アップルの2017年第1四半期の業績発表が、米国時間の1月31日に迫ってきた。そうしたなか、米決済サービスの大手ペイパル共同創業者で、シリコンバレーを代表する投資家のピーター・ティール氏が、1月11日付の『ニューヨーク・タイムズ』紙とのインタビューで、「アップルの時代は終わった」と宣言し、大いに注目を集めた。
トランプ米大統領の政権移行チームに参加するなど、話題には事欠かないティール氏は、「スマホ分野ではこれ以上のイノベーションが起こらないからだ」と理由を説明し、「アップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)のせいではない」とも付け加えた。
これに対し、市場は特に大きく反応せず、アップル株はインタビュー前と変わらない120ドル前後で推移している。しかし、現在アップルの企業収益の稼ぎ頭であるiPhoneの人気の源泉がユニークなイノベーションにあることを考えれば、聞き捨てならない発言だ。
本当に、iPhone のイノベーションはスティーブ・ジョブズ前CEOの死とともに終わってしまったのか。同社のその他の事業分野で、新たな革新が生まれるのではないか。探ってみよう。
スティーブ・ジョブズがイノベーションの源泉
最近のアップル株の調子は、悪くない。2015年から2016年初頭にかけて、35%という大暴落を演じた後は、順調に値を戻し、投資家たちも「喉元過ぎれば熱さを忘れる」のことわざ通り、何事もなかったかのように取引を行っている。11月の米大統領選が終了後からは8%、今年に入ってからも3%上げている。
だが、ティール氏の発言通り、最近のiPhoneに以前のようなワクワク感がなくなってきているのも事実だ。そんな消費者の感情を反映してか、売り上げが低迷し、1月から3月の間に最新機種のiPhone 7の生産が当初予定より10%削減されると報じられている。
ティール氏の「アップルのイノベーション不足」発言をさらに裏付けるのが、ジョブズ前CEOの下で次々とヒット商品を送り出した元アップルのエンジニア、ボブ・バロー氏が1月17日、米経済専門局CNBCとのインタビューで語った評価だ。「アップルは、ソニーの二の舞」論である。
バロー氏は、「企業文化が変質した。クックCEOがアップルを、退屈な営業企業にしてしまったのだ」と、激しい調子で非難。「スティーブ・ジョブズは職場に混沌をもたらしたが、そのめちゃめちゃさが、イノベーションの極致である初代iPhoneを生んだ」とバロー氏は回顧し、「スティーブの時代には、自分の職責や地位や指揮命令系統に関係なく、『問題があるなら、俺に任せてみろ』という雰囲気だった。西部の荒野のようだった」と、活気とヤル気に満ちていたアップルを懐かしがった。
同氏は、「今では、アップル社員は自分の与えられた職務だけを忠実に実行し、『それは、自分の仕事ではないから』と、自分の任務からはみ出ようとしない。だから、最大のインパクトを持つ製品を送り出せないのだ」と分析した。その上で、「おもしろい商品を作り出せたのは、プロジェクトが最優先であり、組織が最優先ではなかったからだ」と結んだ。
こうしたなか、モルガン・スタンレーのアナリスト、ケイティー・ヒューバティー氏は顧客向けの分析で、「2017年のiPhoneの売り上げは、ウォール・ストリートの予想を下回る」と、当初予測を下方修正。 しかし、「同時に、9月発売が予定される次世代のiPhone 8の売れ行き好調を予想しており、我々の投資推薦銘柄トップであることに変わりはない」と述べ、ガラス製のボディーや有機ELの鮮明なディスプレーを搭載するとされるiPhone 8のイノベーションに期待を表明した。