そーせいグループ(以下、そーせい) <4565> という上場企業がある。2016年前半に「バイオ祭り」と呼ばれた大相場があり、そーせいはその中でもシンボル的な銘柄として注目を集めた。同社の株は現在もなお個人投資家の人気が高い。
しかし、そーせいには投資判断の重要な手掛かりとなるPER(株価収益率)が算出されていないし、企業業績予想もない。それなのに、なぜ「バイオ祭り」で買われたのだろうか?
今回は、株式投資を始めたばかりの初心者にとって「謎だらけ」とも言える創薬ベンチャーを取り上げよう。
そーせいの時価総額は2240億円
そーせいは、東証マザーズのシンボルストックと呼ばれるほど人気が高い。同社の時価総額は2240億円で、東証マザーズの上場銘柄の中では第3位だ。
ちなみに、東証マザーズの時価総額ランキングを見ると第1位がミクシィ <2121> 、2位 CYBERDYNE <7779> 、そして3位がそーせいと続く。この上位3社の時価総額の合計は東証マザーズ全体の約21%に達する(※データはすべて2月14日時点)。
東証マザーズ指数は時価総額ベースなので、この3社の指数寄与度は大きい。個人投資家がメインプレイヤーの東証マザーズにおいて、そーせいの存在感は絶大だ。
投資初心者には「謎だらけ?」の決算
2月10日、そーせいは2017年3月期における第3四半期まで(4〜12月)の決算を発表した。9カ月実績の売上は2.2倍の171億円、営業利益は4.5倍の126億円と好決算だった。
しかし、そんな好決算にもかかわらず、同社は「通期の営業利益予想」を171億円から124億円に大幅に下方修正している。翌営業日の13日には寄り付きから売り気配となり一時1万2400円と年初来の安値を更新、5.6%安まで値下がりした。しかし、売りが一巡すると、その日のうちに1万2710円まで反発。さらに翌14日は530円高(4.2%高)の1万3240円まで上昇している。
株式投資を始めたばかりの初心者にとって、そーせいの決算は「謎だらけ」ではないだろうか。たとえば、初心者の中には、投資判断の手掛かりの一つとしてPERを学んだ人も多いことだろう。しかし、同社は通期の売上と営業利益の予想は出しているが「通期の最終利益の予想」をだしていない。このため、今期予想のPERも算出されていないのだ。
投資初心者が、こうした謎を理解するには、まず「創薬」というビジネスモデルを知ることが重要だ。次のパートでは「創薬」について解説しよう。
創薬ベンチャーとは「定期的な売上がない」ビジネス
「創薬」とは、新しい薬品の設計・開発や新しい治療方法を開発する専門のベンチャー企業である。かつては、大手製薬企業内や大学で研究されていた分野だ。
薬品や治療方法の開発には、時間と資金がふんだんにかかる。そういった開発を専門に請け負う会社として始まったのが「創薬ベンチャー」なのだ。
開発中の案件は「最終ステージ」にたどり着くまで売上はたたない。その一方で研究費は発生するので、フローでは当然赤字となる。売上の大半は、開発済み薬品のロイヤリティー収入や、臨床段階から申請前後にまでステージが上がった薬品を大手薬品会社に「ライセンスアウトして得る」マイルストーン収入などとなる。
安定した売上が見込めないということは、基本的に商品開発が進むまで資本金を食いつぶすことになる。この問題を解決する手段の一つが IPO(新規公開、新規上場)なのだ。東証マザーズ市場はビジネスモデルで将来性があるなら赤字でも上場できるので、IPO で資金調達をする創薬大手が多い。
だから、そーせいほどの大手になっても業績は安定しない。そもそもが、開発中の薬品パイプラインの「将来性を買う銘柄」であり、四半期毎の決算で売り買いを判断するような企業ではないのだ。
グローバル化が進む薬品業界の市場規模は巨大だ。小野薬品工業 <4528> が開発したオプジーボのような世界的なピカ新薬(画期的新薬)や iPS 細胞の手術の臨床法などを開発できれば会社の業績が一変する世界なのだ。
先に述べた通り、そーせいの株価は「表面上の数字」で一時的に売られた。
ただ短信には「子会社である Heptares Therapeutics 社が保有するパイプラインに関して、世界大手製薬会社 Allergan plc の完全子会社との提携契約等、大きな成果を得ることができました。また、前連結会計年度に Heptares 社が AstraZeneca社へ導出したがん免疫療法の新薬候補の第I相臨床試験が開始され、日本国内における医薬品開発についても、当期は口腔咽頭カンジダ症治療薬の第III相臨床試験を終了するなど、研究開発を着実に進めています」との記載があり実態は順調であることが確認されている。一時的に急落しても、すぐに押し目買いが入って反発したのはこのためだろう。
創薬ベンチャーはほとんどが赤字
創薬を理解したうえで見てみると、東証1部のペプチドリーム <4587> も2月14日発表の第3四半期決算は赤字転落となっている。通期予想はだしておらずPERも算出されていない。
マザーズで時価総額が大きい創薬では、ヘリオス <4593> 、サンバイオ <4592> 、オンコセラピー・サイエンス <4564> 、ナノキャリア <4571> 、窪田製薬ホールディングス <4596> 、ジーエヌアイグループ <2160> 、グリーンペプタイド <4594> などがある。ほとんどの銘柄が赤字でPERの表示はない。こういう業態には四半期毎の業績や通常の株価指標は「まったく通用しない」ことを覚えておきたい。(ZUU online 編集部)