相続対策は単に不動産活用や節税を目的とした対策だけにとどまらず、「争族」にしないために何が出来るのかを考えなければならない。
2015年に相続税及び贈与税の税制改正がおこなわれ、基礎控除額と法定相続人1人あたりの控除額が減少すると、メディアなどで対策が広く扱われるようになった。相続対策の大きなポイントは、親が元気なうちに「親の財産を(子どもや孫が)把握しておく」こと。その方法として、いま「家族信託」が注目されている。
1. 家族信託とは何か? 信託銀行との違い
「信託」といえば多くの人が信託銀行を思い浮かべるだろう。財産を有している人(委託者)が、不動産などの個人資産を信頼できる専門家(受託者)に託し、運用や管理を任せる仕組みだ。そのうえで資産を渡したい相手(受益者)に資産を渡すところまでが一連の流れ。このタイプの銀行が行う信託を厳密には「商事信託」という。受託者を「業」として行う信託業務が定義とされ、信託銀行のほかにも弁護士法人や司法書士法人が受託者となるケースもある。
一方で、受託者の役割を家族が担い、専門家がバックアップすることによって「家族間『のみ』で信託する」ことを家族信託(民事信託)という。商事信託に対して、「民事信託」という場合もある。
家族信託のメリットは商事信託と異なり、銀行に手数料を支払わなくて良い点、相続対策を委託者・受益者・受託者のすべてが「家族」で出来る点だ。
デメリットとしては、活用されるようになって時間が浅いため、税務上のメリットが整備されていない点だ。いわゆる家族信託を活用することによって、相続税の課税額が軽減されたり、所得税の軽減要因となったりということは見当たらない。