遺産相続には税金がかかる。それは分かっていても、具体的な税額がどれほどになるかを把握している人は少ないのではないだろうか。今回は、遺産を相続で受け継いだ場合に課される税金の計算方法や、その際に適用される控除額などについて解説する。

遺産相続にかかる税金とは

遺産相続にかかる税金、すなわち相続税とは、亡くなった人(被相続人)の財産を相続や遺贈によって取得した者(相続人)に対して、その取得した財産の価額を基に課される税金のことである。相続税を求める上では、まず課税の対象となる遺産の総額を求めなければならない。

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相続税の課税対象となる遺産総額の計算

課税対象となる遺産の総額は、次の手順で算出される。

  1. 相続や遺贈によって取得した財産の価額と、相続時精算課税の適用を受ける財産の価額を合計する
  2. 1から債務、葬式費用、非課税財産を差し引いて遺産額を算出する
  3. 遺産額に、相続開始前3年以内に贈与された財産(暦年課税による)の価額を加算して、賞味の遺産額を算出する
  4. 3から基礎控除額を差し引いて課税遺産総額を算出する

相続時精算課税とは一部要件を満たす贈与に際して選択することが認められる課税制度で、この制度の対象となった贈与財産については贈与税ではなく相続税によって精算される。また相続時精算課税制度の対象外である贈与は暦年課税によって贈与税の計算が行われる。なお、これら制度の選択についての詳細は後述する。

遺産相続にかかる税金の計算

上記の手順により求められた正味の遺産総額に、次の速算表に記載された税率や控除額を適用することで相続税が決定される。

法廷相続分に応じた取得金額 税率 控除額
1000万円以下 10% -
1000万円超〜3000万円以下 15% 50万円
3000万円超〜5000万円以下 20% 200万円
5000万円超〜1億円以下 30% 700万円
1億円超〜2億円以下 40% 1700万円
2億円超〜3億円以下 45% 2700万円
3億円超〜6億円以下 50% 4200万円
6億円超〜 55% 7200万円

なお相続税には各種控除の適用が認められているため、正味の遺産総額が直ちに課税遺産総額と見なされるわけではない。

遺産相続に対する税金対策

遺産相続においては、次に挙げる控除額が正味の遺産総額から控除される。

基礎控除

基礎控除額とは、3000万円 + 600万円 × 法定相続人の数で求められる。

法定相続人とは、次の順序で定められている相続人のことである。

第1順位:被相続人の子

その子が既に亡くなっている場合は、その子の直系卑属(子や孫など)が相続人となる。子も孫もいる場合は、被相続人により近い世代が優先される。

第2順位:被相続人の直系尊属(父母や祖父母など)

父母も祖父母もいる場合は、被相続人により近い世代が優先される。第2順位に当たる人は、第1順位に当たる人がいないとき相続人となる。

第3順位:被相続人の兄弟姉妹

その兄弟姉妹が既に亡くなっている場合は、その人の子が相続人となる。第3順位の人は、第1順位の人も第2順位の人もいないとき相続人となる。

なお、いずれの順位の人が相続人となる場合でも、被相続人の配偶者は常に相続人となる。また相続を放棄した人は初めから相続人でなかったものと見なされ、内縁関係の人は相続人には含まれない。

基礎控除額の計算例として、被相続人の配偶者と子2人が相続した場合には3000万円 + 600万円 × 3人 = 4800万円が基礎控除額となる。

配偶者の税額控除(配偶者控除)

配偶者が遺産分割や遺贈により実際に取得した正味の遺産額が、1億6000万円までか配偶者の法定相続分相当額までであれば、配偶者に相続税はかからない。配偶者に認められる法定相続分は、配偶者以外の相続人がどの順位に当たる人かによって異なる。

配偶者と第1順位の人(子)が相続人である場合は、正味の遺産総額のうち1/2、配偶者と第2順位の人(直系尊属)が相続人である場合は正味の遺産総額の2/3、配偶者と第3順位の人(兄弟姉妹)が相続人である場合なら、正味の遺産総額の3/4が配偶者の法定相続分となる。

未成年者控除

相続人が20歳未満の場合は、20歳に達するまでの年数1年につき10万円が控除される。

障害者控除

相続人が障害者の場合は、85歳に達するまでの年数1年につき10万円(特別障害者の場合は20万円)が控除される。

暦年課税にかかる贈与税額控除

正味の遺産額を求める際に加算された「相続開始前の3年以内の贈与財産」に対して支払われた贈与税額相当分が控除される。

相続時精算課税にかかる贈与税額控除

遺産総額に加算された「相続時精算課税の適用を受ける贈与財産」に対して支払われた贈与税額相当分が控除される。

控除を理解した上で節税を検討しよう

相続税節税の手段として生前贈与を勧める人は多い。それは、平成27年に施行された税制改正によって基礎控除額が大幅に減額されたためだ。

しかしながら、現状の控除額で十分であると判断できる場合には生前贈与を行う必要性はあまりなく、特に不動産等の贈与には不動産取得税や登録免許税といった費用がかかるため留意しておく必要がある。

実際に課されるであろう相続税を正しく理解し、基礎控除等で控除しきれない部分をいかに節税すべきかをよく考えて節税対策を講じてほしい。

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