本記事は、山崎 正典氏の著書『なぜ、赤字や債務超過でも3時間で資金調達できるのか?』(セルバ出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

なぜ、赤字や債務超過でも3時間で資金調達できるのか?
(画像=Wakko/stock.adobe.com)

売上はあるのに、なぜ手元にお金がないのだ?

多くの中小企業が直面する、構造的な資金不足のメカニズムとは

「今月も売上は順調だったのに、なぜか手元にお金が残らない…」
このような悩みを抱える経営者は、決して少なくありません。
私が銀行員として働いていた頃、多くの中小企業の社長から同じような相談を受けました。売上は伸びているのに、なぜか資金繰りが苦しい。この現象には、中小企業特有の構造的な問題が隠れています。

まず理解していただきたいのは、売上と現金の入金には必ずタイムラグが存在するということです。商品を納品したり、サービスを提供したりした時点で売上は計上されますが、実際に代金が入金されるのは30日後、60日後、場合によっては90日後ということも珍しくありません。

一方で、事業を継続するための支出は待ってくれません。従業員の給与、家賃、光熱費、仕入代金など、毎月決まった時期に支払わなければならない費用があります。
この「入金と支出のタイミングのズレ」こそが、多くの中小企業を悩ませる資金不足の根本的な原因なのです。
特に成長期にある企業では、この問題がより深刻になります。売上が伸びれば伸びるほど、仕入や人件費などの先行投資が必要になり、一時的に資金不足に陥りやすくなります。これは「成長痛」とも呼ばれる現象で、決して経営が悪化しているわけではありません。

しかし、適切な資金調達ができなければ、せっかくの成長機会を逃してしまうことになります。
私が銀行員時代に担当していた製造業の会社では、大手企業からの大型受注により売上が前年比150%に伸びました。しかし、原材料の仕入代金の支払いが先行し、売上代金の回収は3か月後という条件でした。結果として、一時的に深刻な資金不足に陥り、せっかくの成長機会を十分に活かすことができませんでした。
このような構造的な資金不足は、業種や規模を問わず、多くの中小企業が直面する共通の課題です。重要なのは、これが「経営の失敗」ではなく、「事業の成長過程で必然的に発生する現象」であることを理解することです。

「黒字倒産」は他人事ではない! 静かに忍び寄る経営危機の実態

「黒字倒産」という言葉をご存知でしょうか。損益計算書上では利益が出ているにも関わらず、資金繰りに行き詰まって倒産してしまうことを指します。これは決して珍しい現象ではなく、中小企業の倒産原因の約3割を占めているという統計もあります。
黒字倒産が起こる典型的なパターンをご紹介しましょう。ある建設会社では、大型プロジェクトを複数受注し、帳簿上は大幅な黒字を計上していました。しかし、工事代金の回収は工事完了後の一括払いという条件で、一方で材料費や人件費は毎月支払う必要がありました。
工事が長期化するにつれて、先行投資額が膨らみ、ついに資金が底をついてしまいました。銀行に融資を相談しましたが、「工事代金の回収リスク」を理由に断られ、結果として黒字にも関わらず倒産に追い込まれてしまったのです。

このような事例は、決して他人事ではありません。特に以下のような特徴を持つ企業は、黒字倒産のリスクが高いと言えます。
まず、売上代金の回収サイトが長い企業です。建設業、製造業、IT業界などでは、プロジェクト完了後の一括払いや、60日~90日の支払サイトが一般的です。このような業界では、売上が伸びるほど運転資金の需要が高まり、資金繰りが厳しくなる傾向があります。

