ケーススタディで読み解く「金利・為替・株価」の相関関係
「申酉騒ぐ」――相場格言にある通り、2016年の株式市場は荒れに荒れました。日経平均が大きく変動した額と理由を手短に振り返ると、
- 1月上旬:戦後初となる年初6日連続下落(中国の景気減速不安や原油安)
- 2月中旬:3営業日で約2000円、ドル円は24時間で3円下落(円高主導)
- GW:連休前後で約1500円、ドル円は5円ほど下落(円高主導)
- 6月24日:Brexitで約1290円の下落。下落幅は歴代8位(政治イベント)
- 11月中旬:米大統領選を受け920円ほど下落するも、翌日には+1092.88円(政治イベント)
- 12月:米利上げもあり、上昇相場が継続。年足は陽線で引け(金利変動)
このように、さまざまな要因によって動きました。2017年になっても、 日銀の指値オペで株も為替も大きく動く など、まだまだ乱高下は続きそうな気配が感じられます。
ここで「為替が動くと株価が動く理由」「金利の変動が株価に及ぼす影響」などがイマイチわからない方もいることでしょう。そこで、実例を交えつつ「金利と為替と株価」の相関関係の基礎知識を見てみましょう。
教科書通りにならないこともある「金利と株の関係」
手始めは「金利と株の関係」です。
かつては 「金利上昇は株価下落・金利低下は株価上昇というのが教科書通りのセオリー」 と言われてきました。金利を上げるということは「株式よりも利回りのいい債券へ資金が動く」「預金金利が上がるので貯蓄性向が高まる」「貸出金利が上がるので高額消費や企業の設備投資意欲が減退し、経済が低迷する」動きを呼び起こし、結果として株価が下がる(金利低下時はその逆)という理屈があるためです。
しかし、最近の実態をみると金利と株価は連動している、つまり
「金利の上昇とともに株価も上昇」
という現象が見られ、アメリカのFRB(連邦準備理事会)が昨年12月に金利の誘導目標を0.50-0.75%へと0.25%の利上げを決定したにもかかわらずドルが高値をとり、米株が上昇し続けたのもその一例です。これはどういうことなのでしょうか?
金利が上下するのは、そもそもどんな時なのか
先にも触れたように、金利を上昇させるということは「貯蓄性向を高めたり、貸出金利の上昇による消費・投資意欲を低減させることで、今後の市中経済を減速(沈静化)させる」ことと同じなので、その時点における景気は基本的には強い状態です。
ですので、 金利を上げたと同時に景気が反転するわけではなく、しばらくは企業業績は好調な勢いに駆られて推移 し、株価も上昇します。物理学で言う「慣性の法則」をイメージするとわかりやすいでしょう。
これは金利引き下げ時も同じことがいえます。金利を下げる必要性に迫られたということは、基本的に景気が悪いときです。ですので、利下げ直後もしばらくは全体の株価は下落が継続し、そのうち業績に対する金利の影響が大きい銘柄から反応し、徐々に全体に波及していくといったプロセスをとります。
金利の上げ下げに関して発表があり「瞬間的な市場の反応はあったものの、その後しばらく理屈に合わない動きが続く」といった現象は概ねこのような理由によります。
「円安=株高/円高=株安」の関係
為替と株価の関係は熟知している方も多いと思いますが、簡単に触れておきます。
1個当たり100ドルの商品を1万個輸出するとき、為替レートが1ドル=120円のときは円建ての売上は1億2千万円、円高が進んで1ドル=100円になると、円建ての売上は1億円となり差引2000万の売上減となる。逆に1ドル=140円と円安になった場合は円建ての売上は1億4千万となり、売上高が伸びる。
ここで、国内には輸出産業・輸入産業・内需産業とさまざまな企業があるが、日経平均の構成銘柄は自動車やエレクトロニクスなど輸出産業に属するものが主流となっているため、個々の輸出企業のみならず日経平均も「円高=株安/円安=株高」となりがちである――
これは輸出産業にを取り上げての簡単に記述したものですので、輸入比率の高い企業は逆に「円高=輸入原材料のコスト減→業績・株価にとってプラスの効果」に、完全に国内で完結するサービスを提供するような内需関連銘柄は業績に対する為替の影響は少なくなります。
このほか業績に与える為替の影響として「 想定レート 」があります。一般的に、企業は来期の予算を今期中に決めます(例:3月決算の企業であれば、だいたい1~3月に来期の予算を決定)が、そのとき、為替が業績に大きな影響を及ぼす企業は、想定レートを定めたうえで見通しを立てます。
