社会の状況や経営状態によって、就業規則に定めた家賃補助を見直さなければならないこともあるでしょう。従業員にとって不利な条件に変更する場合には、労働契約法に定められた不利益変更の要件を満たす必要があります。

不利益変更とはなにか

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(写真=Punyhong/Shutterstock.com)

家賃補助や労働時間などの労働条件は、就業規則によって明文化されます。企業と従業員が話し合って合意する労働契約によって決めることが望ましいですが、何百人何千人と抱える従業員全員にそれぞれ違う契約書を作っていたら、相当な手間と費用がかかります。

そこで企業は就業規則を定め、労働条件を統一します。就業規則の内容を従業員に伝えることによって、就業規則に記載された労働条件による労働契約が成立します。

就業規則は、従業員がそれに納得して労働契約を交わすことではじめて有効になります。就業規則を変更するには、従業員の過半数代表者から意見を聞く必要があります。必ずしも合意する必要はなく、強引に変更しようと思えばできますが、問題は従業員に不利な条件に変更する場合です。これを就業規則の不利益変更といい、労働契約法に要件が定められています。例えば、家賃補助の金額を下げたり、対象となる条件を厳しくしたりすることは不利益変更にあたります。

不利益変更は原則禁止だが、例外も

従業員の合意のない不利益変更は、労働契約法上、原則的に認められていません。逆に考えると、合意があれば認められるということになります。

ただし、合意がなければいかなる場合も認められないというわけではなく、例外もあります。変更内容に合理性があり、かつ従業員に周知されていれば認められ、労働契約の内容は変更されます。周知するために一人ずつ説明する必要はなく、いつでも確認できる状況であれば問題ありません。例えば、就業規則を金庫に入れて鍵をかけている場合、不利益変更は認められないということになります。

合理性ありとされるのはどういう状況か

もう一つの要件である合理性についてもう少し細かくみていきましょう。労働契約法では、合理性を次のような事情にもとづいて判断するとしています。

・ 労働者の受ける不利益の程度
・ 労働条件の変更の必要性
・ 変更後の就業規則の内容の相当性
・ 労働組合等との交渉の状況

労働契約法が生まれたのは2007年ですが、それ以前にも不利益変更の裁判例はいくつかあります。これらが集約され、明文規定が労働契約法に盛り込まれているというわけです。多くの判例では、上記の事情を考慮したうえで、不利益変更を認めています。数少ない企業側が敗訴した判例の一つである「みちのく銀行事件」(最高裁、2000年)では、就業規則の改訂によって賃金体系が大幅に変更され、不利益を被った人たちが提訴しました。

改訂の内容は、55歳役職定年制を導入することよって、それ以降の業績給を半減するなど、大幅に賃金を削減するものでした。判決では、不利益を緩和する措置を設けるべきであり、それがないまま一方的に不利益のみを与えることは許されないという趣旨のことが述べられています。

同様に定年制に関する判例、「第四銀行事件」(最高裁、1997年)は、定年の年齢を55歳から60歳に引き上げた事案です。就業規則の変更によって賃金総額は下がったのですが、労働力人口の高齢化という事情と、新設された福利厚生制度によって不利益が緩和されていることが認められ有効と判断されています。

就業規則の変更は合理的な範囲内で

就業規則を変更することによって従業員が不利益を被る場合は、前もって合意を得る必要があります。しかし、事前の合意がなくても、就業規則がいつでも閲覧できる状態にされており、変更の内容が合理的なものであれば有効です。合理的であるかどうかを判断する要素には、不利益の程度や緩和措置がとられているか、企業にとって必要不可欠な変更であるのかなど確認しましょう。(提供: フクリ!

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