◯富裕層は反発するか?〜アルノー氏のベルギー国籍取得〜
インパクトの大きな増税であり、フランスだけでなく周辺国に対しても波紋を呼んでいます。
今回の増税は所得税だけでなく法人税でも33%→35%と増税が予定されています。イギリスのキャメロン首相は、「こうした増税から逃れようと考えるフランスの個人や企業を大歓迎する」とアピールしました。
それに対して、オランド大統領もキャメロン首相を名指しこそしないものの「どこかの誰かとは違い、わたしは他人を困難な立場に置く考えはないし、非難することも遠ざけることもしない」と発言。「これは考え方の問題だ。高貴な精神と責任感を持つということだ」と続け、キャメロン首相の発言を牽制するという一幕もありました。
このような状況の中で報じられたのが、LVMHのCEOベルナール・アルノー氏のベルギー国籍取得申請のニュースです。
ベルギーは所得税だけでなく相続税の税率も低いため、節税目的での海外脱出ではないかと見る向きが多く、批判を集めています。
参考:お勧め記事の紹介「オーナー経営者がこぞって企む相続税節税の㊙テクニック」~週刊ダイヤモンド2011/10/08より〜
オラント大統領もテレビ番組にて「他国の国籍取得を目指すことが何を意味するか、よく考えるべきだ。国家から恩恵を受け、また国家に返すことが愛国心だ。全員が納税の役割を果たさなければならない」と訴え、アルノー氏を批判しました。
またマスコミはもっと直接的に、(やや下品な言葉も含めて)アルノー氏を激しく非難しています。
これに対してアルノー氏はAFPに「二重国籍を申請したのはベルギーでの投資を進めるためだ。私は現在も今後もフランスの納税者であり続け、納税の義務を果たす」と述べ、税金逃れが目的ではないと強調し、自身を弁護しています。
またフランス経済界にはアルノー氏を擁護する声も多く(そもそも増税に反対)、フランス企業運動会長のロランス・パリゾ氏は「傑出した業界のリーダーに誰も敬意を払っていない」と事態を憂う発言をしています。また、フランス元首相(フランスは大統領と首相の両方がいます)のジャン=ピエール・ラファラン氏は「アルノーの一件は、世界におけるフランスのイメージにとって大打撃だ。アルノーがフランスを信頼しないなら、いったい誰が信頼するというのだ。」と発言しています。
一方で、面白いなと思ったことなのですが、アルノー氏が国籍を申請したベルギーのマスコミでは「ようこそアルノーさん」と大々的に報じ、アルノー氏を歓迎するムードが漂っているそうです。
アルノー氏以外にもベルギー国籍の取得に関心を持っているフランスの富裕層は多いらしく、アルノー氏の件が上手くいくことでその後に続く富裕層が増えることも期待していると思われます。