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(森永卓郎(獨協大学教授)/画像=THE 21 ONLINE)

格差が拡大する時代の「お金との付き合い方」とは

日本は本当に好景気なのだろうか? 株価は上がっても、私たちの暮らしは良くなるのだろうか?森永卓郎氏に聞くと、「今は確かに好景気。でも、大多数の人の暮らしは良くならない」とのこと。これからの時代、「お金と暮らし」についてどのように考えていけば良いのか、お話をうかがった。

2017年4月まで日本経済の好調は続く

今年5月15日から6月1日まで日経平均株価が12連騰を記録するなど、好調をキープしている日本経済。しかし、読者の中には、「自分はその恩恵をまったく受けていない」と感じている人も多いはず。森永卓郎氏は、日本経済の現状と先行きを、どのように見ているのだろうか。

「今の日本が好景気であることを実感できていない人は多いでしょうね。でも、景気が良いのは紛まぎれもない事実です。去年は消費税増税後の消費の落ち込みなどで、5年ぶりにGDPがマイナス成長となりましたが、今年はかなりの勢いで盛り返してくるでしょう。

その要因として、今年の春闘では、大企業で大幅な賃上げが相次いで実現したことが挙げられます。基本給だけではなく、ボーナスも昨年を上回るのがほぼ確実です。一方、物価については、原油価格の暴落という『神風』にも恵まれて、あまり上がっていません。収入はアップしたのに、物価は変わらないわけですから、消費が活発になり、景気が良くなるのは当然のことです。

また、株価も今年に入って上昇を続け、6月1日には東証一部の時価総額が史上初めて600兆円を超えました。80年代後半のバブル期の時価総額を上回ったのです。

そのため、『今の株価はバブルの状態にある』と指摘する人もいます。しかし、私はそうは考えていません。25年前のバブル期と比べると、東証一部上場企業の数は6割も増えています。数が増えているのだから、少し景気が良くなれば時価総額が当時を超えるというのは、それほど異常なことではありません。

今の日本の株価をPBR(株式時価総額÷純資産)で見てみると、1.6倍程度です。他の先進国のPBRは平時で2倍程度ですから、むしろ日本の株価は割安の状態にあると言えます。多少勢いが落ちるとしても、今後も株価はじわじわと上がり続けるだろうというのが私の見立てです。

日本経済の失速が始まるのは、消費税が再度引き上げられる2017年4月以降だと予想しています。それまで日本経済は、束の間の晴れ間を満喫することができると思います」

富める者と貧しい者の格差が拡大していく

日本経済の好調が続くとしても、問題は、それを実感できていない人が多いということだろう。

「そうなんです。実は、好景気の恩恵を受けているのは、大企業に勤めている一部の人たちだけです。私は先ほど、今年の春闘で大幅な賃上げが実現したと述べましたが、それはあくまでも大企業での話。中小企業の賃上げ率は、今年もほぼ0円でした。昨年も、従業員500人以上の企業の賃金上昇率が1.8%だったのに対して、30人未満の企業は0.0%。だから、『好景気というが、私のところはあまり変わっていないぞ』という人が多いのです。

では、中小企業に勤めている人たちは、これから少しは大企業のおこぼれにあずかることができるかといえば、残念ながら、それはまず無理でしょう。というのは、安倍政権の経済政策は、勝ち組と負け組の二極化が極端な米国型の経済社会を志向しているからです。大企業と中小企業の賃上げ率の差を見てもわかるように、すでに富める者と貧しい者の格差が明らかに進んでいます。

また、今後、格差は一つの企業の中でも進行していくことが予想されます。米国では、同じ銀行に勤めている人でも、M&Aや投資業務に携わっている人が億単位の年収をもらっているのに対して、窓口で顧客対応に当たっている人の年収はせいぜい1万5,000ドル程度。200万円にも届きません。日本でも、これからは同じ企業に勤めている人の間での格差が生まれます。大企業で働いているからといって、安泰ではないのです。これからの日本社会は、中間層が消滅して、少数の超エリートと大多数の低所得者層という構図になっていきます」