「AI(人工知能)チャットボットの銀行業務への採用は、時期尚早である」との見解を示すレポートを、米市場調査会社フォレスター・リサーチが発表した。

信頼性が最優先される銀行業務に組みこむには、チャットボットは十分なレベルに達しておらず、今後数年間を観察期にあてるべきだとしている。

金融分野でのミスは「ささいなエラー」ですまされない

コンピューター・プログラムとしてのチャットボット自体の歴史は長く、1966年に計算機科学の権威、ジョセフ・ワイゼンバウム名誉教授によって、土台となる「イライザ」が開発された。

その後改良が繰り返され確実に進化を遂げてはいるものの、まだまだ完璧という域には達していないことは、最近のチャットボットブームで実証済みだ。

「的外れでちぐはぐな会話」といったささいなレベルから、マイクロソフトが今年3月、チャットボット「Tay」をリリース当日に停止するという深刻な事態も発生している。

この問題はチャットボットが外部(人間の会話相手)からインプットされた人種差別的な言葉をデータ化し、善悪の判断がつかないままに自ら会話に取りいれてしまったという、機械ならではの悲しさを感じさせる一例だ。

近年のチャットボット人気は、Facebookやマイクロソフトといった国際大手企業が消費者にアピールする手段として、本来は「人工無脳」と称されるテクノロジーを、大衆に普及させた点に起因する。

FinTechの採用に躍起になっている銀行がこの発想に飛びつき、最近ではシンガポールのDBS銀行がFacebookやWhatsAppなどのメッセンジャーとチャットボットを組み合わせたサービスを開始したほか、DBSの傘下であるインド初のモバイル専用銀行、デジバンクも、顧客への対応に同様のAIサービスを利用している。

また中国で6億人が利用している大人気チャットアプリ、「WeChat(微信)」でも、企業がチャットボットを通して消費者とコミュニケーションをとるという手段が、日常化している。

しかしフォレスターはチャットボットの不安定性が、銀行業務では「ありがちなエラー」ですまない事態を引き起こす可能性を懸念。現時点では、「金銭に関するアドバイスは慎重に対応される必要があり、チャットボットに任せるべきではない」としている。

例えば顧客がチャットボットの不適格なアドバイスを鵜呑みにした結果、損失をこうむるということも考えられる。

フォレスターは全面的にチャットボットを否定しているわけではなく、「今後数年間の進化を観察し、十分な信頼性を確認してから採用を検討するのが得策」と提案している。

フォレスターが過剰な懸念を示しているとは思えない。チャットボットで主力となるのは、銀行ではなくテクノロジー会社だ。専門分野外に足を踏みいれる際は焦って飛びつくのではなく、慎重に慎重を重ねる姿勢が重要である。( FinTech online編集部

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