給付に応じた負担と必要なサービスの提供のバランスをいかに図るか。

このように、中国では、まず、既存の社会保険制度を維持するだけで財政支出が増加しており、今後、介護保険制度など新たな制度の導入や普及、高齢者の増加による自然増が進むことによって、更にその支出が増加すると考えられる。

中国ではOECD基準、ILO基準に基づいた社会保障費用統計(旧 社会保障給付費)が公表されておらず、政策分野ごとの社会保障に係る支出や給付全般、サービスがどのような財源で賄われているかなど全体的な情況を把握するのは難しい。

財源については、原則として保険料、財政補填、その他収入であるが、最近の傾向として、新たな制度の導入に際しては、経済成長の減速化から、保険料の個人負担や保険料率の引き上げを行なわない向きが強い。加えて、国庫からの支出を最小限に抑えるため、既存の社会保険の基金から拠出して財源に充てる傾向にある。

介護保険制度について、中国は、日本などの先行例から、どのような制度を導入した場合、どれほど財政支出が膨らむのかを参考に、国庫の負担やその責任は最小限に抑える構えだ。ただし、その場合、必要以上に給付の範囲を限定すれば、制度そのものが形骸化する可能性もある。また、財源については地方財政の負担の増加を招いており、最終的には社会保障の地域格差を拡大させやすい土壌を生んでいる。

介護保険については、パイロット地区ではないものの、北京市海淀区において民間保険会社と協働で新たな取組みも始まっている。海淀区政府が当地に進出した生命保険会社と連携し、新たな介護保険を開発、導入するというものである。

当然のことながら、加入者には相応の個人負担が発生するが、北京市と海淀区が保険料の一部を補助することで個人の保険料負担を下支えすることになっている。この介護保険制度は、医療保険基金からの拠出はなく、財政面においても独立した制度となる。

また、給付についても要介護度(軽度・中度・重度の3段階)に応じた給付額の範囲内で、在宅サービス、デイサービス、施設サービスを受けることができる。保険料は年齢などによって異なり、デイサービスなど要介護度が中度、軽度の場合でもサービスの利用が可能である。

昨今の地方政府は、経済成長の減速による税収の減少や各種支出の増加もあり、懐事情は厳しい。利用者に負担をどのように求めていくか、限られた財源をどのように有効に支出するか、今後、介護保険制度の導入を行うその他のパイロット地区の取組みが注目される。

片山ゆき(かたやま ゆき)
ニッセイ基礎研究所 保険研究部 研究員

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