最終防衛線を明確にせよ
だからといって、第一線の広報担当者が自らの勝手な判断で、あることないこと(ないことを説明してしまうのはそもそも論外ですが……)語ってしまうのは大問題です。シビアな追及から解放されたい一心で「対外公表不可」の内容を漏らしてしまうことは、企業や組織として絶対に避けなければなりません。
そのためには、あらかじめ「記者からの追及次第ではここまでなら言ってもよい。ただし、その場合でもここから先は死守」という明確なライン(最終防御線といってもよいでしょう)について、企業や組織内で認識を共有・調整しておくことが重要です。これはビジネスを巡るシビアな交渉事においても全く同じです。
そういう観点から考えると、危機時のコミュニケーションに際しては、戦いは目の前の「敵」(記者や交渉先)のみならず、「味方」(経営幹部・上司、あるいは同僚や従業員)内部での調整段階こそがより重要な意味を持ってくるのです。
自分自身が見ている景色が全てではない
そして、これら「敵」と「味方」双方とのコミュニケーションを円滑に行なうためには、平時における関係構築と日常の情報交換がなにより欠かせません。
そして、戦時になったら敵の狙い(思考パターン)と兵力(情報網)を瞬時に把握するとともに、味方の持ち弾の種類と量(言ってよいこと、悪いこと)、使い方の段取り(言うべき順番)を自分なりにイメージしておくのです。
「情報は交換してはじめて意味を生み、深みを増す」というのは、筆者二人の共通の実感です。
広い世の中、自分自身から見えている景色だけが全てではありません。
このことは、日常業務はもちろんのこと、企業や組織の内外を問わず、あらゆる局面におけるさまざまな人との関係性構築と情報交換において忘れてはなりません。
読者のみなさんが今後直面するであろうさまざまピンチを乗り切る術を獲得する「きっかけ」として本書がお役に立てれば、著者としてこのうえない喜びです。
池田 聡(いけだ・そう)経営共創基盤(IGPI)パートナー/マネージングディレクター
1967年、東京都生まれ。早稲田大学法学部卒。日本銀行にて金融機関の経営モニタリング等を担当。産業再生機構では企画調整室のほか、カネボウをはじめ5件の事業再生案件を担当。IGPI設立後は、大手航空会社・大手エネルギー会社の再建計画策定、事業再生ADRを活用した百貨店の再生、小売・飲食チェーン等の経営改善計画の策定に従事。内閣府企業再生支援機構準備室上席政策調査員、原子力損害賠償・廃炉等支援機構執行役員・参与などを歴任。(『
The 21 online
』2016年11月09日 公開)
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