元刑事という異色の経歴を持ち、創業からわずか4年で年商21億円を達成した株式会社トラーチ代表取締役の稲場基泰氏。太陽光発電や蓄電池の販売・施工を手がける同社は、東京都の太陽光発電設置義務化などの追い風を受け、急成長を遂げている。
同社の強みは、元大阪府警の捜査一課で培った稲場氏の経験を基にする営業力と、「少数精鋭」を掲げる徹底した社員第一主義だ。業界最安値水準を維持しながらも、社内に整体院を設けるなど、独自の健康経営を実践している。
悪徳業者をなくし、業界を適正化するために始めたコンサルティング事業「トラーチ倶楽部」の展開から、がん闘病の経験を経てたどり着いた独自の健康経営や人材育成の哲学まで、稲場氏に聞いた。
企業サイト:https://truach.co.jp/
トラーチ倶楽部サイト:https://club.truach.co.jp/
目次
元刑事としての経験を営業活動に生かす
── 東京都の太陽光発電設置義務化など、業界全体に大きな追い風が吹いています。市場拡大の波をどう事業戦略に組み込んでいるのでしょうか?
稲場氏(以下、敬称略) 東京都の設置義務化を機に、昨年は関東に2つの拠点(東京都・埼玉県)を展開しました。ありがたいことに急成長を遂げており、現在は4年目で売り上げ21億円を達成しています。
この実績を基に、2年前からは「トラーチ倶楽部」というコンサルティング事業も開始しました。リフォーム会社や工務店から「どのように売り上げを伸ばしているのか教えてほしい」という声が多く寄せられたのがきっかけです。
私たちがゼロから太陽光の会社を立ち上げ、短期間で売り上げを築いたノウハウや売り方をサポートし、商品は弊社から仕入れていただくフランチャイズモデルとして展開しています。
── 補助金の申請サポートも行っているとうかがいました。
稲場 はい。たとえば東京都では200万円ほどの補助金が出ますが、他社ではお客様任せにしてしまうケースが少なくありません。弊社では補助金の申請もすべて代行しており、そのノウハウも加盟店に共有しています。
── 稲場社長の圧倒的な「営業力」が会社の勢いを支えていると感じます。その力は、どのような経験から身につけられたのでしょうか?
稲場 私はもともと大阪府警で10年ほど働いており、職務質問などによる検挙率でトップクラスの実績を持っていました。その後、捜査一課でいわゆる刑事を務めたのですが、商談と取り調べには非常に近いものがあると感じています。
基本的に被疑者は「やっていない」「知らない」と否認や黙秘をします。そうした相手の心を開かせ、「やりました」と認めさせるのが私の仕事でした。
それに比べれば、太陽光発電や蓄電池は本当にお客様のためになる適正な商品です。良い商品を訴求してご契約いただく商談は、取り調べの経験を元にしつつもお客様に共感される喜びがあり、非常にスムーズに進められると感じました。
こうした営業のやり方を体系化し、言語化してスタッフに実践してもらった結果、現在の売り上げにつながっています。
業界最安値を実現しつつ社員を大切にする経営を実現
── 業界最安値を看板にされながら、社員への投資も惜しまれていません。両立は難しいと思いますが、なぜ「社員が宝」という経営を実践できるのでしょうか?
稲場 弊社では「少数精鋭」を掲げています。応募は多数いただきますが、採用は厳選しており、共に結果にコミットして幸せになれる人材だけが集まっています。現在、売り上げ21億円規模でありながら、社員数は30名程度です。この規模感ではなかなかない数字だと思います。
人数を絞っている分、利益はしっかりと社員に還元しています。毎年ベースアップを行い、半年に1回の昇給・賞与査定を通じて、着実にグレードを上げられる制度を整えています。
── 中間マージンの削減や、自社施工の体制も影響しているのでしょうか?
稲場 そうですね。以前は商社からの仕入れでしたが、メーカーと直接取引ができるようになり、中間マージンを削減できました。また、かつては外注頼みだった施工も自社の施工部隊を持てるようになったことで、不要なコストを抑えています。
中間マージンがなくなった分、社員の採用や教育、還元にリソースを回せるようになりました。さらに「トラーチ倶楽部」の加盟店が増えれば販売数も伸びるため、仕入れ交渉における強力な材料となり、非常に良いサイクルとなっています。
悪徳業者を撲滅し健全な市場をつくる「トラーチ倶楽部」
── コンサルティング事業「トラーチ倶楽部」について、どのような企業を対象にしているのでしょうか?
