インフレの安定と利下げ効果で内需主導の成長が続く

インドの成長率は前期から低下し、何とか7%台を確保する期待外れの結果となった。しかし、GDPを需要項目別に見ると内容は悪くない。政府消費と投資は改善したほか、個人消費は高い伸びが続いており、輸出の減少幅も前期より縮小している。

誤差は説明できないが、貴重品の低下については、昨年5月に金の輸入規制を緩和した影響が一巡したこと、また今年2月に同規制の撤廃で上振れた前期からの反動減が背景にあると見られる。今後も物価をうまくコントロールできれば、内需主導の経済成長が期待でき、ポスト中国としての評価が高まるだろう。

GDPの約6割を占める個人消費は引き続き景気の牽引役となっている。4-6月の消費者物価指数の伸び率は前年比5%前後と年明けから原油価格が底入れしたにも関わらず、低水準が続いた(図表3)。

低インフレによる家計の実質購買力の向上が、個人消費の高い伸びに繋がった。また投資が2期連続で改善した点は好感できる。貸出残高とマネーサプライの伸び率はそれぞれ今年3月、4月の底打ち後に上昇しており、資金需要は改善に向かいつつある(図表4)。

しかし、年明けからの0.75%の利下げ幅に対して、貸出基準金利は商業銀行の不良債権問題が燻るために0.275%しか引き下げられておらず、投資の拡大ペースが大きく加速するとは見込みにくい。

先行きについては、物価は原油安による押し下げ効果が一巡する上に南西モンスーンの雨不足で食料インフレ懸念が燻っており、9月から物価上昇に転じるだろう。しかし、穀物の緊急輸入や備蓄穀物の放出など政府の予防措置が見込まれ、中央銀行のインフレ目標「2016年1月までに6%」が達成されるなど、安定したインフレ環境が続くと見られる。

また9月の金融政策会合では0.25%の利下げが予想され、住宅投資や耐久財消費の拡大が見込まれる。さらに今年度予算で拡充されたインフラ支出も引き続き内需を押上げることから、景気は堅調に拡大するだろう。

経済成長のスピードをもう一段引き上げるには、税制や土地や労働市場などの諸改革を実行する必要がある。しかし、上院と下院のねじれのために夏季議会では改革法案を成立することができず、来年4月を目指したGST導入は遅れる見込みだ。

与党連合が上院で過半数を取るには州議会選挙で勝利を重ねる必要があり、当面は抜本的な改革は見込みにくい。新政権に対する期待が徐々に剥落するなか、外資系企業を中心に投資意欲が弱まる可能性には注意が必要だ。

インド 図3-4

(*1)8月31日、インド中央統計機構(CSO)が国内総生産(GDP)統計を公表。
(*2)Bloomberg調査

斉藤 誠
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 研究員

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