東京株式市場は上昇一服となっています。2017年大発会の1/4(水)こそ日経平均株価が479円高となり昨年来高値を更新したものの、その後は下げる日が増え、1/12(木)現在はほぼ年初からの上昇分を帳消しにしてしまっている状態です。米国のトランプ次期大統領就任を1/20(金)に控え、経済対策のプラス面を織り込む流れが一巡し、リスク面を織り込む動きが強まっているようです。

こうした中、2017年の注目テーマに関連した銘柄を物色する動きが静かに進んでいるようです。1/12(木)の日本経済新聞では「株式市場、『働き方改革』物色」という記事があり、「働き方改革」が注目テーマになっていることが伝えられましたが、確かに、2017年最大の注目テーマのひとつと言えるかもしれません。

ただ、「働き方改革」で紹介されることが多いのは人材関連企業で、日本経済新聞社の記事になる程であり、すでに株価が上昇している銘柄も少なくないようです。これらの銘柄は今後、選別物色になるかもしれません。こうした中、今回の「日本株投資戦略」では、「働き方改革」に関連して、同テーマを「労働時間短縮」や本年2月から実施される予定の「プレミアムフライデー」という側面から再検討し、関連銘柄を考えてみることにしました。

「働き方改革」はなぜ今必要なのか?

2016/8/3に成立した安倍改造内閣では、経済対策における新しい「3本の矢」を放つ的として「GDP600兆円」、「希望出生率1.8人」「介護離職ゼロ」が唱えられました。そしてこれらの目標を達成するには「長時間労働の是正」、「同一労働同一賃金の実現」、「最低賃金の引き上げ」、「高齢者の就業機会の提供」等の「働き方改革」が必要であるとしています。

では、「働き方改革」はなぜ今必要なのでしょうか。

図1は2015年の日本の「人口ピラミッド」(推計)で、年齢ごとにどのくらいの人口がいるのかを男女別に示しています。いわゆる「団塊世代」(1947~49年生まれ)および「団塊ジュニア世代」(1971~74年生まれ)の人口が他の世代よりも多くなっています。2017年は、前者の人々が68~70歳程度、後者は43~46歳程度になる計算です。この「人口ピラミッド」からもわかる、我が国の問題点は以下のようにまとめられます。

(1)「団塊世代」の年金受給が本格化している上、今後介護の対象になる人々が急増する可能性が大きいと考えられる。
(2)「団塊ジュニア世代」の女性の出生率がゼロとなる年齢に接近しているので、少子化に拍車がかかりやすい。
(3)「団塊ジュニア世代」よりも若い世代は若くなる程人口が少なくなり、「人口ピラミッド」はさらに少子高齢化の様相を強める。

今後、日本は本格的な人口減少時代を迎え、現在1億2,700万人の人口は2060年には8,700万人まで減少し、それと同時並行する形で労働人口も3分の2程度に減少すると考えられます。経済成長は「人口増加」と「設備投資」と「技術進歩」の掛け算であると考えられます。人口減少を放置していては経済成長もおぼつかず、財政の維持も難しくなると考えられます。

「働き方改革」は、少子高齢化による日本の衰退を阻止する重要な処方箋のひとつであると考えられています。特に「長時間労働の是正」はそれを実現することで多くの問題が解決に向けて前進する「レバレッジポイント」であるとの期待が高まっています。

リクルートホールディングス <6098> 傘下の人材派遣会社では、2013年から労働時間を短縮し、「休日出勤68%削減」、「深夜労働86%削減」を実現したところ、労働生産性が4.6%上昇し、驚くべきことに社内の出生率が1.8倍になったという報告があります。また、第1子が6歳になるまでの間に、夫が家事・育児をまったく手伝わない夫婦について第2子が出産される比率は10%にとどまりますが、夫が週末の6時間を家事・育児に協力できる夫婦では第2子の出産比率が80%に達するという報告もあります。労働時間が短縮され、夫婦が一緒にいられる時間が増えることで、出生率を上げることは可能なようです。

図1のピラミッドからも想像できるように、今後「団塊の世代」の高齢化が進むので、そのジュニア達を中心に、親を介護する必要が増えてくると予想されます。しかし悪いことに、「団塊の世代」の方に介護が必要になる頃、「団塊ジュニアの世代」の多くの方々が会社の管理職・役員クラスになる計算です。現状のままでは、「団塊ジュニアの世代」の負担が高まり、この層の介護離職増加につながってしまう可能性が大きく、社会の損害であると考えられます。

