2017年の税制改正が、富裕層の間で関心の的となっている。政府が、本税制改正で、海外資産への課税を見直す予定であるからだ。関心の的となっているのが相続税法の「5年ルール」の廃止だ。相続税法の「5年ルール」とはどのようなものなのか。富裕層を取り巻く税の現況はどうなっているのだろうか。そして、廃止されたら、富裕層の今後にどのような影響があるのだろうか。

相続税法の「5年ルール」とは

相続税法の「5年ルール」とは、「資産を子や孫に承継する場合、日本の相続税や贈与税が課されないために海外に住む場合の最低居住期間が5年超必要」ということだ。

相続税法では、原則として日本にある財産だけでなく、海外にある資産も課税対象となる。しかし、日本国籍を有する被相続人・贈与者と相続人・受贈者のいずれもが海外に相続や贈与開始以前5年以上居住していた場合、日本の相続税や贈与税の対象となる資産は日本に存在する資産のみとなり、海外資産は課税対象外となる。

現在、日本の富裕層の多くは、この仕組みを熟知し、法律を逆手にとって55%の相続税率・贈与税率をさけるべく、親子ともども海外に拠点を移す人が少なくない。一つは、日本の財政悪化や少子高齢化に伴い、個人への課税が年々重くなることを憂慮したため。もう一つは、55%の税率に甘んじていると、相次ぐ資産移転により資産が国税に吸収されてしまうからだ。ムダに税金を払うことなく、子や孫により多く資産を残すためには、庶民なら高額に感じる移住費も彼らにとっては必要経費となるのである。

移住先となるのは、主にシンガポールや香港、ハワイ、カナダなど、個人に対する税率が低い、あるいは非課税となる国である。シンガポールには一時期メディアを賑わせた村上ファンドの村上世彰氏の他、インターネットビジネスで億単位の利益を得た事業家が住んでいる。「秒速1億円」で有名になり、その後破綻した与沢翼氏も、一時期シンガポールに住み、デイトレーディングで復活した。香港やその他の地域も同様だ。数百億の資産を保有する日本の経営者・投資家を中心に、多くの富裕層が高い税金から逃れるべく、日本から拠点を移している。

資産を非課税国や低税率国に移し、親子ともども5年をその国で過ごした後、贈与を行えば、資産のほとんどを次世代に残すことが可能となる。また、仮にすぐに相続を行わないにしても、40歳を超えると体力が衰え、いつ突然死が訪れて相続という事態になってもおかしくない。そういったことを見越し、高齢になる前に海外に拠点を移す富裕層が後を絶たない。

相続税法の「5年ルール」廃止は、それに「待った」をかけるものとなる。