブに陥るとの指摘も当てはまらない。サナエノミクスは、積極財政による官民連携の国内投資の拡大で、供給能力を拡大し、経済と国力の回復を目指すものである。現在、積極財政によって経済規模が拡大を始めたことによって、国内の設備投資サイクルはまだ上向いている。官民連携の戦略投資によって、設備投資サイクルを更に大きく押し上げ、企業を異常な貯蓄超過(投資不足)から正常な投資超過に回復させ、経済停滞から完全に脱することを目指している。設備投資サイクルが上向いている間は、将来の供給能力が拡大する期待が続き、極度の円売りが起こるリスクが防がれる。極度の通貨売りは、将来の供給能力の棄損リスクや、海外からの供給に依存することによって起こるためである。
投資の拡大は、短期的には需要増で需給ギャップを押し上げ高圧経済の状態となるが、将来的な供給能力の拡大によって、インフレ安定化と潜在成長率の上昇、労働生産性の向上による実質賃金の上昇につながる。その間の家計の負担は、消費税減税を含む期間を限定する財政支援で支えることになり、決してバラマキではない。需給ギャップの0%を基準にした低圧経済の経済政策運営を見直し、企業の成長・収益期待を押し上げる。投資は短期的に需要であるため、高圧経済の方針で、需給ギャップの上振れ余地を作ることが重要となる。輸入物価の上昇によるコストプッシュと、需給ギャップやネットの資金需要の拡大によるディマンドプルのインフレを明確に区別し、拙速な財政金融政策の引締めで、投資拡大の機運を削ぐことを回避する必要がある。日銀の拙速な利上げで設備投資サイクルを腰折れさせた場合、将来の供給能力の棄損リスクによって、中長期的には円安の力がより強くなるリスクを生む。
世界の経済政策の新しい潮流は、官民連携の強化による戦略的な国内投資の拡大を通じた国力の増大である。この潮流の変化を政府のマクロ戦略に組み込むことが重要である。プライマリーバランスの黒字化目標など財政健全化路線は、政府の関与を小さくするため、新自由主義と親和性があった。将来の成長や所得を生む戦略投資であっても、プライマリーバランスの黒字化目標は、税収の範囲内に投資額を収める制約となる。仮に財政収支を一定の赤字に収めるという柔軟性があれば、歳出から債務償還費と投資的支出を除外した経常的な支出を税収の範囲内に収めても、戦略投資のための国債の発行が可能となる。戦略投資の可否は、財源の有無ではなく、国債の利払い負担を上回る便益を将来世代に残せるのかが判断基準となる。グローバルでの官民連携の戦略投資の激しい競争の中、日本だけ、無用な足かせをはめて戦えば、競争に敗れ、国力の衰退の原因となってしまう。日本が構造改革の手本としてきた米国は、これまで単純な新自由主義的政策を推し進めてきたわけではなく、防衛需要という官民連携の強固な形があったことへの認識が不足していた。ネットの資金需要(企業貯蓄率+財政収支)を-5%(GDP比)内に収めるなど、財政指標を確認しながらの適度な財政支出を実施すれば、野放図な財政拡大とは無縁である。
図1:名目GDPと国債30年金利
図2:企業貯蓄率と国内設備投資サイクル
図3:ネットの国内資金需要
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