岸田先生講演-4

(この記事は2015年6月8日に「 Biglife21 」掲載されたものです。)

このコラムは虎ノ門会での講演を再構成したものになります。

中小企業庁の「中小企業白書」には、事業承継難にある中小企業がどこに相談を出すかの統計が書いてある。相談相手として一番多いのが、税理士だという。普段からお付き合いのある税理士が一番相談しやすい、これは言い換えれば、ニーズが真っ先に入ってくるのが、税理士だと言える。私も長年の税理士の活動を通して実際にそう思う。

このソースを上手く活用してビジネスをしているのが株式会社日本M&Aセンター(東証一部上場 証券コード:2127)だろう。税理士のネットワーク化に成功したからこそ、業界のジャイアントになったのだ。


仲介業は本来望ましくない

ところで、企業間のM&Aを仲介する業務には、「仲介」と「アドバイザリー(FA)」の二種類がある。両者の違いは、基本的には、利益相反が有るか無いか。仲介は、企業を売りたい売り手(セルサイド)と買いたい買い手(バイサイド)双方を仲介する業務。FAは、片方の企業につく業務だ。

ちなみに、M&Aの仲介では、両手取引が横行している。売り手、買い手双方から利益を取っているのだ。不動産の仲介業務と同じと思ってもらっていい。ただ、この先も、仲介業における両手取引が維持されていくのかは不透明だ。というのも、民法では、契約の自由を原則としながらも、双方代理の契約を基本的に禁止している。法的に禁止されてはいないが、金融庁の検査対象に上がってはいる。

この点は、服部暢達先生も『M&Aの成長戦略』(東洋経済新報社)の中で、両手取引はいけないと書かれている。学術的にも、理論的にも、あまりよろしくはないということだ。

仕事としても、売り手買い手双方をマッチングさせるところまでしかできない。その先の条件交渉は本来できないのだ。これは、仕組上できない。というのも、双方に利益を計る必要があるから、基本的には、情報の伝達、コミュニケーションを図るという範疇でしか話を進められなくなる。


投資銀行が買い手FAに付きたがる理由

一方、アドバイザリーは売り手か買い手、どちらか片側のクライアントの利益最大化とリスク最少化を行う必要がある。売り手側の役員の責任(役員の善管注意義務を果たす)という意味では、仲介よりもFAアドバイザリー業務になるケースが多い。

金融機関は、基本的に買い手のFAに付きたがる習性がある。あたりまえだ。企業の買収費用を貸す口実ができるのだから。だから、買い手のFAに付くことに一生懸命なのだ。

ちなみに、投資銀行が高い報酬を取るのはやはり、このFAに徹しているから。特に高い専門性が求められる法務・財務に関して、専門家をアレンジして、さらには交渉もうまく誘導して、鋭い助言が出来るという名目なのだ。


ニーズの異なる大企業と中小企業のクライアント

ところで私はアドバイザーを長いことしているが、この世界は面白く、大企業と中小企業では、クライアントが求めるモノが変わるのだ。昔SMBCにいた頃は、中小企業の事業承継案件をやっていた。その後、みずほに移った頃は投資銀行として、大企業のM&Aを行うことが多かった。

大企業と中小企業では、何が違うのか。中小企業の事業承継の際は、個人オーナーの株の売買が多かった。つまり、社長本人と向き合う業務だ。

一方、大企業の案件は、法人が持っている子会社株式の売却なのだが、クライアントの担当者は事業部長になる場合が多かった。「M&A担当役員」とか肩書がついているのだが、彼らは結局サラリーマンで、自分の資産と直結した話ではない。

つまり、自分の職務をきちんと遂行出来ることが彼等の要望であることが多かった。そうすると、「手続きをきちんと細かく、連絡は密に」。これが求められるのである。極論を言えば、別に、買うか買わないかの結果はそこまで重要視されていない。

その一方で、中小企業の事業承継案件は、対オーナー。オーナーの方の個人の財産の話になってくるので、プロセスよりも結果を求められる。結果が全てだから、如何に高く売るかについてのアドバイスを求められる。


FAに求められるものとは

FAとしての経験値が問われるのは、こうしたクライアントの要望がどこに置かれているのかを理解して、求めるものを提供できるかどうか。それができるのが、理想的なFAだと思う。オーナーは、業者やアドバイザリーに相談したら売らされる方向に持っていかれる懸念や不安を持っている。そうした不安を取り去るべく、何をするのがいま一番いいのかを含めてアドバイスできるFAを見つけることだ。(提供: Biglife21

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