ビジネスマン,雑談力
(写真=The 21 online/齋藤 孝(明治大学教授))

「雑談力はビジネスマンにとって必須の能力」と語るのは、明治大学文学部教授の齋藤孝氏。雑談には人間関係を円滑にする潤滑剤というイメージがあるが、それだけに留まらず、実はビジネスマンの一生を左右するほど重要だという。雑談の大切さと、話が苦手な人でも雑談がうまくできる方法をうかがった。

雑談はビジネスマンの「リトマス試験紙」

雑談はビジネスマンの「リトマス試験紙」のようなものだと齋藤氏は言う。

「顧客や取引先と初めて対面するとき、相手は『この人は本当に信用できるのか』と警戒しています。その判断材料としてよく使われるのが雑談なのです。

立て板に水のような営業トークができる人でも、仕事と関係のない雑談を投げかけて30秒も話せば、『意外と礼儀ができていない』『感じが悪い』『社会性がない』などということが見えてきて、『この人とはつきあわないほうがよさそうだ』と判断されることがあります。営業トークではわからなかった意外な人間性が出てくるわけです。それは、雑談の内容というより、表情や話し方に現われます。

つまり、その人の30年、40年という長い人生が、わずか30秒で見透かされてしまう。雑談とは非常に恐ろしいものなのです」

逆に言えば、雑談がうまくできれば、仕事上の人間関係を築くのに役立ち、仕事に好影響をもたらす。

「雑談をしていると、お互いの人となりが見えてきて、心の距離が縮まっていきます。長時間話し込まなくても、会うたびに30秒~1分程度、雑談をするぐらいで十分です。

こうして良好な人間関係を築いていれば、その効果は計り知れません。たとえば、何か急なお願いごとをしたときでも、『◯◯さんのお願いなら仕方ないな』となりますし、トラブルが起こったときでも『ああ、いいよ、カバーしておくよ』となります。このような関係にある人を増やせば増やすほど、仕事がやりやすくなります」

ところが、社内の同僚ともメールでやり取りすることが当たり前になった今では、雑談で人間関係を築かないまま仕事をするケースが増えている。

「すると、何か急なお願いごとをしても、『なんで私が急いでやらないといけないんだ!』と拒否されたり、トラブルが起こったときに『面倒なことをしやがって!』と文句を言われたりします。

そもそも、仕事をお願いするときには、気心が知れている人に頼みたいものです。圧倒的なスキルがあるから仕事をお願いしているというケースは稀で、たいがいは人間関係で仕事が回っています。ですから、雑談をしないのは非常にもったいない。雑談力を高めて、積極的に人と交流しましょう」