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(写真=PIXTA)

前回のレポートで、シルバーウィーク中の米国株式市場は戻りを試す展開ではないか、と述べた。残念ながら予想とは正反対に軟調な展開となった。

半値戻しが目前に迫っていたS&P500は、先週金曜日の取引時間中に一時2000の大台を回復したものの、その水準を維持できずに半値戻しは達成できなかった。結果として長い上ヒゲを引いた陰線で終わり、いかにも三角保ち合いの上放れもここまで、といった印象の悪いチャートとなった。

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果たして、その後は再度下値模索の動きとなっている。「フォルクスワーゲン・ショック」などの悪材料も重なったが、基本的に、「漠たる不安心理」が市場を覆い、弱気が蔓延しているようだ。

典型的だったのは昨日23日の米国市場。アジア時間に発表された中国製造業PMIが予想を下回る悪化を見せたことからアジア株市場が全面となった。しかし、欧州株式相場はその悪い流れを断ち切って大幅反発で始まった。それを受けた米国株式市場も買い先行で始まったものの、すぐに下げに転じ、ダウ平均は一時120ドルも下げる場面があった。

結果としてシルバーウィークの期間中、ダウ平均の下げは390ドル余りに及んだ。これを受けてシルバーウィーク明けの日本株式市場も大きなギャップダウンで始まった。

日経平均が1万7500円を割り込んで安値をつけた翌日の9日、1300円超の急騰を演じたが、その大きな陽線のなかで動いてきたが(つまりずっと孕み足が続いてきたが)、24日10時現在は9日の安値を下回り、孕み足の範囲から下放れている。再度、1万7500円を割り込んで安値を試す場面も今後あり得るものと覚悟しておいたほうがいい。

繰り返し述べていることだが、今の相場はセンチメント(投資家心理)だけで動いている。センチメントというのは、つまりは「気分」だから「理屈」などない。「なんとなく不安」「なんとなくパっとしない」そんな気分だけで売られてしまう。まあ、相場というものは、気分8割で理屈はせいぜい2割がいいところだから、それをいまさらとやかく言っても始まらない。

問題はいつ落ち着くかということだ。これも前々回のレポートで述べたと思うけれど、4-9月期の決算発表で業績の堅調を確認すれば、懸念が行き過ぎだったとわかって相場も戻すであろう。

中国景気が減速しているのは間違いない。しかし、それで世界景気が不況に陥るとか、日本企業の業績に甚大な影響が出るといった悲観論は行き過ぎである。

例えば、連休前に発表されたロイターの企業調査では、「中国減速で製造業の7割が収益懸念」というのがニュースのヘッドラインだった。でも実際にどういう影響がでているかと訊くと、特に影響がないが逆に6割以上。非製造業に至っては約9割の企業が影響ないと回答している。

「懸念はあるか?」と訊かれれば「懸念はある」と答えるが、ビジネスにはそれほど影響が出ていないのが実態である。この7-9月期の収益はどうかという質問には「下振れ」と答えたのが24%で、ニュースで取り上げられたのはこの部分のみ。残りの4分の3は計画通り、または上振れと答えている。

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中国減速は大きな問題か否か。ことの真偽は企業自身が発しているメッセージを聴くのがいちばん確実だろう。

先日、空気圧機器で世界シェア3割を握るSMCの中国ビジネスが日経電子版で報告されていた。

<同社の中国事業が全体として悪いととらえると見誤るだろう。薄井郁二専務取締役は「中国はスマホ関連が良くないが、自動車や電気機器などの投資は好調を維持している」と語る。>
(SMC、成長のカギは中国「生産革命」9/17付日経電子版)

ところがそのスマホ関連も実はそんなに悪くない。「先読み天気ビジネス」で電子部品を取り上げた昨日の日本経済新聞はこう伝えている。

<「中国のスマートフォン市場が大きく変調したという感覚はない」。高水準の受注が続く村田製作所の藤田能孝副社長は計画通りに生産、販売が進んでいると強調する。>

<8月からは米アップルの新型スマホ「iPhone6s/6sプラス」向け部品の量産が本格化している。「10~12月期のスマホ向け受注は引き続き堅調に推移する見通し」(TDKの上釜健宏社長)との見方が多い。>

確かに中国のスマホ市場は飽和状態にあり伸びは鈍化する。しかし、それはスマホ関連がすべてだめになるということではない。スマホ市場のなかでも選別が進むということだ。これは中国経済/ビジネスの全般について言えることだが、だめな業種/好調な業種がはっきりするとともに、その業界のなかでも優勝劣敗がはっきりしてくるということである。

中国景気の減速で下方修正した代表例がファナックだが同じFA関連でもキーエンスは決算発表時に中国減速の影響はないと述べたと報告されている(JPモルガン・アナリストレポート)。

花王の沢田道隆社長は7月末の会見で中国事業について「消費財の購買に大きな影響は出ていない」と述べた。

極めつけは、先日フランクフルトで開かれた国際自動車ショーに集まった自動車メーカーの首脳が、そろって楽観的な見通しを示したことである。中国の自動車販売の不振がこれほど伝わるなかで、当事者である自動車首脳は強気を崩さない。

カルロス・ゴーン・ルノー/日産CEOはこう語る。「私は中国市場に関して悲観主義者ではない。今まで急激な成長を続けてきており、それが穏やかになるのは驚くことではない。中国市場の状況は今は良くないのは事実だが、一時的な動きとみている。来年には多少上向くだろう。(日産に続き、ルノーも16年に現地生産するなど)中国に関する計画で、縮小を検討しているものはない」

自動車と言えば、(自動車産業ではなく)金融大手JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモンCEOの発言をロイターが報じている。18日、投資家との業績カンファレンス・ミーティングでダイモンCEOは、中国経済の成長減速について「自動車を減速させるために路面に作られた隆起」と表現。成長率が5%になっても、「世界に破壊的な影響をもたらさない」との見方を示したという。

実際に中国で事業をおこなっている企業200社以上が回答したアンケートや個社名・個人名入りのコメント等から読み取れることは、中国景気は減速しているのは確かだが、それが企業業績に与える影響は限定的だというものである。

あなたはルノー日産のカルロス・ゴーン氏やJPモルガンのジェミー・ダイモン氏など一流経営者の発言を信じますか?それとも、おそらく中国にいったこともないであろう数多の「市場関係者」が発する、その場の雰囲気に流されたようなコメントを信じますか?

広木隆(ひろき・たかし)
マネックス証券 チーフ・ストラテジスト

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