次に、季節変動の大きい事業を行っている企業です。例えば、夏場に売上が集中する冷房機器の販売業や、年末年始に需要が高まる食品製造業などでは、売上の少ない時期に資金繰りが悪化しやすくなります。
さらに、急成長している企業も注意が必要です。売上の伸びに比例して仕入や人件費が増加するため、一時的に大きな資金需要が発生します。この時期に適切な資金調達ができなければ、成長が資金繰り悪化の原因となってしまいます。私が銀行員として見てきた中で、最も印象的だったのは、IT関連のベンチャー企業の事例です。
画期的なソフトウェアを開発し、大手企業からの受注が殺到していました。しかし、開発費用の回収には時間がかかり、一方で優秀なエンジニアの確保のために高額な人件費を支払う必要がありました。帳簿上は大幅な黒字でしたが、現金が不足し、給与の支払いにも困る状況に陥りました。
幸い、その企業はファクタリングを活用することで危機を乗り越え、現在では業界のリーディングカンパニーに成長しています。

このような黒字倒産のリスクを回避するためには、まず自社の資金繰りパターンを正確に把握することが重要です。売上の計上時期と入金時期のズレ、季節変動による影響、取引先ごとの支払条件などを詳細に分析し、資金繰り予測を立てることが必要です。
また、早期警戒システムを構築することも重要です。売上債権回転期間の悪化、在庫回転期間の延長、支払債務の増加など、黒字倒産の前兆となる指標を定期的にモニタリングし、問題の兆候を早期に発見できる体制を整えることが大切です。
さらに、取引先の信用状況を定期的にチェックすることも欠かせません。主要取引先の業績悪化や支払遅延は、自社の資金繰りに直接的な影響を与えるため、常に最新の情報を把握しておく必要があります。

なぜ、赤字や債務超過でも3時間で資金調達できるのか?
(画像=なぜ、赤字や債務超過でも3時間で資金調達できるのか?)

資金繰りの不安が奪う、経営判断のスピードと、未来への投資機会

資金繰りの不安は、単に「お金が足りない」という問題にとどまりません。経営者の判断力を鈍らせ、企業の成長機会を奪ってしまう、より深刻な影響をもたらします。
まず、経営判断のスピードが著しく低下します。新しい事業機会が現れても、「今、投資して大丈夫だろうか」「資金繰りに影響はないだろうか」という不安が先に立ち、決断を先延ばしにしてしまいがちです。しかし、ビジネスの世界では、タイミングを逃すことが致命的な機会損失につながることも少なくありません。

私が銀行員時代に担当していた小売業の社長は、絶好の立地に空き店舗が出た際、資金繰りの不安から出店を見送りました。その後、競合他社がその立地に出店し、大きな成功を収めているのを見て、「あのとき、思い切って投資していれば…」と後悔されていました。

また、人材投資にも大きな影響を与えます。優秀な人材を採用したくても、「給与を支払い続けられるだろうか」という不安から、採用を控えてしまうケースが多々あります。
しかし、人材こそが企業の最も重要な資産であり、適切なタイミングでの人材投資は、将来の大きな成長につながります。設備投資についても同様です。生産性向上や品質改善のための設備投資は、長期的には大きなリターンをもたらします。
しかし、資金繰りの不安があると、「今は我慢しよう」という判断になりがちです。その結果、競合他社に生産性で劣り、市場での競争力を失ってしまうリスクがあります。
さらに深刻なのは、経営者自身のメンタルヘルスへの影響です。常に資金繰りの心配をしていると、本来集中すべき事業戦略や顧客サービスの向上に十分な時間とエネルギーを割くことができません。

ある製造業の社長は、「毎朝目が覚めると、まず今日の支払いのことを考えてしまう。本当は新商品の開発や営業戦略を考えたいのに、頭の中が資金繰りのことでいっぱいになってしまう」と話されていました。
このような状況は、経営者だけでなく、従業員にも影響を与えます。社長が常に不安そうな表情をしていると、従業員も会社の将来に不安を感じるようになります。その結果、優秀な人材の流出や、組織全体のモチベーション低下につながる可能性があります。

