相次ぐ税制改正で富裕層の節税手段がどんどんなくなる
実は2000年以降、富裕層の税逃れに網をかけるべく、税制改正が頻繁に行われてきた。2000年と2013年の税制改正では、それまで「子が海外に移住すれば海外資産に対する相続税や贈与税はかからない」とされていた相続税法が、「生活の本拠地が過去5年以内に日本にあった場合、海外資産であっても日本の相続税や贈与税の課税対象となる」という内容、つまり「5年ルール」に変更された。
さらに、2012年の税制改正で国外財産調書制度が創設された。これは、海外資産の総額が5000万円を超える人については、その保有する海外資産の内容を詳細に記した国外財産調書を確定申告書とともに提出しなくてはならないというものである。なお、この国外財産調書を提出しなかった者や虚偽記載をした者については、罰則の対象となる。
そして2015年の税制改正では、国外転出時課税(いわゆる出国税)が導入された。これにより、有価証券等の時価総額が1億円以上で日本に居住する人が、その住所地を海外に移す場合、移住時に有価証券等を売却したものとみなして含み益に所得税を課税する制度である。これにより、親世代のキャピタルゲインは日本の課税を実質的に免れることはできなくなった。
これ以外にも、OECD加盟国を中心とした税務行政執行共助条約の締結により、海外の税務当局との間で相互に資産や保有口座、納税状況など、納税者に関する情報を円滑かつ迅速に行えるようになった。つまり、国外財産調書の内容に日本の税務当局が疑問を持った場合、すぐに海外資産の所在地国にそのウラを取ることができるのである。
このようにして、富裕層の税逃れ包囲網は地球規模で着々と構築されているのだ。
「5年ルール」が廃止されるとどうなるのか
相続税法の5年ルールが廃止された場合、次はどのようなルールが設定されるのだろうか。現在検討されているのは、海外資産が課税されないための要件である最低非居住期間を5年から10年に延長しようというものだ。これにより、安易な税金逃れを防ごうというのが日本の税務当局側の意図である。
しかし、税法がいくら厳しくなっても、富裕層の税逃れが止まることはないだろう。なぜか。彼らの意識の中には55%の日本の重税を逃れることが第一にあるため、そこにお金や労力をかけることをいとわないからだ。なおかつ、不思議なことに、税法は内容が細かくなればなるほど、金持ちほど得をし、中流以下の人間が損するようにできている。
難しければ難しいほど、研究にはお金も時間も手間もかかるためだ。富裕層は優秀で高額な専門家に依頼することでそのコストを担えるが、一般人には負担できない。そして、2015年から施行された改正相続税法により、大きなダメージを受けるのは一般家庭の資産承継だ。
2017年税制改正で5年が10年に延びたとしても、おそらく富裕層は「じゃあ親世代が外国籍になればいいんだよね」などと次なる対策を打つだろう。場当たり的な税制改正では税逃れの穴をふさぐことはできない。
本当に日本に税金を納めてほしいと思うのならば、「なぜ税逃れが起きるのか」「日本という国への信頼度はどの程度のものなのか」「税金という存在が国民にとってどのように映っているのか」など、もっと大局的な視点で税というものを国が見直す必要がある。
鈴木 まゆ子
税理士、心理セラピスト。2000年、中央大学法学部法律学科卒業。12年に税理士登録。外国人の在日起業の支援が中心。現在、会計や税金、数字に関する話題についてのWeb上の記事執筆を中心に活動している。心理セラピーは、リトリーブサイコセラピーにて大鶴和江氏に師事。税金や金銭に絡む心理を研究している。共著「海外資産の税金のキホン」(税務経理協会、信成国際税理士法人・著)。
ブログ「経済DV・母娘問題からの解放_セラピスト税理士のおカネのカラクリ」