40代の働き方,リポジション
(写真=The 21 online/出井伸之(元ソニー社長))

得意分野に安住していてはいずれ行き詰まる!

ソニーの社長・会長として約10年間、経営の手腕を振るい、今もベンチャー企業を支援するクオンタムリープのCEOとして活躍する出井伸之氏は、「40代はビジネスマンにとって最大の転機だ」と言う。自身の経験を踏まえて、40代の働き方についてうかがった。

人生は「45歳」で何をするかで決まる!

ビジネスマンにとって、40代は人生の黄金期だと出井氏は言う。

「人は歳を取るにつれて、クリエイティブマインドが下がっていく一方、経験値は上がっていきます。その2つのバランスが取れているのが、45歳なのです。自分の力を遺憾なく発揮できるこの時期に何をするかで人生が決まると言っても過言ではないでしょう。目の前の仕事をしっかりやりつつも、長期的な視点に立って、自分を成長させていく必要があります」

そして、40歳を過ぎてから自分を成長させるには、働き方を「ワーキングクラス」から「クリエイティブクラス」へと転換することが必要だと言う。

「簡単に言えば、ワーキングクラスとは、毎日、同じルーチンの仕事を繰り返す立場の人。クリエイティブクラスとは、新しい価値を生み出す立場の人です。

ワーキングクラスとしてそれなりに会社の仕事ができるようになると、居心地が良くなります。しかし、その状況に安住していると、それより上の役職には上がれません。

それどころか、ワーキングクラスのままだと、使い捨てにされかねません。若くて元気の良い人が出てきたら、その人たちに自分の仕事をどんどん奪われるでしょう。社内で通用するノウハウしか身につけていないことも多いので、転職も厳しい。

そうならないためには、新しい価値を生み出せるクリエイティブクラスとしての実力をつけることが大切です」

あえて居心地の悪い「アウェイ」に身を置く

クリエイティブクラスになるには何をすべきなのか。出井氏が勧めるのは、「リポジション」をすることだ。

「リポジションとは、自分が置かれている環境を意識的に変えること。その環境に柔軟に対応し、自分を進化させていくことです」

まったく知らない分野の仕事、知り合いが1人もいない仕事……。そんな居心地の悪い環境に身を置き、一から学び直すことで、確実に成長できるという。

「同じ職場で長く働き続けることは決して悪いことではありませんが、10年間で3回、自分の置かれた環境を変えた人と、10年間1度も変えていない人とでは、やはり前者のほうが多様な経験が積めます。つまり、問題解決の引き出しが増えるということです。こうしてリポジションを続けていけば、最終的には『スーパーゼネラリスト』へと成長を遂げ、たくさんの引き出しを使って、多くの問題を解決できるようになります。社内だけでなく、他社からも求められる人材になるでしょう」

リポジションを勧めるのは、出井氏自身が、40代まで多くのリポジションを繰り返すことでスーパーゼネラリストとなり、その結果、経営トップに上り詰めたからだ。

「事業部長として不振だったオーディオ事業を再生したあと、コンピュータ事業本部でMSXというコンピュータのハードを開発しました。そして、レーザーディスク事業では、後発メーカーとして業界トップの企業を追いかけました。このように多様な経験を積んだことが、すべて、社長になってからの経営判断に役立ちました。

近年、スペシャリストになることを勧める人が増えましたが、私は懐疑的です。問題解決できる分野が狭まりますし、その分野がダメになったら終わりです。同じ理由で、『選択と集中』という言葉も大嫌いですね」

環境を変えるといっても、必ずしも転職する必要はないと出井氏は言う。

「それなりの規模の企業なら、社内でいろいろなことができるはずです。今、手がけている仕事で得られるスキルや知識を、『新規事業立ち上げのノウハウとオーディオの知識』というように抽象化して意識すれば、身につきやすくなり、社外でも通用する実力がつくでしょう。

同じ会社の中でも、リポジションをすることでマンネリを打破でき、クリエイティブマインドの低下に歯止めをかけられます。すると、生き生きと仕事に取り組めるようにもなります」