アウトプットイメージがないと効率が悪くなる
30代で米国の世界的コンサルティングファームに転職した梅澤氏。グローバルエリートたちの仕事のスピードについていくために、どんなことを心がけてきたのだろうか。
「常に留意してきたことは、最終的なアウトプットのイメージを早く持ち、そこに到達するための道のりを考えて仕事を進めることです。プレゼン資料を作るにしても、『相手は誰で、届けるべきメッセージは何か? 獲得したい目標は何か?』をまず考える。クライアントへの提案、一般聴衆向けの講演、テレビでの1分間のコメントと、シチュエーションが変われば目標も異なり、その結果、適切な伝え方も変わってきますから。
最初に明確なアウトプットイメージ、すなわち仮説を持って作業を設計しないと、極めて効率が悪いことになるわけです」
では、アウトプットイメージ、つまり仮説を早く作り出せるようになるには、どうすればいいのだろう。
「それについては、手っ取り早い『魔法の杖』は残念ながらありません。ただ、仮説構築が得意な人に共通していることはいくつかあります。
1つは、引き出しの数が多いこと。経営コンサルタントの世界で言えば、クライアントの業種や企業規模、プロジェクトのテーマなど、タイプの異なる仕事の経験を豊富に積んでいる人は、仮説構築が速くて、的確です。
もう1つは、『know who』です。アウトプットイメージは自分1人で作らなくてもいいわけです。『このテーマならあの人!』と言えるような一流の専門家や、ブレインストーミングのパートナーになり得る人のネットワークが、仮説構築には大いに役に立ちます。
3つ目としては、好奇心が強くて頭が柔らかいこと。アイデアのネタになる情報に触れても、アンテナが立っていなければスルーしてしまいますから」
好奇心が強いとは、「面白がる力」があるということ。面白がることが仕事のスピードをアップしてくれるというわけだ。だからこそ、感性の柔軟性を失わせるような働き方を脱却する必要がある。
「私は、長時間労働は苦手です。睡眠時間もなるべく確保するようにしていますし、朝晩20分ずつの瞑想でリフレッシュすることも欠かしません。
多くの仕事をこなしながら、高い成果を出しているハイパフォーマーは、みんなこうした『リセット』をする場を持っていると思いますよ。瞑想に限らず、運動でも、風呂でも、やり方は人それぞれでいいと思います」
「AI」のスピードに負けないためには?
仕事のスピードは上がるに越したことはない。だが、それよりも大切なことがあると梅澤氏は指摘する。
「今後、AI(人工知能)がどんどん進化すれば、AIに取って代わられる仕事が増えます。AIができる仕事では、人間は絶対にスピードでかなわない。効率ではなく、新しい価値を生み出せるかが、人間の勝負どころになってくるはずです。個人、あるいはチームとして、どれだけ創造性のある仕事ができるか、ということです」
創造性と言うと難しく思えるかもしれないが、決して特別なことではない。
「たとえば、『こんなのはどう?』『面白いね。詳しく聞かせて』といった何気ない会話のやり取りの中でアイデアを発展させていくスキル。あるいは『この人とこの人を会わせたら何か起こるかも』という発想ができ、実際に人と人との化学反応を引き起こすハブになれること。こうしたことは人間にしかできない仕事です」
そうして自分とチームの創造性を引き出せれば、スピードは自然についてくる。
「やる気のない『やらされ仕事』と、『これは面白い!』『この人と仕事がしたい!』といった想いがある仕事。生産性に決定的に差がつくのは当然ですよね。仕事の面白さで、生産性に10倍の差がつくことは珍しくありません。
とくに新しいアイデアを生み出したいときには、チームのうち何人がこの『生産性10倍』の状態になっているかが勝負。
自分自身も仕事を面白がりながら、面白がれるメンバーを集めたチームで、ポジティブな化学反応を起こしていくようなリーダーシップが、ますます重要になっていくでしょうね」
梅澤高明(うめざわ・たかあき)A.T.カーニー日本法人会長
1962年生まれ。東京大学法学部卒業。マサチューセッツ工科大学経営学修士。日産自動車〔株〕を経て、A.T.カーニーに入社。日米で20年にわたり、戦略・マーケティング・組織関連のコンサルティングを実施。『ワールドビジネスサテライト』(テレビ東京系)コメンテーター。グロービス経営大学院客員教授。クールジャパン関連の政府委員会で委員を務め、戦略の立案・推進で政府を支援。内閣府「税制調査会」特別委員。著書に『グローバルエリートの仕事作法』(プレジデント社)など。
(取材・構成:川端隆人 写真撮影:永井浩)(『 The 21 online 』2016年1月号より)
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