あらゆる分野でグローバル化が進んでいる。日本企業が外資に買収されたり、突然上司や部下が外国人になることも珍しくはなくなっている。世界の流れはTPPなどにもみられるように、もはや金融に物流に国境はなくなろうとしている。
こうした中、世界中でビジネスネットワークを広げてきた華僑や印僑に倣い、日本人のグローバルネットワークを世界に広げてきた組織がある。和僑会がそれだ。
グローバル化が加速する世界で、日本と日本人の魅力とポテンシャルを引き上げ、遅れているといわれる日本のグローバル化の後押しをする。
世界に良い影響を与え続ける国ランク上位の日本
イギリスの放送局BBCが、アメリカの大学などと協力し世界3万人の対象に調査している「世界に最も良い影響を与えている国」というアンケート調査がある。この調査で日本は2007年、08年と連続1位となっている。その後は順位は下がるものの4~5位を推移し続けている。
日本は世界的にはやはり信頼されている国であり、国民であると言える。だからと言って日本人が世界のビジネスにおいて高いアドバンテージを持っているとは言えまい。
いろいろ見方はあるが、欧米に比べ経済成長率が低いのがその証左の1つだ。人口減少がその理由として挙がるが、減少しても日本を上回る経済成長率を見せている国もある。
日本の人口は今後ますます減少する。毎年約30万人。ほぼ2年で鳥取県が消滅する計算だ。もし成長を維持していくためには1人あたりの生産性をさらに上げていくか、さらなる国際化を進めていくしかない。
国際化には2つの方向性がある。1つは国内に物や人、文化を呼び込む国際化。もう1つは商品や生産設備、人、文化を送り出すことによる国際化である。
前者はいま非常に成功している。そう、外国人観光客である。国は来日観光客2000万人目標をさら上積みし、3000万人とした。政府が旗振り役となって進める「ビジット・ジャパン」が奏功したと言える。
後者はどうか。財務省の貿易統計では、バブル崩壊直後の1990年に40兆円だった輸出は、2007年に80兆円と倍に伸び、その後リーマンショックで落ち込んだものの、近年は同様の水準まで回復している。
現地化も進んでいる。90年に6.4%だった製造業の海外比率は、2009年には17.8%にまで上昇している。
つまり日本は国内市場がシュリンク(縮小)しながらも貿易額を拡大し、現地化も進めている。これを見る限りは「よくやっている」とも言えそうだ。
だが一般社団法人東京和僑会会長の三浦忠さんは「まだまだ国際化対応は不十分」と否定的だ。
「訪日外国人の急増を受け、日本は観光資源がたくさんあると喜んでいますが、単にビザが緩和されて訪日しやすくなっただけ。前から日本に来たい人はたくさんいたんです」
日本としては単に観光客を増やしてお金を落としてもらうだけでなく、グローバル化に本気で対応する必要がある。
「今後は観光だけでなく、当然企業もどんどん入ってくる。企業が来れば家族もやってくるし定住者も増えていく。仮に東京で仕事をしていくとすれば、パートナーの業者や取引先も日本企業だけとは限らなくなる。今後日本企業としか付き合わない企業は、市場で勝つか負けるかというと負ける」(三浦さん)
世界に羽ばたく中小企業、ベンチャーを現地ネットワークで支援
三浦さんが会長を務める東京和僑会は、こうした今後急速に変化する国内の国際化と海外でビジネス展開をする日本人、とりわけ中小、ベンチャー企業の支援を行ってきた。
世界各地で人的ネットワークを広げてきた中国出身者の華僑やインド出身者のつながりである印僑などに倣った日本人ネットワーク「和僑」である。
和僑の名前と組織が生まれたのは10年以上前の香港である。2004年に香港在住の日本人筒井修さんがつくった「和僑会」が始まり。三浦さんはこの和僑という考えに賛同し、日本国内での和僑会の立ち上げに奔走、07年に東京和僑会を設立した。
現在和僑会は中国やASEAN諸国を中心に世界11カ国、26の和僑会が設立されている。
