オンラインピル診療「mederi Pill(メデリピル)」や企業向け福利厚生プラン「mederi for biz(メデリフォービズ)」を展開するmederi株式会社。2025年にレバレジーズ株式会社のグループ会社となったことで、マーケティングのインハウス化やシステム基盤の共有など、シナジーを生み出している。
同社代表取締役の坂梨亜里咲氏は、社員の9割以上を占める20~30代女性の当事者視点を生かしつつ、親会社であるレバレジーズと協力しながら BtoB事業の拡大に注力する。企業や行政をも巻き込みながら、ピルを当たり前に服用できる社会の実現や女性特有の健康課題解決を目指す同社の成長戦略と今後のビジョンについて、坂梨氏に聞いた。
企業サイト:https://mederi.jp/
目次
レバレジーズグループ入りで生まれたシナジー
── mederiは2025年、レバレジーズのグループ会社となりました。グループシナジーはどのように生まれていますか?
坂梨氏(以下、敬称略) グループ参画後は期待していた通り、特にマーケティング面での大きなシナジーを感じています。親会社のレバレジーズの力を借りることで、これまで一部を外部に委託していたマーケティング業務を、インハウス化できました。
よって、マーケティングコストの削減はもちろん、社内でより質の高い広告クリエイティブを制作し、効果的な配信が可能になっています。
オペレーション面では、mederiが先行して培ってきたロジスティクスに関するノウハウをレバレジーズが運営するオンライン診療サービス「レバクリ」に共有しています。オンライン診療事業全体で、オペレーションチームが互いに支え合う体制ができてきました。
システム開発においても、親会社の持つリソースを活用しながら、オンライン診療事業全体で共通のシステム基盤を構築する調整を進めています。
── ビジネス面だけでなく、カルチャーギャップについてはどのように対応していますか?
坂梨 本社をレバレジーズと同居させることになり、移転も行いました。就業規則や働き方の違いは当然ありましたが、mederiのメンバーがギャップを感じないよう、従来からあった規則は継続しています。
mederiは女性が多い職場ですが、レバレジーズでもライフイベントの変化に伴い育休・産休を取得して働くメンバーが増えています。先日は私がマーケティング部門の方々に「不妊治療と仕事の両立」をテーマにしたセミナーを行う機会をいただきました。ありがたいことに、レバレジーズからmederiの取締役に就任いただいている方にも、どちらか一方のカルチャーに合わせるというより、お互いが持っている知見や価値観を共有しながら、より良い組織をつくっていく関係を意識してもらっています。
「mederi for biz」でBtoBにも事業拡大
── 月経前症候群(PMS)などを抱える女性従業員支援の法人向けサービス「mederi for biz」の現状を教えてください。
坂梨 レバレジーズが顧客と築いてきた関係性を活かせる点が、大きな強みだと考えています。この連携により営業チームを編成し、営業活動を開始しています。健康経営や女性活躍推進といったテーマは日本においてまだ浸透していない側面もありますが、レバレジーズグループにジョインしてからさまざまなBtoB施策を実施してきました。
BtoBはBtoCに比べてリードタイムが長く、商材の特性上、導入が進みにくい部分もあると感じています。しかし、レバレジーズの新事業である「レバクリ 職場の健康」 や「NALYSYS」のような人事プラットフォームといった周辺サービスと組み合わせた営業も模索しており、メニュー開発の柔軟性は心強いです。
── BtoCで培った顧客理解は、BtoB戦略にどのように生かされていますか?
坂梨 BtoC事業の「mederi Pill」のユーザーは、20〜30代の働く女性が中心です。つまり、私たちが日々向き合っているユーザーの多くは、同時に企業で働く従業員でもあります。
そのため、BtoCで蓄積してきた「どんな悩みがあるのか」「何が利用のハードルになるのか」「どんなサポートがあれば継続しやすいのか」といった顧客理解を、そのまま法人向けのサービス設計にも生かすことができます。
実際に、個人でmederi Pillを利用していた方が、勤務先への福利厚生導入をきっかけに法人プランへ切り替えるケースもあり、BtoCとBtoBのターゲットが非常に近いことは私たちの強みだと感じています。
また、診療を担当する医師を産婦人科医に限定していることも、サービスを始めた当初から大切にしている点です。単に薬を処方するだけではなく、女性特有の身体の悩みを理解した医師に相談できる安心感も含めて、ユーザーにも導入企業にも評価いただいていると感じています。
── BtoBのターゲット層として、どのような企業を想定されていますか?
