(写真=PIXTA)
金融資産1億円以上の富裕層に「出国税」が課税される?
このところ富裕層をターゲットにした増税ラッシュが続いています。2015年1月から実施された相続税の課税強化もそのひとつですが、続いてこの7月からは「出国税」も導入されることになります。
出国税というのは、金融資産額が1億円を超える人が海外に住所を移す場合、保有している株式や未決済のデリバティブ取引などに対して「決裁(売却)しなくても、その含み益に課税する」という制度です。
現在、日本国内で株式などを購入して売却すれば譲渡益(売買利益)の20%が所得税(15%)と住民税(5%)として課税される仕組みになっています。ところが、世界には香港やシンガポールなどのように、株式などの譲渡益に対して非課税の国や地域もあります。日本で株式を保有していても、こうした国や地域に移住して売却すれば現地の税制が適用されることになり20%の税金を逃れることになるわけです。
こうした安易な課税逃れを避けようとして導入されたのが「出国税」ですが、すでに米国や英国、ドイツ、フランスなど主要国で導入されています。
税率は、国税(所得税)分の15%のみ。地方税に当たる5%は課税されません。ちなみに、出国日までの10年以内に、日本での居住者だった期間が5年超である人が対象になるために、海外からの旅行者などは対象外になります。
2000万円超の所得がある人は「財産債務調書」の提出が必要に
一方、出国税の導入に続いて注目されているのが「財産債務調書」の提出です。かつて「財産債務明細書」と呼ばれていた制度ですが、15年度税制改正によってより厳しい制度になって強化されました。
対象は、「その年の各種の所得金額の合計が2000万円を超える人」で、さらに「その年の12月31日の時点で保有する財産が3億円以上であること、または国外転出をする場合の譲渡所得など特例の対象資産の合計額が1億円以上ある人」になります。直接の課税強化ではありませんが、富裕層の保有資産を把握する、さらなる第一歩になりそうです。
簡単に言うと、「年間所得が2000万円を超えていて、不動産や預貯金なども含めた全財産が3億円超、もしくは国外に住所を移した人で株式などの有価証券等を売却して1億円を超える金額になる人」は、確定申告時に財産債務書を一緒に提出しなければならない、というわけです。
罰則規定はありませんが、修正申告をした時に過少申告加算税などが加算されるといったペナルティーもあります。今回の改正は、16年1月1日以降の調書に適用されますが、財産または債務の種類を事細かに記載しなければならず、事務的な負担増につながります。富裕層にとってはますます負担が増すと言われていますが、詳細は税理士や公認会計士などの専門家に相談してください。
ちなみに、財産債務調書の対象にならない人でも、その年の12月31日の時点で国外に5000万円を超える財産を保有している人は、その年の翌年の3月15日までに「国外財産調書」を提出することが義務付けられています。故意に提出などを怠った場合は、1年以下の懲役または50万円以下の罰金という罰則規定が適用され、15年1月1日以降に実施されることになりました。
出国税、財産債務調書ともに富裕層の資産に対する課税強化、監視強化となりますが、1000兆円を超す財政赤字を抱える日本政府が富裕層をターゲットにしてなんとか課税強化しようとしている意向が読み取れます。とりわけ、こうした課税強化に対応して海外に資産を移そうとする動き、いわゆる「資産フライト」に対しては、日本政府の並々ならぬ覚悟が見え隠れします。
資産補足の切り札となる?「マイナンバー制度」導入
15年10月から国民ひとりひとりに配布される「マイナンバー」も、富裕層の課税強化につながる制度と言っていいでしょう。マイナンバーとは、「社会保障・税番号」とも言いますが、住民票を持つ国民一人一人に一つの番号を配布するもので、保険や医療、年金などの福祉サービスの分野で活用されるほか、国民の資産や所得の把握に用いられて所得税や住民税などの課税の際に使用されることになる予定です。
内閣府の経済諮問会議でも、金融資産の保有状況などを把握し、医療費の負担割合なども、資産に応じた支払いシステムに転換していく方向性が議論されています。マイナンバー制度は「法人」に対しても番号が付与されますが、銀行などの金融機関では法人、個人を問わず預貯金を管理するのにマイナンバーが使われることになります。確定申告などの納税システムでは無論のこと、健康保険制度でもマイナンバーとの連携が行われていくことになります。
マイナンバー制度導入に合わせて、自分の番号がどういう使われ方をしているのかを閲覧することができる「マイポータル」という制度が導入されることになっていますが、富裕層であればあるほど、自分のマイナンバーどう使われているのかを確認しておくべきかもしれません。
すでに導入されている米国では、他人の番号を悪用する「なりすまし被害」が3年間で1000万件にも達したというデータもあります。自分の財産を守るという意味でも、マイナンバーをきちんと把握、管理することが大切と言えます。 (提供: ファイナンシャルスタンダード株式会社 )
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