スマホ検索時代の今、「記憶力」は不要?

「記憶力が最強のビジネススキルである」――と聞いたら、あなたはどう思いますか。

「記憶力?試験勉強ならともかく、ビジネスの世界ではそんなの関係ないよ」

「覚えていなくても、今ならすぐにスマホで検索すれば済む話。そんなことより、発想力、創造力がビジネスパーソンには必要でしょう」

こんな風に思う人も多いかもしれません。

大学受験のセンター試験も、従来の「知識を記憶し再生する力」から「考える力」重視になるといいますから、「記憶」や「記憶力」を軽視するのも無理はないかもしれません。

しかし、だからといって「記憶力は現代人にとって不要」と結論づけるのは、大きな誤解です。

一般的に、「記憶」というと、いわゆる「暗記」を思い浮かべ、知識や情報をとにかく覚えることだと思われるかもしれませんが、それは記憶という機能のほんの一部にすぎません。

この記事を読んでいる今もそうですが、あなたは「考える」ために何を使っているでしょう?新しいアイデアを生み出すために何を使っているのでしょうか?

もうお気づきのように、それは「記憶」です。

普段、意識していないかもしれませんが、あなたは常に「記憶」を活用しているのです。

いくらインターネットが発達し、スマホですぐになんでも検索できるようになっても、「記憶はインターネットに任せればいい」なんて思っていると、それは非常に危険です。

検索エンジンは「何を検索するか?」は教えてくれません。あなたの記憶がスカスカであれば、せっかくのインターネットも活用できないのです。

あらゆるビジネススキルは「記憶」に始まる

普段はほとんど意識することのないわれわれの「記憶」。

しかし、もう気づかれたように、常に記憶は働いています。今この瞬間も勝手に思い出されてわれわれの思考や行動、さらには意思決定にも大きな影響を及ぼしています。

何かを理解するにしても、「わかった!」というのは記憶のなかで新たなつながりが生まれたことにすぎません。何か新しいことを考えるといっても、それは記憶にあるものを切り離し、結びつけていることなのです。伝えることにしても記憶がかかわっています。「伝える」=「相手の記憶に残す」ということです。

こうして考えると、すべてのビジネススキルに記憶が大きく絡んでいることがおわかりいただけるでしょう。また、ビジネススキル自体を身につけるためにも、まず記憶する、つまり「覚える」ことは必要不可欠です。そこでは、いわゆる「覚える力」としての記憶力が大きく関わります。

ただ、それだけではありません。単に新たな知識・情報を覚えるだけでなく、覚えている記憶をどのように働かせるかもビジネススキルの活用には欠かせません。

単に覚える力、思い出せる力としての「記憶力」だけではなく、記憶とどのように付き合い、それにコントロールされるだけでなく、われわれ自身が記憶をコントロールできるようになる。いわば、「記憶のマネジメント力」としての記憶力が、あなたがビジネススキルを活用してデキる人になれるかどうかの大きなカギとなるのです。

「ゼロベース思考」にも「記憶」が不可欠

たとえば、最近ではよく「ゼロベース思考」「ゼロベースで考える」といった表現がよく使われます。これまでの体験や知識にとらわれると物事に対する見方、考え方が固定化し、旧態依然とした思考しかできないからです。

「ゼロベース」と聞くと、「これまでの体験や知識などの記憶を捨て、ゼロにすること」だと思ってしまう人がいますが、そうではありません。記憶を捨ててしまえば考えるためのネタ自体がなくなってしまいます。

では、「ゼロベース思考」「ゼロベースで考える」とは、どういうことなのかというと、新しいつながりを作るために、すでにある記憶の間のつながりを断ち切ることです。

過去の経験や教えられた知識で、因果関係やストーリーなどで記憶同士がつながっています。そうなると、「○○は××である」「○○とはこういうものである」といったいわゆる「固定観念」が出来上がっています。

これをぶち壊すことが「ゼロベース」の意味です。

「ゼロベース思考」でも記憶は必要不可欠ですし、その質と量がその思考の結果を大きく左右します。そして、単に覚えるだけではなく、すでに持っている記憶に働きかけていく「記憶のマネジメント力」が問われているのです。

