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銘柄分析
Written by 土居亮規 17記事

欲しいのはシャープではなく

なぜ鴻海はシャープを買収したのか

シャープ,ホンハイ,
(画像=Webサイトより)

2016年4月2日付けで鴻海精密工業の傘下に入ることが決まったシャープ <6753> 。今回はなぜ鴻海精密工業がシャープを買収したのかを、ドタバタだった買収劇の推移と鴻海精密工業の現状課題から分析する。

買収劇で脚光を浴びた鴻海精密工業の素顔

今回の買収劇で初めて鴻海精密工業の存在を知った人も多いだろう。英名では「フォックスコン」という名称で呼ばれ、売上高は日本円にして約15兆円を誇る台湾企業だか、まずは解説のために鴻海精密工業の事業内容について解説する。

鴻海精密工業の事業カテゴリーは「電子機器受託製造(EMS)」と呼ばれる形式だ。EMSとは自社のブランドで商品の生産・展開・販売を行うのではなく、他社の依頼により製品の生産だけを手がけるという仕組みだ。

顧客に関しては徹底した秘密主義により全てが正式には公開されていないが、EMS業界の中ではかなりの有力顧客・製品を抱えているとされており、一説によればソニーやアップル、インテルなども顧客であるというウワサもある。

生産を行っている製品のカテゴリーとしては多種に渡り、パソコンや携帯電話、スマホにゲーム機などさまざまな商品の生産を行っている。

その中でも近年、主力となっているのが「液晶パネル」だ。スマートフォンやパソコンの流通とともに精度の良い液晶パネルの需要は年々増している一方サムスンなどの他社との競合激化により、鴻海精密工業にとって液晶パネルの精度上昇は課題となっていた。

そこに降って沸いてきたのが高い液晶生産技術をもつシャープの「経営危機」だ。液晶事業を強化したい鴻海精密工業にとってシャープはまさに格好の獲物であったことは想像に難くない。

買収を強行した根底は「収益の鈍化」

液晶が鴻海精密工業の事業内容にとって液晶技術が重要なウェイトを占めるというのは先に示したとおりだが、そもそも今回買収を粘り強く強行した理由は近年の鴻海精密工業の業績鈍化だ。

近年スマートフォンの生産競争などにより、鴻海精密工業の決算収益は緩やかな減少傾向にあり、アナリスト予想などはやや上回るものの、依然として厳しい状況が続いていた。
そういった現状を打破するためにシャープの世界的に優れた液晶技術を手中に収めたいという狙いがあったことは以下から読みれ取れていた。たとえば、買収途中の記者会見での発表や、有機液晶パネルに2000億円の出資を行うとした出資資金の使い道、「買収が破談になった場合でも液晶技術を優先的に買い取れる」という条項を盛り込んだ契約の用意などからである。

正式に買収の調印を行った後の会見でが鴻海精密工業の郭台銘董事長は「今後は(現在の2倍超の)売上高10兆台湾ドル(日本円にして約30兆円)を目指す」としており、シャープの液晶を起爆剤としてシェアを取り戻す意気込みを見せている。

こういった液晶パネルにおける他のEMS業種企業とのシェア争いと優れた液晶パネルの生産を行えるシャープの経営危機が重なったのが、今回シャープを買収した理由の根幹といえる。

欲しいのは「液晶」であって「シャープではない」

見方を変えれば鴻海精密工業が欲しかったのは「シャープ」ではなく、あくまで「液晶技術」であるという点だ。

特に今回、買収の目的とされていたのが「有機ELディスプレイ」だ。これは従来のディスプレイパネルよりも消費電力が少なく、折り曲げることも可能という逸品だ。これをスマートフォンなどに組み入れ、他社との差別化を図るのが狙いだ。

一方、シャープ本体に関しては経営再建に対する疑問の声も根強い。買収が行われる前後でも「(シャープ社内の)技術者が流出する」、「(赤字を続けていた)経営陣を残したままの運営なんて、本気でシャープを再建する気があるのか」といった声が聞こえる。
もっとも、鴻海精密工業にとって欲しかったのが「液晶技術」であったとしたらこの買収条件とその後の動きにも説明が付く。

そもそも経営赤字に転落していたシャープであるが、有能な技術者の大半はすでに見切りを付けており、パナソニックやサムスンに移籍しているという事例も多い。また経営陣に関しても、なんとしても液晶技術を手中に収めたい鴻海精密工業としては「シャープの膿出し」は二の次であり、なんとしても経営陣に買収案を飲ませることが先決であった。経営再建以上に優先すべき事案があったのだと考えると、そのまま経営を続けられるというニンジンは鴻海精密工業にとってはまさに「ノーリスクでぶら下げられる餌」であったことだろう。

重ねて言うが、鴻海精密工業が欲しかったのは「シャープ」ではなく、「液晶技術」である。台湾識者の中には「(EMSという業態の)鴻海精密工業がシャープというブランド名を引き継ぐメリットはない。(ブランド名を)別会社にしておいて、機が来れば転売するぐらいしか使い道がないのでは。」という声もある。

いずれにせよ、財務的危機が回避できたとはいえ、シャープ本体にとっては試練が続くのは想像に難くない。願わくば液晶技術を持っていかれるだけでなく、本格的な倒産までしばし猶予ができたこのタイミングに新たな打開策を見出してもらいたいものである。

土居 亮規 AFP、バタフライファイナンシャルパートナーズ

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