三浦さんが和僑を意識したのは30歳の頃。仕事で赴任していた台湾で台湾人の学ぶ意欲、吸収力、即断即決の行動力を目の当たりにしてショックを受けたという。
「当時の日本人は即断ができず、実行力に乏しく、明確なビジョンも描けているように見えなかった。たまたま周りの日本人がそうだっただけなのかもしれません。でもそもそも台湾人は、国が小さいのではじめから海外に出ることを考えている。そこが違う。日本人もそういう国際感覚を身につけていかないといけない。それには海外の現地で根を張る日本人ネットワークが必要だと考えた」
ただ海外にはJETROや現地の商工会、日本人会など、以前から日本人ネットワーク組織はあった。何が違うのか。
「確かに海外にも日本人のネットワークはあります。ただそれらの人たちのほとんどが現地駐在員。いずれ日本に帰ることが前提となっています。和僑会の特徴はゆるい組織。JCなどのようなトップがあって支部があってという組織ではない。考え方も各和僑会で少しずつ違っています」
和僑会は、ビジネス情報や交流会、勉強会などの機会提供を自立した中小の起業家、経営者に対して行うことが中心だが、ここ数年東京和僑会には大手企業の入会も増えているという。
「現地に社員を送ってもなかなか情報を取りにくくなってきていることがあると思う。それと大手はやはりジャッジが遅い。和僑会への入会手続きを取るだけでも社内で14ものハードルがある企業もあった。これでは世界で勝てない」
国としてのグローバル化は進んでいるが、その志向はあくまで内向きなのだ。こうした状況を三浦さんは懸念する。何より危機感を抱いているのは若い世代が外国に行かなくなっていることだ。
日本旅行業協会によると20代、30代の出国率は97年にピークを迎えた後、下がり続けている。ほかの世代はすべて上がっているのに、である。海外留学生も04年をピークに減り続けている。
しかも「せっかく留学したのに、就職は国内を目指している」(三浦さん)のがほとんど。
もちろん果敢に海外に挑戦する若者もいる。日本の未来に夢を持てなくなったり、純粋にアジアなどの発展途上国で社会起業を行う人たちだ。
日本を変える100人を和僑会で育てていく
東京和僑会ではこうした若い世代の受け皿として、「和僑ユース(Youth)」を立ち上げた。世界のビジネスシーンでのリーダシップを取れる次世代和僑である高校生や大学生、若手の社会人が対象だ。さらに小学生、中学生を対象とした「和僑キッズ(Kids)」もつくった。
「ユースでは必ずしも、起業が前提とはなりません。海外で働きたいという人にいろいろなことを教えてあげたい。とくに留学生。国内企業に就職しても、海外との接点を持ち続けたい人、外に出ようと思う人に情報を出し続け、海外に挑戦してもらいたい。
期待しているのはキッズ。現在海外の和僑会の子息と交流させていますが、和僑としてのDNAをつくっていくためには、やはり小さい時から体験させていく必要がある。すぐではないものの、将来は日本を変えるような人材になっていくと期待しています」
当初東京和僑会では「和僑100万人」を掲げ、世界各地にジャパンタウンを作ることを掲げてきた。しかし近年は寺子屋的なものを中核として、日本人の良心や職人的なこだわりなど、精神や考えを世界に広げていくことに重きを置いている。
対象も必ずしも企業人だけでなく、そういった考えを持つ日本人、日本人の考え方に共鳴する現地外国人にも広げている。
「現地に根付くことを考えると日本人にこだわる必要はありません。もっといろいろな国の人と交流、融合することが必要です。日本の真のグローバル化を実現するために仮に100人の志士が必要だとすれば、その人材を和僑会から出していきたいと思っています」
やがて和僑は日本のみならず、世界の各地域の良質な人材インフラを担うことになるに違いない
◆2016年10月26日の記事より(提供: Biglife21 )
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