「働き方改革」はこの国にとっての重要課題になっていると言えそうです。

日本の「人口ピラミッド」

人気化する「人材関連株」の現状

「働き方改革」関連銘柄として一般的に考えられるのは、人材紹介や派遣、アウトソーシングの受託などを業務としている企業です。既存の従業員の労働時間を短縮する一方で、企業が一定の業務量を確保しようと思えば、労働力を柔軟に確保する必要性は今後一層大きくなると考えられます。表1はそうした「人材関連企業」の中で、昨年末以降の株価上昇率の大きかった銘柄を例示したものです。昨年末以降、1/12(木)まで日経平均株価の上昇率は0.1%に過ぎませんので、これらの銘柄は相対的にも好パフォーマンスであったと捉えられます。

図2は「人材関連企業」について、以下のスクリーニング条件をすべて満たす「人材関連」銘柄を、(3)の増益率が大きい順に掲載したものです。「人材関連企業」の中から出遅れ銘柄を物色したい投資家の方の「ご参考」にして頂ければ幸いです。

(1)昨年末から1/12(木)までの株価上昇率が10%未満
(2)今期予想売上高(会社予想)が前期比10%以上増加の見通し
(3)今期予想営業利益(会社予想)が前期比10%以上増加の見通し
(4)今期予想PERが20倍未満

値上がり率(昨年末比)の大きい人材関連企業(例)

株価面で出遅れ感のある「人材関連」(例)

「働き方改革」を後押しする「プレミアムフライデー」と関連銘柄

これまでご紹介してきた通り「働き方改革」は国の重要課題になっています。そして労働時間の短縮を推進する政府はさらに、本年から「プレミアムフライデー」の導入を決め、企業に推奨していくことになっています。

「プレミアムフライデー」とは、2/24(金)以降、月の最後の金曜日を「プレミアムフライデー」と呼ぶこととし、午後3時の退社を推奨する制度です。米国では「ブラックフライデー」と呼ばれる年末商戦が定着していますが、これを参考に政府や企業がイベントを開催することを想定しています。株式市場では、いまだ大きく話題になっていないとみられますが、2月に入れば注目度が上がる可能性は十分あります。

残業や休日出勤の削減すら難しい現実で、効果を疑問視する声は少なくないようです。しかし、当初隔月程度とみられていたこの取り組みが毎月になっていることに、政府の「本気」を感じることもできます。これを契機に労働時間の短縮を加速させ、あわよくば消費の喚起にも結び付けるという狙いもありそうです。

大手広告会社「博報堂」が行った調査では、図2にもありますように、「プレミアムフライデー」が実施された場合、多くの人が「旅行」をしたいと考えているようです。金曜日の夕方から出かけて1泊し、土曜日に帰宅しても、翌日の日曜日はゆっくりできる計算です。「金発ツーリズム」あるいは「1泊1.5日」といった旅行の需要増につながりそうです。

そうなると東京発であれば、箱根、熱海、伊豆、あるいは日光など近場の観光地の人気が高まる可能性があり、小田急 <9007> や東武 <9001> などが注目される場面もありそうです。大阪発であれば、伊勢・志摩、南紀、有馬温泉等がより行きやすくなるかもしれません。その意味で関西に広く展開し、旅行代理店も傘下にしている近鉄グループホールディングス <9041> や有馬温泉にアクセスする神戸電鉄 <9046> 等に追い風が吹く可能性もありそうです。

宿泊まで行かなくとも、近場の行楽スポットも行きやすくなりそうです。金曜夕方、これまでよりも少し早めに行けるならばオリエンタルランド <4661> にも新しい魅力が出てきそうです。東京ドーム <9681> で開催のコンサートやイベントにも新たな需要が喚起される可能性がありそうです。また東京都競馬 <9672> については大井競馬場のナイター競馬で参加できるレースが増えそうですが「使い過ぎ」には要注意となりそうです。

「プレミアムフライデー」の過ごし方は?(単一回答)

「プレミアムフライデー」と関連銘柄(例)

※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。

鈴木英之
SBI証券 投資調査部

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