坂梨 大企業や一定規模以上の企業では、ダイバーシティや女性活躍、健康経営を推進する専門部署が設置されていることも多く、企業側からお問い合わせをいただくケースも増えています。
一方で、中小企業では、福利厚生としての魅力だけでなく、導入することで企業にどのようなメリットがあるのかを、より具体的に示すことが重要だと考えています。
女性特有の健康課題への支援が、従業員の働きやすさや生産性、離職防止などにどうつながるのか。今後はそうした効果をデータとして蓄積し、経営にとってのメリットまで明確に示していくことで、企業規模を問わず導入しやすいサービスにしていきたいです。
マーケティングでは男性なども参画し多角的議論を醸成
── 社員の9割以上がターゲット層である20~30代の女性という組織体制は、事業成果にどのようにつながっていますか?
坂梨 PDCAサイクルが早く回るスピード感と、ビジョンが浸透しやすい点が強みです。一貫した行動指針のもと、メンバー全員がブレずに業務へ取り組めています。
── 当事者視点が特に生きているのはどの部署ですか?
坂梨 マーケティング部門は特に大きな強みとなっています。オペレーション部門ではCS(カスタマーサクセス)が中心です。
現在は、社員全員がピルを服用しているわけではないのですが、むしろ、服用していないメンバーの視点から見た広告クリエイティブや訴求方法も重要だと感じるようになりました。
一方、服用経験のあるメンバーからは乗り換えのきっかけや対面診療との併用といった視点で意見が出たりと、多角的な視点での議論ができています。
── 価値観の偏りを防ぐために、どのような工夫をしていますか?
坂梨 マーケティングでは、さまざまな立場の方の意見を取り入れています。男性の担当者から、女性メンバーだけでは気づかなかった視点をもらうこともあります。大切にしているのは、性別によって意見を分けることではなく、多様な視点を取り入れたうえで、最終的にユーザーである女性がどう感じるかを基準に判断することです。
── 採用における母集団の小ささやライフイベントによる人員変動にはどう対応していますか?
坂梨 当社はもともと少人数で運営できるビジネスモデルを構築しており、システム化や自動化を進めることで、ヒューマンエラーを防ぎ、人に依存しすぎない体制をつくっています。
これまで出産・育児が重なる時期には、一時的に人員体制を強化する必要もありましたが、今後は社員がライフイベントを迎えた際にも、在宅勤務などを活用しながら柔軟に働き続けられる環境を整えていきたいと考えています。
また、親会社であるレバレジーズには約4000名の従業員がおり、社内公募制度などを通じて、必要に応じてオンライン診療事業全体の人材を補強できるようになったことも、グループ入りによる大きな変化です。
坂梨代表による社会への働きかけ
── フェムテック振興議員連盟へのロビー活動や、事業の枠を超えた社会意識改革への取り組みについて、事業運営との時間配分はどのようにされていますか?
坂梨 政策提言や社会への啓発活動は、短期的に成果が出るものではないので、長期的な視点で継続して取り組むことが大切だと考えています。私自身の時間配分としては、全体の1〜2割程度です。
また、mederiだけで啓発活動をするのではなく、福利厚生としてサービスを導入いただいた企業が、女性の健康課題について社内外に発信してくださることも、社会の意識を変えていく一つの力になっています。
── ロビー活動の方向性について教えてください。
坂梨 私たちが政策提言で重視しているのは、女性の健康経営推進やフェムテックやヘルスケア領域の活性化につながることです。たとえば、フェムテックサービスを福利厚生として導入する企業への奨励金や税制優遇など、企業が女性の健康支援に取り組みやすくなる仕組みを提案しています。
こうした制度が広がれば、企業による女性の健康支援が当たり前になり、結果として業界全体の活性化にもつながると考えています。
── 利用率向上の観点から、教育的なアプローチについてはいかがですか?
