共和党の指名候補は誰に?

話を共和党候補に戻そう。もしジュペ氏がサルコジ氏を破って共和党内で指名を獲得する場合には、ジュペ氏が決戦投票まで進む可能性が高く、かつ決選投票でもジュペ氏がル・ペン氏を破ることが予想される。

というのも、より多くの選択肢がある中で敢えてジュペ氏に投票したいと思う人がル・ペン氏に投票したい人ほどいなかったとしても、ル・ペン氏かジュペ氏かの二択を突きつけられた時には、そもそも共和党候補に見向きもしない左派層や無党派層が挙って中道寄りのジュペ氏を選ぶことが予想されるからだ。

実際、既にバイルー氏を中心とする中道派各候補は、ジュペ氏が出馬する場合には自らは出馬せず、間接的にジュペ氏支持に回ると表明しているので、想定されているシナリオでも中道派は共和党候補がジュペ氏の場合には出馬しないことになっている。

他方、「極右政党」扱いされその拡大を「警戒」するメディアも多い国民戦線は、マリーヌ・ル・ペン氏の努力で少しずつ自己変革を続け現在では「極右」的側面はあまり目立たせず、むしろ社会党政権の労働法改正で見捨てられたと感じている貧困層に訴えかけるような「社会正義実現」を前面に押し出している。

だが左派系支持層からは依然危険視され、特にイスラム系移民層や「政治的正しさ」を重視する層(つまり英米の「リベラル派」と重なる層)から敵視されている。

この種のリベラル層は当然一次選では左派系候補を支持することが予想されるが、決戦投票では対立候補が誰であれル・ペン氏の勝利を阻むために対立候補に投票することが予想されるため、ル・ペン氏のカリスマによる相対的優位は左派層の団結の前には無力化されてしまうのだ。

ところが、ジュペ氏ではなくサルコジ氏が共和党候補となる場合には若干事情が異なってくる。サルコジ氏は共和党候補の中でも「右寄り」とされる場合が多く、左派系支持層からはル・ペン氏ほどではないにせよ白眼視されている 。

共和党候補の中でも穏健中道派として以前より知られているジュペ氏が左派層からも一定の信用を得ているのとは異なり、サルコジ氏は富裕層におもねり、状況次第で政策をコロコロと変えてしまう人と思われている。

のみならず、サルコジ氏は近年イスラム系住民や過激派に対する強硬政策を公約するなど、従来国民戦線のみが主張していたような「極右的」政策を堂々と掲げるようになってきている。サルコジ氏vsル・ペン氏となった場合には、サルコジ氏が消去法的に勝利することはアンケート調査によれば確実だとしても、サルコジ氏の勝利それ自体が左派層には決して喜べるものではない。