稲場 主に工務店やリフォーム会社を対象としていますが、基本的に同業者はNGにしています。
── 同業者がNGなのはなぜですか?
稲場 残念ながら、太陽光発電の業界にはあまり誠実ではない業者も存在します。実は、私の母も太陽光の悪徳業者にだまされた経験があるのです。
現在、業界では材料不足や、義務化に伴う説明不足などの課題が山積しています。そうした中で、私たちはお客様を守り悪徳な訪問販売業者を防ぐ、「悪徳業者撲滅」を掲げています。この理念に賛同し、適正価格でしっかりと提案ができる会社にのみジョインしていただきたいと考えているから、同業者NGなのです。
── 家族の被害が、事業の理念に強く反映されているのですね。
稲場 ええ。私は19歳のときに父を亡くしているため、母には最大限の親孝行をしたいと考えています。仕送りや食事、旅行など、後悔のないようできる限りのことをしています。母も今の私の姿を見て「自分の息子じゃないみたいだ」と喜んでくれていますね。
代表自身のがんの経験が「健康経営」の取り組みに
── 社内で「パーソナルトラーチ」という整体を福利厚生として導入しています。どのような経緯で始まったのでしょうか?
稲場 事務所を移転し、自社で職人を雇用するとなった際、「採用の強みになる福利厚生とは何か」を考えたのがきっかけです。事務や営業のメンバーからも「体が疲れる」という声が上がっていました。
そんな折、知人の施術師が「起業したいが資金がない」と話していたため、空いている事務所のスペースを活用して整体をやってもらうことにしました。社員は月に1回、無料で施術を受けられます。また、地域の65歳以上の方々には無料で開放しており、地域貢献やコミュニティの場としても活用されています。
── 業務時間内の利用も許可しているそうですね。
稲場 はい。人気の施術師なので夜は予約が取れませんし、社員の帰りも遅くなってしまいます。夜に施術をお願いすると施術師の時間も奪うことになるため、日中の明るい時間に行ってもらう方がお互いにとって「Win-Win」だと考えています。
月に1回、1時間程度抜けたとしても、業務に大きな支障はありません。
── 稲場代表自身の「がん」の経験も、健康経営に対する思いに影響を与えているのでしょうか?
稲場 それは大きな影響があります。健康を失ってしまっては、どれだけ成功しても幸せにはなれません。私ががんを患ったことをきっかけに、双子の弟をはじめ、社内のヘビースモーカーだったメンバー数名がタバコをやめてくれました。
喫煙はストレスの発散になるかもしれませんが、長期的に見れば健康リスクが高まります。タバコをやめられないメンバーに対しては、たとえば「3ヵ月禁煙できたら報奨金を出す」といったインセンティブ制度の導入も検討しています。社員にはずっと健康でいてほしいですから。
成長の原動力となる人材をどう採用しているのか?
── 「少数精鋭」を実現するための人材採用において、どのような点を見極めていますか?
稲場 学生時代にスポーツなどで何かに打ち込み、結果を出した経験があるかは一つの基準です。営業には「負けず嫌い」な側面や、しんどいときにもう一歩を踏み出せる力が必要です。また、断られることも多い仕事なので、常に前を向けるポジティブさも重視しています。
そして、面接の最後に必ず「今までの人生を振り返って、運が良かったと思いますか? 悪かったと思いますか?」と質問しています。
── その質問の意図は何でしょうか?
稲場 「運が良かったです。親や周囲の人に恵まれました」と前向きに、感謝の気持ちを持てる人を採用しています。逆に「運が悪かったから、ここで頑張りたい」と多責思考になっている人は、お見送りすることが多いです。荒波を乗り越えるには、ポジティブシンキングが欠かせません。
── トラーチ倶楽部を含め、他社との協業についての考えを教えてください。
稲場 これから新しいビジネスを始めたいと考えている方がいれば、太陽光や蓄電池の事業は非常にポテンシャルが高いとお伝えしたいです。義務化や補助金の追い風もあり、弊社のノウハウを活用いただければ、しっかりと成果を出せるはずです。
ただし、悪徳業者撲滅という理念に共感し、一緒に健全な社会をつくっていただける方とパートナーになりたいと考えています。
また、パートナー企業だけでなく採用やステークホルダーとの関係を考えると、何よりも健康が第一だということを伝えたいです。「ビジネスはサクセス、プライベートはハピネス」を体現できるよう、まずはご自身の健康を大切にしながら、この荒波の時代を共に乗り越えましょう。