銀行員時代に見てきた、資金繰りに失敗した企業と成功した企業の決定的な違い

私が銀行員として多くの中小企業を見てきた中で、資金繰りに成功する企業と失敗する企業には、明確な違いがあることに気づきました。その違いは、必ずしも企業の規模や業績だけで決まるものではありません。
まず、成功する企業の特徴として、「資金繰りの見える化」ができていることが挙げられます。これらの企業では、3か月先、6か月先の資金繰り予測を常に把握しており、問題が発生する前に対策を講じることができます。

ある機械部品製造業の社長は、毎週月曜日の朝一番に、向こう3か月の資金繰り表を更新していました。「資金繰りは天気予報と同じ。早めに雨が降ることがわかれば、傘を用意できる」というのが、その社長の口癖でした。
一方、資金繰りに失敗する企業では、「どんぶり勘定」になりがちです。「なんとなく大丈夫だろう」という感覚で経営を続け、実際に資金が不足してから慌てて対策を考えるケースが多く見られます。

次に、成功する企業は「複数の資金調達手段」を確保しています。
銀行融資だけに頼るのではなく、ファクタリング、リース、クレジットラインなど、様々な選択肢を用意しています。これにより、1つの手段が使えなくなっても、他の方法で資金を調達できます。

私が担当していた運送業の会社では、メインバンクとの関係を大切にしながらも、ファクタリング会社との取引も並行して行っていました。急な車両故障で修理費が必要になった際、銀行融資の審査を待つ時間がなかったため、ファクタリングを活用して迅速に資金を調達し、事業への影響を最小限に抑えることができました。
また、成功する企業の経営者は、「資金調達は恥ずかしいことではない」という認識を持っています。事業の成長には資金が必要であり、適切な資金調達は経営戦略の重要な一部であると考えています。

反対に、失敗する企業の経営者は、「借金は悪いこと」「自己資金だけで経営すべき」という固定観念にとらわれがちです。その結果、必要な時に必要な資金を調達できず、事業機会を逃してしまうことがあります。
さらに、成功する企業は「早めの相談」を心がけています。資金が不足してから相談するのではなく、余裕があるうちに金融機関との関係を構築し、いざという時に備えています。
ある食品製造業の社長は、「晴れの日に傘を借りる」という表現を使って、資金調達の重要性を説明されていました。「雨が降ってから傘を借りようとしても、誰も貸してくれない。晴れているうちに、いざというときの準備をしておくことが大切」という考え方です。

最後に、成功する企業は「数字に基づいた説明」ができます。なぜ資金が必要なのか、どのように返済するのか、事業にどのような効果をもたらすのかを、具体的な数字を使って説明することができます。
これらの違いは、決して生まれ持った才能や運によるものではありません。正しい知識と適切な準備があれば、どの企業でも実践可能なことばかりです。重要なのは、資金繰りを「経営の重要な要素」として認識し、戦略的に取り組むことなのです。

なぜ、赤字や債務超過でも3時間で資金調達できるのか?
山崎 正典(やまざき・まさのり)
1981年に千葉県松戸市で生まれ、現在に至るまで金融業界、特に中小企業の資金調達支援分野において豊富な経験を積み重ねてきた専門家。早稲田大学商学部を卒業後、都内の大手都市銀行に入社し、法人営業部において中小企業向け融資案件のサポート業務を担当。
2017年、ファクタリング専門会社に転職し、営業担当として現場の最前線で活動。その後、営業企画チームへ異動し、ファクタリングサービスの新商品開発やセミナー企画に従事するようになる。また、経営者向けのセミナーを企画・運営することで、ファクタリングに関する正しい知識の普及にも貢献。2024年、ファクタリング関連の情報発信を目的としたブログメディア「ファクタリング賛否両論」を立ち上げた。
現在、ファクタリング会社の現場責任者や役員との情報交換を継続的に行いながら、ブログを通じて最新のトレンドやリスク情報を発信。業界の動向を常に把握し、中小企業経営者にとって有益な情報を提供することで、健全なファクタリング市場の発展に寄与している。

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