さらに、記憶同士を結びつけていく「思考」には、そのために記憶を呼び出していろいろな組み合わせを試していく作業領域が必要です。

そしてこれにも「ワーキングメモリ(作業記憶)」という記憶が絡んできます。このワーキングメモリという記憶をうまく活用するかどうかも思考の質に大きく影響します。

その他、集中力、コミュニケーション力、さらにはリーダーシップといった、一見記憶とはかけ離れているように思えるスキルにも「記憶」が大きく影響を与えていることがわかってきています。

あなたがまず取り組むべきはあなた自身の身近にある「記憶」であり、それを有効に活用するための「記憶力」なのです。

丸暗記とは違う「3つの記憶」とは?

『記憶力が最強のビジネススキルである』では、認知科学の知見も参考に、さまざまな「記憶」とその働きを紹介しながら、あなたがビジネススキルを効果的に習得・活用するためのポイントを解説しています。

最後に、この記事を読んでいる人に多いと思われる「ノウハウコレクター」の方に役立つ「3つの記憶」を紹介しておきましょう。

「ノウハウコレクター」とは、こういった記事や本をたくさん読んだり、セミナーや講座に参加したりして、多くのノウハウを知っている、しかし、そのノウハウを活用できていない「残念な人」のことです。

「ウッ、自分のことだ……」と思われた人がいるかもしれません。

実は私自身も長い間、たくさんのノウハウを蓄えながら活用できないノウハウコレクターでした。

そんな元・ノウハウコレクターの私からお伝えしたいのが、次の「3つの記憶」です。この正体を知り、これをマネジメントすることで、あなたはノウハウコレクターから脱出できるでしょう。

その「3つの記憶」とは、「知識記憶」「経験記憶」「方法記憶」、この3つの記憶です。

「知識記憶」とは文字通り「知識」に関する記憶であり、「経験記憶」はあなた自身の「経験」に関する記憶です。

「方法記憶」が少しわかりにくいかもしれません。これは言葉で表わすことができない記憶であり、身体で覚える記憶です。たとえば、「自転車の乗り方」です。自転車の乗り方を説明しようと思っても、なかなかできないでしょう。

「サドルにまたがって、ハンドルを握って、ペダルを踏んで…」ということは言葉にできるにしても、だからといって自転車には乗れませんから。

ノウハウを知っているというのは「知識記憶」です。そこから本当にノウハウを活用できるようになるには、それを「経験記憶」に落とし込み、さらには「方法記憶」にまですることが必要なのです。

この「3つの記憶」を知ると、自分がどの段階にいるかがわかり、新たなノウハウを追い求めて悩み続ける「ノウハウコレクター」から脱出することが可能になります。

詳しくはぜひ、『記憶力が最強のビジネススキルである』をお読みください。

あなたがこれまで蓄えてきたノウハウをようやく活かすことができるようになるでしょう。もちろん、これから新たなノウハウ、ビジネススキルを身につける方のために、「覚える」ためのノウハウ、記憶術も紹介しています。ぜひご活用ください!

『記憶力が最強のビジネススキルである』宇都出雅巳著/かんき出版

宇都出雅巳(うつで・まさみ)トレスペクト教育研究所代表
1967年生まれ。東京大学経済学部卒。出版社、コンサルティング会社勤務後、ニューヨーク大学留学(MBA)。外資系銀行を経て、2002年に独立。30年にわたり、記憶術と速読を実践研究し、脳科学や心理学、認知科学の知見も積極的に取り入れた独自の勉強法を確立。受験生・ビジネスマン向けの講座・個別指導を行うほか、企業研修や予備校講師の指導も行う。専門家サイト・オールアバウト「記憶術」ガイド。主な著書に『「1分スピード記憶」勉強法』(三笠書房)、『合格る技術』『合格る思考』(すばる舎)、『速読勉強術』『絶妙な聞き方』(PHP文庫)、『暗記が苦手な人の3ステップ記憶勉強術』(実務教育出版)、『速読・多読でビジネス力が高まる!スピード読書術』(東洋経済新報社)など多数。
ホームページ:www.utsude.com
Ameba公認専門家ブログ「だれでもできる!速読勉強術」:http://ameblo.jp/kosoku-tairyokaiten-ho/(『 The 21 online 』2017年03月08日公開)

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