要旨

  1. 3月調査短観では、注目度の高い大企業製造業で2四半期連続の景況感改善が示されると予想する。大企業非製造業の景況感も6四半期ぶりに改善すると見込んでいる。16年10-12月期の実質成長率は前期比年率で1.2%となり、日本経済が回復基調を維持していることが示されたが、今年1月以降の経済指標も総じて底堅い。大企業製造業では輸出の回復や円安の持続を受けて幅広く景況感の改善が見込まれる。非製造業も、消費の持ち直しを受けて景況感が改善するだろう。中小企業の業況判断D.I.も大企業同様、改善が示されるが、人手不足感が大企業以上に強く、マインドの抑制に作用するとみている。
  2. 先行きの景況感については、海外経済の不透明感が強いことから、幅広く悪化が示されると予想。トランプ米大統領の政策運営、欧州の政治リスクなど、情勢は極めて流動的であり、企業は警戒感を持たざるを得ない。また、国内では今後の物価上昇が予想されることから、消費に与える悪影響への懸念が出やすい。
  3. 16年度の設備投資計画は前年度比2.6%増と前回から上方修正されると予想。例年、この時期に上方修正されやすいクセがあるうえ、収益が底入れしたことも追い風になっているとみられる。17年度の設備投資計画は、16年度比▲4.0%と予想。収益の底入れを受けて、近年の3月調査での伸び率をやや上回るものの、先行きの不透明感が重石となる。
  4. 今回の短観で最も注目されるのは、2017年度の事業計画だ。例年3月調査で初めて翌年度の計画が調査・公表される。円安進行等の影響によって企業収益が底入れした反面、海外経済を巡る先行き不透明感は強い。そうした状況で、企業が来年度の為替相場・収益動向・設備投資などについて、どのような姿を想定しているのかが注目される。

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3月短観予測:景況感は幅広く改善、先行きには根強い警戒感も

日銀短観
(写真=PIXTA)

◆製造業・非製造業ともに改善を予想

4月3日発表の日銀短観3月調査では、注目度の高い大企業製造業の業況判断D.I.が15と前回12月調査比で5ポイント上昇し、2四半期連続で景況感の改善が示されると予想する。大企業非製造業の業況判断D.I.も23と前回比5ポイント上昇し、6四半期ぶりに改善すると見込んでいる。

前回12月調査では、円安の進行や国際商品市況の持ち直し、生産の回復などから大企業製造業の業況判断D.I.が改善する一方、インバウンド消費鈍化の影響などを受けて非製造業では景況感が伸び悩みとなっていた。

16年10-12月期の実質GDP(国内総生産)成長率は前期比年率で1.2%(2次速報値)となり、日本経済が回復基調を維持していることが示されたが、今年1月以降の経済指標も総じて底堅い。1月の鉱工業生産は前月をやや割り込んだものの、水準は高い。世界経済の持ち直しを受けて、輸出(数量)は2月にかけて好調を維持している。そして、これまで冴えなかった消費にも、雇用所得環境の改善などを受けて持ち直しの兆しがみえる。1月の消費活動指数(実質)は、前月をかなり上回り、2014年3月以来の水準を回復したほか、2月の自動車販売台数も前年比で大きく増加している。また、金融市場では、今年に入って以降、やや円高方向にシフトしているものの、米大統領選前と比べると依然として大幅な円安水準が維持されている。

今回、大企業製造業では輸出の回復や円安の持続を受けて幅広く景況感の改善が見込まれる。国際商品市況も総じて比較的高い水準を維持しており、素材系業種の景況感をサポートしそうだ。

非製造業については、消費の持ち直しを受けて景況感が改善するだろう。大都市圏での再開発・東京五輪を控えた建設需要もサポート要因になりそうだ。

中小企業の業況判断D.I.は、製造業が前回比3ポイント上昇の4、非製造業が2ポイント上昇の4と予想。大企業同様、中小企業でも製造業・非製造業ともに改善が示されるが、中小企業では人手不足感が大企業以上に強く、多くの企業で業務運営上の不安要素になっていることが、マインドの抑制に作用するとみている。

先行きの景況感については、海外経済の不透明感が強いことから、企業規模や製造・非製造業を問わず悪化が示されると予想。トランプ米大統領の政策運営、フランス大統領選や英国のEU離脱等を控えた欧州の政治リスクなど、情勢は極めて流動的であり、企業は先行きに対して警戒感を持たざるを得ないとみられる。また、国内では今後の物価上昇が予想されることから、消費に与える悪影響への懸念が出やすい。

2016年度の設備投資計画(全規模全産業)は、前年度比2.6%増と前回調査時点の1.8%増から上方修正されると予想。例年、12月調査から3 月調査にかけては、中小企業で計画が固まってくることに伴って上方修正されやすいクセがあるうえ、昨年終盤以降、円安進行等によって企業収益が底入れしたことも、設備投資の追い風になっているとみられる。

今回から新たに調査・公表される2017年度の設備投資計画(全規模全産業)は、2016年度計画比で▲4.0%を予想している。例年3月調査の段階ではまだ計画が固まっていないことから前年割れでスタートする傾向が極めて強いため、マイナス自体にあまり意味はなく、近年の3月調査との比較が重要になる。今回は、企業収益の底入れを受けて、近年の3月調査での伸び率をやや上回る計画が示されると見ている。ただし、海外経済をめぐる先行きの不透明感が強いことから、様子見姿勢を強める企業も多いとみられ、例年の伸び率を大きく上回ってくる可能性は低いだろう。

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◆注目ポイント:2017年度の事業計画

今回の短観で最も注目されるのは、2017年度の事業計画だ。例年3月調査で初めて翌年度の計画が調査・公表される。円安進行等の影響によって企業収益が底入れした反面、トランプ政権の政策運営や欧州の選挙など、海外経済を巡る先行き不透明感は強い。そうした状況において、企業が来年度の為替相場・収益動向・設備投資などについて、現時点でどのような姿を想定しているのかが注目される。

また、企業の「雇用人員判断」も一つの見どころになる。近年、企業の人手不足感は強まり続けている。前回調査では全体の26%の企業が「人手不足」と回答しており、人手が「過剰」とする企業の割合から「不足」とする企業の割合を引いたD.I.は1992年以来の強い不足感を示していた。宅配大手企業の人手不足問題がクローズアップされ、人手不足による企業経営への悪影響が懸念される中、企業の直近の状況が明らかになる。

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◆日銀金融政策との関係:影響は限定的

今回の短観では、上記の通り、企業景況感の幅広い改善が確認されるとみられ、日銀の先行きの景気回復・物価上昇シナリオをサポートする材料になりそうだ。ただし、この結果が日銀の金融政策に直接与える影響は限定的になりそうだ。

もともと残された追加緩和の余地が小さいうえ、米大統領選後の円安進行と底堅い原油価格はともに物価の上昇に作用するため、当面、日銀が追加緩和を迫られる可能性は大きく低下している。一方で目標である物価上昇率2%は依然として遠く、出口戦略を視野に入れる段階にもない。従って、日銀は2%達成を目指し、長期にわたって現行金融政策の維持を続けるだろう。従来と比べて、日本の景気や企業の景況感と金融政策の関係性は希薄化していると言える。

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上野剛志(うえの つよし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 シニアエコノミスト

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