ポイント解説:企業年金の新たな選択肢

日本では、諸外国と比べて企業年金が普及していません。そこで先月の企業年金部会では、企業年金を実施しやすくするために、確定給付企業年金制度に関する新たな選択肢が、厚生労働省から提案されました。本稿では、その概要(*1)と今後の注目点を確認します。

◆リスク対応掛金:将来の財政悪化に備えて掛金を事前に拠出。今後の焦点は税制上の扱い。

提案の1つは、掛金に関するものです。現在の確定給付企業年金制度では、景気が悪化して積立金の運用がうまく行かずに年金財政が不均衡な状態になると、企業が掛金を追加して穴埋めする必要があります。しかし、景気が悪いときは企業も苦しいため、追加の掛金は大きな負担になります。

そこで今回、想定される積立不足の範囲内で事前に掛金を拠出して、財政悪化時の負担を平準化できる仕組み(リスク対応掛金)が提案されました。この仕組みを利用する場合は、年金財政の健全度判定に許容範囲が設定されるため、企業の負担が景気の影響を受けにくくなります。

欧州では、企業年金に事前の資本的な余裕を求めるという、今回の提案に似た動きが見られます(*2)。その一方で、リスク対応掛金が損金扱いになると税収が減るため、今回の提案には財務省の反対が予想されます。年末の税制改正の決定に向けて、今後の動向が注目されます。

年金改革ウォッチ 図1

◆リスク分担型給付:年金財政の状況で給付が変動。今後の焦点は労使合意と会計上の扱い。

もう1つの提案は、給付に関するものです。伝統的な確定給付企業年金制度では、給付(年金額)の計算方法が固定されています。そのため、年金財政が悪化した場合には、企業が積立不足を穴埋めする必要があります。

今回の提案(リスク分担型給付)は、年金財政の状況に合わせて給付を変動させて、財政悪化時に企業が追加拠出を回避できる仕組みです。加入者にとっては、財政好調時に給付が増えるメリットがあるものの、給付が減る可能性もあるため、労使合意を得られるかが課題です。

また、企業の追加負担が回避される点を踏まえて、この制度を企業会計上は簿外にする取扱いが模索されています。オランダに先例(*3)がありますが、日本でどう判断されるかが注目されます。

年金改革ウォッチ 図2

(*1)詳細は、梅内俊樹(2015)「リスク分担型DB(仮称)の導入意義とは」『基礎研レポート』2015/09/17を参照。
(*2)詳細は、安井義浩(2015)「年金基金版?ソルベンシーII」『基礎研レター』2015/09/29を参照。
(*3)詳細は、前田俊之(2015)「第3の企業年金をどう考えるか(その2)」『基礎研レター』2015/09/09を参照。


中嶋 邦夫
ニッセイ基礎研究所 年金総合リサーチセンター

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