たとえば、ある輸出中心の企業が期首に1ドル=110円で想定していたとします。しかし、実際には100円程度で推移しそうな場合、その企業の業績も当初の想定してたときより悪化すると予測できるため、株価が業績悪化を織り込んで下げたり、その企業が中間決算発表時に業績の下方修正を一緒に出したりします。
このような
想定レートと実際の為替の動きを比べることで、決算の数字が上振れ・下振れする可能性が考慮され、株価が動く
ことになります。
為替と金利の関係
残った「金利と為替の関係」もみてみましょう。本来、金利の変動は短期的な資本移動を促すものです。「金利が高い」とは「利回りがいい」と同義なのである二つの通貨間で金利差があった場合、 金利が低い通貨は売られ、金利が高い通貨は買われます 。
また、金利差が大きいほど利回りの差も大きくなるので、一方の国が利上げ(利下げ)を行った場合、為替レートは大きく動きます。基本的には米金利のほうが高いので 「金利差拡大=円安ドル高/金利差縮小=円高ドル安」 ということができます 。 本記事冒頭でも挙げた、昨年12月の米FRB(連邦準備制度)による利上げは、円安ドル高の動きを呼び起こしました(それにつられて日経平均も上昇)。
金利は政策によって動く要素が大きいため、プロの投資家や一部のFXトレーダーもその動向に着目しています。とりわけ、
2年物国債(償還期限が2年と定められている国債)の利回り比較
は、金融政策に対する市場の見方が色濃く表れるため、指標として重宝されています。上図は「2年物米国債と2年物日本国債の利回りの差」と為替の動きを重ね合わせたグラフですが、非常によく似た動きをしていることがわかると思います。
ケーススタディ「2017年2月3日、その時何が起こった?」
では、これらの基礎知識を踏まえて、2月3日のお昼を挟んで発生した「イールドカーブ・コントロールと日経平均急落&急騰」を読み解いてみましょう。
通常、日銀の国債買入オペの通知時刻は10:10と14:00の2回ですが、10:10に通知された内容が市場が期待していたほどのものではなかっため、失望感から債券が売られ、長期金利は一時0.150%近くまで上昇しました( 「債券価格と金利の関係」の解説記事はこちらを参照 )。
債券市場とほぼ時を同じくして、株式・為替の両市場も反応。債券市場参加者と同様の失望感や金利の上昇(=日米間金利差の縮小)もあって株式市場は急落。為替相場も円高ドル安の動きを見せました。
そして、11:30となり株式市場は昼休憩となります。株式市場が止まっている間も為替・債券市場は動いていますが、そこでは極度に値が変わるような動きはしていませんでした。そのまま14:00まで推移するかと思われましたが、株式市場の後場寄りでもある12:30、日銀にしては異例の時間に次のような発表がありました。
(注4)
(注4)
スタート日:2017年2月7日(注4)国債買入(固定利回り方式)(残存期間5年超10年以下)の固定利回較差は、0.006%。この結果、10年利付国債345回の買入利回りは、0.110%となる。買入金額に制限を設けずオファー。
(日本銀行 「オペレーション(日次公表分) 2017年2月3日」 より一部抜粋)
中身は、イールドカーブ・コントロールの一環として昨年11月にも行われた「買入無制限の指値オペ」でした。昨年の指値オペは「前日終値に対し高い金利(=安い債券価格)で買入」という魅力のないものでしたが、今回は「 0.150%近くまで上昇した金利を抑え込むためのオペ=市場価格より高値で債券を買入 」というものでした。
これを受け、債券市場は上の図のように債券価格が急上昇(=金利低下)。また、前ページの図のように株式市場も後場寄りで急騰、為替相場も高値をとるなど、各市場は大きく反応しました。
日銀が異例の時間にオペを公表をした理由や、こうした方法に対する評価はアナリストや市場参加者によってさまざまですが、このように何かが一つ動くと、単一の市場だけではなく他の市場も相関的に動くのがよくわかると思います。
このように、経済を表すものとして最も身近な株価は、金利や為替などさまざまな要因を受けて動くものです。投資をするならもちろん、するつもりがない人でも、株価の動向を注視することで社会の動きを確認することができるので、興味を持ってみてはいかがでしょうか。(提供: 日本実業出版社 )
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