◆介護保険の導入に際して、財源は大丈夫か。

では、現時点で介護保険の主な財源として期待されている医療保険の収支はどのようになっているのであろうか。

中国の公的医療保険は、(1)都市の就労者を対象とした制度(基本医療保険)に加えて、現在、都市化の進展に伴って制度統合が進んでいる(2)都市の非就労者と農村住民を対象とした制度(都市・農村住民基本医療保険制度)、(3)公務員を対象とした医療保険制度と大きく分けて3つの制度がある。ここでは主に(1)都市の就労者、(2)都市の非就労者・農村住民を対象とした医療保険の収支状況を確認する。

都市の就労者を対象とした医療保険の収入は、保険料、財政補填、その他の収入によって構成されている。図表7は各都市で運営される医療保険の基金の収入、支出及びその収支残高を全国で合計したものである。2015年の収入を見ると、保険料が全体の95.7%を占めている(図表7-1)。支出分を保険料でほぼ賄えている状態で、収支は黒字となっている(図表7-2)。

ただし、収支を全国ではなく、制度を運営する各市単位で見た場合、地域によっては赤字が発生している可能性が高く、財政補填も0.8%拠出されている。また、昨今の経済成長の減速、医療コストの上昇(薬価など)によって、収入の増加幅が給付の増加幅がよりも小さくなっていることを考慮すると、今後、財政補填の増加が見込まれる。

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一方、都市の非就労者と農村住民を対象とした医療保険を見ると、収入のおよそ8割が財政補填で支えられていることが分かる(図表8-1)。保険料収入のみでは制度を支えることができず、財政補填がなければ収支は大幅に赤字となる(図表8‐2)。

この制度は保険料も相対的に少額で、給付内容も上掲の都市の就労者を対象とした制度よりも狭いため、基金の規模自体も小さい。しかし、加入者数は国民のおよそ8割にあたる11億人超と多く、今後、介護保険が全国で導入された場合、当該基金からの拠出額が大きく膨らむことが考えられる。

また、この医療保険は、既存の医療給付に加えて、2013年に本格導入された高額療養費制度(大病医療保険)の財源も兼ねており(保険料負担がない地域が多い)、更に介護保険に係る拠出も加わると、財政への圧力はより一層高まるといえよう。

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