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(写真=The 21 online)

「復習のタイミング」を間違えなければ、覚えられる!

物忘れが激しい、新しい知識が定着しない……そんな悩みを持つ人は多いだろう。社会人が新しいことを覚えるためには、具体的にどうすれば良いのか。そこで、予備校のカリスマ講師として知られ、ビジネスマン向けの勉強法などの著書も数多く出版している出口汪氏に、覚えるべきことをしっかり記憶し、それを定着させるための方法論についてうかがった。

まずは記憶するべき内容を厳選する

学生時代、試験勉強などで「暗記」しなければならないことは多かったと思います。そんなとき、なかなか覚えられず苦労した経験を持つ人は、「自分は頭が悪いから覚えられないんだ」と思っているかもしれません。

実は、それは間違いです。記憶力は本来、頭の良し悪しとは関係のないものです。では、覚えられる人とそうでない人は何が違うのか。それは、記憶するための「方法」です。方法を間違わなければ、誰でもきちんと知識を蓄積できるのです。

間違った方法とは何かというと、典型例としては「詰めこみ型暗記」です。学生時代、歴史の年代や英単語をやみくもに覚えた経験が誰にでもあるはず。これは効率の悪い方法です。

とくにビジネスマンの場合、学生の試験勉強と違い、記憶したことをアウトプットし、パフォーマンスにつなげなくてはならない立場でしょう。そのとき、膨大な暗記で脳内が情報過多になっていては、適切に情報を取り出せません。

そもそもこの時代、情報の量や正確性に関してはコンピュータのほうがはるかに上。細かいことは機械に任せ、「大事なことだけを覚える」のが肝要です。

では、大事なこととそうでないことを見分けるには何が必要でしょうか。それは論理力です。書かれていることを筋道立てて理解する力が不可欠なのです。

論理的に物事を見るときの物差しは三つ。「イコール関係」「対立関係」「因果関係」です。

個々の事例や現象から共通項を引き出す、共通項を持つ概念との対立概念を見出す、何が原因で何が結果かを見極める。これらの視点を持てば、書かれていることを構造的に理解できます。記憶するには、この「理解」が不可欠なのです。

覚えておきたい知識は「長期記憶」に保存

「理解しなくても、覚えることは可能では?」と、「詰め込み経験者」は考えることでしょう。確かに、一時的に記憶することはできます。しかしその記憶を、ずっと維持できるでしょうか?

記憶には「短期記憶」と「長期記憶」があります。五感で受け取ったあらゆる情報は、一時的に脳の「海馬」に保管されますが、この短期記憶は、すぐに忘れ去られるものです。電車で向いに座った人の服の色は、降車直後なら覚えていられても、数時間後には忘れるでしょう。

それに対して、「これは保存すべき」と脳が判断した情報は、「側頭葉」にある長期記憶に入ります。

その判断基準の一つが「関心」です。もし向かいに座った人が魅力的だったり、服のデザインが印象的だったりすれば、数時間が経っても記憶は薄れません。興味があれば自然に情報は頭に入り、持続するのです。

そしてもう一つの基準が「理解」です。情報を整理して理解すると、脳はそれを長期記憶に振り分けます。

つまり目指すべきは、関心と理解とを持って「長期記憶」へと情報を刻み込むことなのです。

記憶維持の決め手は「反復」のタイミング

とはいえ、関心や理解抜きで覚えなくてはならないこともあります。資格試験などの場面ではやはり暗記が必要。「語源の共通する英単語を、系統立てて覚える」「法律の条文の意図を考える」といった論理的理解をするにも、その前提となる知識を暗記しなくてはなりません。

そこで役立つのが「反復」です。テキストを読み込んで短期記憶に刷り込んだ後、それが消えないうちに再び見て確認。また消えそうなタイミングで確認――これを4~5回繰り返すと、長期記憶に刷り込まれます。

覚える量を絞り込むため、使うテキストは1冊に絞りましょう。その1冊を「バイブル」にして、何度も見て頭に馴染ませていくのが得策です。

この作業で一番大変なのは、1回目です。未知の情報を入れるには労力がかかるからです。そのとき、学生時代の教科書や参考書をバイブルにするのは大いに効果的です。はるか昔とはいえ、一度触れた情報は「そうそう、こうだった」と思い出しやすく、記憶も強化されやすいのです。

加えて、暗記とはいえ、論理的に理解しようとする姿勢も不可欠。「ポイントはどこか」「キーワードは何か」などと絶えず考えながら読むことが大事です。

こうして1回目が済んだら、1時間後には2回目を。短期記憶が薄れる前に同じ情報に触れ、理解できていなかった部分を反復します。すると、1回目より記憶が薄れる速度も遅くなるので、3回目は翌日でOK。1回目に行なったことをすべておさらいしましょう。そしてさらに一週間後、4回目のチェック。覚えていないものだけを集中的に学習すれば万全です。

アウトプットで記憶はさらに強くなる

読むだけでなく「書く」ことも有効です。手を動かして確認することで、より集中力が高まります。キーワードにマーカーを引く、重要事項をノートに整理するなどの作業で、記憶をさらに強めましょう。

ノートは、書いた後も繰り返し見てチェックし、覚えられたところは塗りつぶしましょう。塗りつぶし用のノートの他に、保存用として綺麗に清書したノートをつくるのも良い方法。いわば、「書く」というアウトプットの反復です。アウトプットは、記憶を強化するには最適の方法です。

そういう意味では、1~2度目の反復初期、まだ知識が曖昧な段階で問題集を解くのもお勧め。問題を解くには理解しないといけないので、論理的思考力がフル稼働します。

さらに良いのは、人に説明すること。たとえば本の内容をしっかり記憶したいなら、概要や感想を話せる場や仲間を作ると良いでしょう。理解しなければ説明できませんから、思考力を働かせて読まざるを得ません。

学んだことをどう表現するか。その視点を持てば、より確かな知識の蓄積が可能になるでしょう。

出口 汪(でぐち・ひろし)〔株〕水王舎代表取締役
1955年、東京都生まれ。関西学院大学大学院文学研究科博士課程単位修得退学。広島女学院大学客員教授、論理文章能力検定評議員。現代文講師として、予備校の大教室が満員となり、受験参考書がベストセラーになるほど圧倒的な支持を得ている。また「論理力」を養成する画期的なプログラム「論理エンジン」を開発、多くの学校に採用されている。『出口汪の「最強!」の記憶術』(水王舎)など、著書多数。 http://www.ronri-engine.jp/ (取材・構成:林 加愛)(『 The 21 online 』2017年2月号より)

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