雑談がうまいことは「話し上手」とは関係ない

(写真=The 21 online/齋藤 孝(明治大学教授))
(写真=The 21 online/齋藤 孝(明治大学教授))

必要性や重要性はわかっていても、「雑談は苦手だ」という人は多いだろう。齋藤氏は「雑談をするのに、話が上手である必要はない」と言う。

「雑談に対して苦手意識を持っている人は、面白いことを言ったり、うまい表現をしたりしなければならないと思っているのかもしれませんが、別にそんなことはできなくていいのです。それどころか、自分だけが滔々と話していると、相手が『自分も話したいのに……』と不満を募らせる可能性があります。

重要なのは相手に気持ちよく話してもらうことです。話すのが苦手なら、相手に話してもらえばいいのです」

相手に話してもらうためには、こちらから話題を投げかけてみればいい。無難なのは、最新のニュースの話題だ。

「最新のニュースなら、たいがいの人が知っていますから。とくに自分たちと直接関係のない話題がいいでしょう。たとえば、『リオ五輪では日本はどれぐらい金メダルを獲れますかね?』といった話です。これは、自分たちと直接の利害関係がない、ある意味では『どうでもいい話』なので、白熱してケンカになることがありません。

ビジネスマンの場合は、『消費税が10%になったら、どうなるんですかね?』といった経済ニュースの話題も相手が乗ってきやすい。

いずれにしても、『◯◯はどうですかね?』と質問形式で相手に振れば、何かしら話してくれるはずです」

20年間ずっと同じ話題でも大丈夫

相手と会うたびにさまざまな話題を振っていれば、その人が得意なことや関心を持っていることがわかってくるだろう。相手の得意分野について、自分が知らないことを質問するのも、雑談を盛り上げるコツだ。

「たとえばネット関係に詳しい人なら、『こんなことをしたいのですが、良いアプリはありませんかね?』などと聞くと、たいがいは親切に教えてくれます。それに対して、『ありがとうございます。参考になりました』と言えば、相手は嬉しいものです。後日、『◯◯さんの言うとおりにやってみました!』などと報告すれば、いっそう嬉しくなり、こちらに対して好印象を抱くでしょう」

主婦や高齢者など、世代や属性がまったく違う相手と雑談をするときには、その世代ならではの視点を聞くと盛り上がりやすい。

「たとえば、『今、奥様方の間では、どういう俳優が人気があるんですか?』『皆さん、どんな趣味を楽しまれているんですか?』などと聞くと、予想もしない答えが返ってくるでしょう。すると、単に面白いだけでなく、『この世代は何を好むのか』というマーケティング調査にもなります。こうした肌感覚のマーケティング調査は、どこかの会社が行なった数量的な調査結果を読むよりも説得力がありますし、正しいことが多い。私も、雑談を通して学生の感覚を知り、仕事に活かしています。皆さんも、雑談によって顧客の感覚を肌で感じていれば、必ず仕事に役立つはずです」

相手の得意分野が1つ見つかったら、毎回その話をしてもいい、と齋藤氏。

「『それしか話題を持っていないと思われると損では?』という心配は無用です。

たとえば、私の大学の同僚に将棋が好きな先生がいて、廊下でお会いするたびに雑談をするのですが、20年間、将棋の話しかしていません。しかも私は将棋に詳しくないので、『今年の竜王戦はどうですか?』などと、最低限の知識で質問する程度。相手の先生がずっと話すのがいつものパターンです。それでも人間関係は築けていて、大きな会議で私の発言に対してさりげなくバックアップをしてくださるなど、助けていただいています。

好きなことなら何度話しても楽しく感じるものです。毎回同じネタでもまったく問題ありません」

齋藤 孝(さいとう・たかし)明治大学文学部教授
1960年、静岡県生まれ。東京大学法学部卒業。同大学大学院教育学研究科博士課程を経て、現在、明治大学文学部教授。専攻は教育学、身体論、コミュニケーンョン論。著書に『声に出して読みたい日本語』(草思社文庫、毎日出版文化賞特別賞受賞)、『身体感覚を取り戻す』(NHKブックス、新潮学芸賞受賞)、『読書力』(岩波新書)、『日本語の技法』(東洋経済新報社)、『雑談力が上がる話し方』『雑談力が上がる大事典』(以上、ダイヤモンド社)、『三色ボールペンで読む日本語』(角川文庫)、『5日間で「自分の考え」をつくる本』(PHP研究所)、『プレッシャーに強くなる技術』(PHP文庫)、『1分で大切なことを伝える技術』『すぐに使える! 頭がいい人の話し方』(以上、PHP新書)、『上昇力!』(PHPビジネス新書)など多数。(取材・構成:杉山直隆 写真撮影:長谷川博一)(『 The 21 online 』2016年5月号より)

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