坂梨 プレコンセプションケア(性別を問わない若い世代が性・健康に関する知識を身に付け、ライフプランを考えること)には政府も力を入れていますが、mederiでも全国の小中学校・高校を対象に、産婦人科医とともに性や身体について学ぶ出張授業を行っています。
大切なのは、ピルを飲むこと自体を目的にするのではなく、若いうちから自分の身体について正しい知識を持ち、必要なときに適切な選択肢を選べるようにすることだと考えています。
今後、企業へのヘルスケアサービスの導入がさらに広がっていく中で、こうした教育や啓発にもより力を入れていきたいです。
── 法人導入が増えることで、ピル利用者は増えると想定していますか?
坂梨 利用のハードルの一つは費用です。福利厚生によって自己負担が軽減されれば、必要としている方が利用しやすくなり、継続にもつながると考えています。
一方で、費用だけではなく、副作用への不安やピルそのものへの抵抗感など、情報不足による心理的なハードルもあります。企業でのセミナーなどを通じて継続的に正しい情報に触れる機会が増えることで、「自分にもこういう選択肢があるんだ」と知ってもらうことができます。
生理痛やPMSなどの不調があっても、「仕方がない」と我慢している女性はまだ少なくありません。ピルに限らず、必要に応じて医療に相談するという選択肢が当たり前になり、不調を抱えたまま諦める女性を減らしていきたいです。
── 20~30代女性にとって、月々約3500円のピル代は生活インフラとのトレードオフになるという話もありました。
坂梨 現状では、「飲まなくても生活できるもの」として、どうしても優先順位が下がりやすい側面があります。
ただ、生理痛やPMSなどによって毎月仕事や日常生活に影響が出ている方にとっては、自分のコンディションを整えるための選択肢の一つです。女性が自分自身の健康にお金や時間をかけることを後回しにせず、必要なケアを自然に選択できる社会になってほしいと思っています。
「服用率の向上で国力向上へ」
── ピルが当たり前の社会に向けて、今後5~10年で取り組みたいことを教えてください。
坂梨 これからは、個人にサービスを届けるだけではなく、企業や行政を含めて社会全体を巻き込んでいくフェーズだと考えています。BtoCだけでなく、BtoB、BtoGへの取り組みをさらに広げていきたいです。
女性活躍推進や健康経営への関心が高まる中で、女性特有の健康課題を個人だけの問題にせず、企業や社会全体で支える環境をつくっていくことが重要です。
目指しているのは、単にピルの服用率を上げることではありません。メリット・デメリットを含めた正しい情報を届けたうえで、女性が自分の身体やライフプランに合わせて必要な選択をできる社会にしていきたい。その結果として、女性が健康とキャリアを両立しやすくなり、社会全体の活力にもつながっていくと考えています。
── 他社との連携は、どのように考えていますか?
坂梨 女性の健康課題は、ピルや生理だけで完結するものではありません。保険や美容をはじめ、20〜30代女性の生活を支えるさまざまなサービスと接点があります。自分たちにできない領域については積極的に他社と連携していきたいです。これまでピルや生理、PMSといったテーマに関心がなかった方にも情報を届けられるよう、接点やチャネルを増やしていきたいと考えています。
── ピルが当たり前の社会になるために、経済的な側面以外で、どのような発信や取り組みが必要だと考えていますか?
坂梨 ピル単体というよりも、まずは婦人科そのものに対するイメージを変えていくことが重要だと考えています。
日本では、何か症状が出てから婦人科を受診する方も多いですが、本来は自分の身体について日常的に相談したり、定期的にチェックしたりできる場所であってほしいと思っています。
婦人科を「何かあったときに行く特別な場所」ではなく、もっと気軽に相談できる場所にしていきたい。その入り口として、オンライン診療やLINEなどを活用しながら医療との接点を増やし、必要に応じて対面診療につなげていく。
オンライン診療や公式LINEでの相談窓口などを通じて、きっかけづくりを行い、対面診療とオンライン診療を適切に組み合わせながら、女性がすこやかな人生を送れるよう支援したいです。
- 氏名
- 坂梨亜里咲(さかなし ありさ)
- 社名
- mederi株式会社
- 役職
- 代表取締役

