仕事の成果,直結,数学的思考力
(写真=The 21 online)

大事なのは「計算力」よりも「数字を創る力」

より具体的に考えるうえでも、説得力のある説明をするためにも、数字を使って考えることはビジネスマンにとって必須と言える。しかし、数字に対して苦手意識を持つ人も多い。どうすればそれを克服し、うまく数字を思考に取り入れられるのか、アドバイスをいただいた。

数字で表現すれば「なるほど!」が得られる

「数字で考える」と聞いて、方程式や微分積分を思い浮かべて憂鬱になる人は多いようです。「数学なんてできなくても、仕事に支障はないよ」と思う人いるかもしれません。しかし、「数字で考える」ことは、ビジネスマンにとって重要なスキルです。そのメリットは、考える行為の結論を具体的に伝えられることです。たとえば「頑張って売上げをアップさせます」と言うよりも、「客単価を1.5倍にして売上げをアップさせます」と言ったほうがより具体的です。

また、数学は矛盾を排除した学問ですから、「数学的に考える」ことで「なるほど!」という納得感を得ることができます。

「数字」と聞くだけで苦手意識を持つ人は多いのですが、じつは数字はとても楽しいものです。たとえば、「○+■=5」の○と■に好きな数字を埋めてみてください。たくさん答えを出せた人が勝ち!――という問題を子供に出すと、いろいろな数字を答えてくれます。

続けてこんな質問をしてみます。「その中で好きな数字はどれ? それはどうして?」「お母さんの誕生日の数字だから」「じゃあ、お母さんを数字で表現するとどうなる?」「いつも6時くらいにご飯を作ってくれるから、6」「あなたが生まれてから今日まで、お母さんは何回ご飯を作ってくれたかな?」――このように考えていくと楽しいですよね。これが「数字で考える」ということです。

ところが多くの人は、「2+3=5」といった計算は習ったものの、曖昧なものを数字で表現する楽しさは経験していません。手元にある数字を捏ねくり回すことはできても、手元にない数字を自分で創り出し、表現することが苦手です。後者こそビジネスマンに求められる「数字で考える力」であり、それが上手にできないことが、現代のビジネスマンが数字に抱く苦手意識の正体なのです。

毎日一分の「定量化」で数字への苦手意識を克服

ビジネスの場面で身につけたい数学的思考力は、大きく分けて二つあります。一つは「手元にない数字を作る力」、もう一つは「手元にある数字を分析する力」です。それぞれの力について説明していきましょう。

まずは「手元にない数字を作る力」ですが、これはたとえば新規事業の市場規模を推測する場合などに必要な力です。

ここでは例として、「日本のメガネ市場」の規模を推測してみましょう。私が講師を務める社員研修でこの問題を出すと、「どうしていいかわからない」と途方に暮れる人と、室内をキョロキョロ見回す人に分かれます。「室内を見回す」という行為には、数字を作るうえで重要なポイントが隠されています。

彼らがやろうとしていたのは、会議室という限られた世界でのメガネ人口をつかむことでした。「会議室にいる三十人のうち、メガネをかけている人は十人だから、全体の三分の一。研修の参加者は若い人が多いから、高齢化社会の日本ではもう少し比率は上がりそうだ。日本人が一億二千万人だから、メガネ人口はその半分の五~六千万人くらいだろうか。メガネの単価はいくらくらいだろう?……」と考えていくことで、日本のメガネ市場を概算できます。

このように、実際には計算や測定が困難な数量を推定することを、「定量化」と言います。その場合、会議室内のメガネ人口を数えたように、「目指す数量に近く、かつ勘定できるものを探すこと」が定量化のコツです。

定量化は、慣れない人にとっては難しく感じるかもしれませんが、普段のスキマ時間にちょっとトレーニングするだけで苦手意識を克服できます。

たとえば電車に乗りながら、その電車の乗車人数を推定してみます。

「この1両で○人乗っているとすると、この電車は10両編成だから全部で■人。この電車の客単価を△円とすると、この電車1本でいくら稼いでいることになる?上下線を含めていま現在何本の電車が走っているだろうか。この1時間での売上げはいくら?……」と妄想を膨らませてみましょう。

あるいは、飲食店に入ったら客数と客単価、回転率を想定して売上げを推測してみるのもお勧めです。毎日一分でもいいから定量化を試みることで、数字への苦手意識が和らいでいくことでしょう。