いま、経営者にとっての喫緊の課題の一つが、事業継承だ。手塩にかけて育てた会社なのに、後継者がいないことで廃止や倒産に追い込まれたら、こんな悲しいことはない。各種データからここ最近の状況を踏まえつつ、誰に、どのように事業を継承したらいいのか、成功に導くための支援体制などを探った。

高齢化が進む「日本の社長」

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(写真=racorn/Shutterstock.com)

帝国データバンクが発表した『2016年社長分析』によると、日本企業の社長の平均年齢は、過去最高の59.2歳となっている。1990年の調査開始以降、社長の平均年齢は一貫して上昇しているのだ。国内の高齢者(65歳以上)人口は3,414万人、高齢化率は26.9%とされているので(2016年2月現在の人口推計、概算値)、社長で59.2歳という年齢は、まだまだ現役とはいえそうだ。

しかし、アベノミクスの失速やトランプ大統領の不透明な経済政策など、国内外で不安定要因を増す中で企業の将来像を描く時、平均59.2歳という年齢は決して若すぎるということはない。そこで問題となるのが、事業継承者問題だ。

実際、今回の帝国データバンクの調査でも、次のような状況が指摘されている。

・ 国内企業の3分の2にあたる66.1%が後継者不在
・ 社長が60歳以上(高齢社長)の企業では半数の50.0%が、「80歳以上」では34.7%が後継者不在

しかも後継者不在率は、同調査が実施された1990年の調査開始以降、一貫して上昇している。このまま放置すれば、日本経済全体の地盤沈下さえ招きかねない。

継承者は「非同族」「第三者」へとシフト

事業継承の対象者は、多くの場合息子や娘(またはその夫)、あるいは近い親戚などの同族者というのが一般的なイメージだった。しかし長引く不況や親の企業を継ぐことを嫌がる子どもの増加により、同族者への事業継承は減少しつつある。先の調査でも、下記のような結果が出ている。

・ 後継者のいる企業における後継者の属性は、「子ども」が構成比38.6%で最多となる一方、「非同族」が前回調査から1.7pt増(前々回調査からは5.8pt増)の同32.4%に上昇

では「非同族」とは具体的に誰を指すのか。

まず候補に挙がるのが、幹部社員や社員持株会だ。逆に遠い親戚に経営権を委ねるという方法もあるし、信用のできる関連会社からヘッドハンティングするという手段もある。最終的には売却(M&A)も候補に挙がるだろう。

非同族への承継には株式や債務保証の扱い、関係先との信頼関係、社内での求心力など、越えるべきハードルが多い。

しかし、座しているままでは将来の危機を乗り越えられない。実際、上記の調査でも後継者候補として「非同族」を指名するケースが数年にわたって増え続けてきている。越えるべき壁は確かに高いが、最近では同族外への承継でも利用できる「事業承継税制」や専門機関の新設など、同族外事業継承に道を開く環境は徐々に整備されつつある。こうしたサポート体制を活用すれば、同族外への事業継承はスムースに進むことが期待できる。

さまざまな支援体制

中小企業の社長にとって、事業継承の相談相手がいないというのも長年の悩みの種だった。

これまでは顧問税理士や公認会計士が相談相手になっていたが、その割合は年々減少している。しかし最近では商工会や商工会議所、金融機関などの地域支援機関が事業承継コーディネーターを用意したり、士業専門家らによる相談窓口を設置したり、地方創生の取り組みの一環として「事業引継ぎ支援センター」が設けられたり、あるいは専門家による派遣事業が開始されたりするなど、支援体制は徐々に整備されつつある。

また事業承継をきっかけに、これまでの事業すべて、または一部を廃止し新たな分野に挑む新事業者には、創業費用に加えて廃業費用の補助も行う「第二創業促進補助金制度」も登場している(補助上限1,000万円、補助率2/3)。

たとえばスーパーなどとの競合から業績が低迷し、廃業も検討していた創業160年の鮮魚店の娘が、新しく飲食店を経営しようと考えた。障害は店舗改装費だったが、第二創業促進補助金を利用し、先代からの事業を承継。旧知の料理人を集め、先代の仕入れルートを活用するなどして、評判の料理店となっているという成功例もある。

また最近では、中小企業同時のビジネスマッチングやM&Aを仲介する専門業者も増加している。まだ数は少ないが、今後ニーズの増加とともに利用が拡大すると予想されている。

さらに地方銀行や信用金庫など、地元に根づいた金融機関では、地域経済の活性化の観点から経営者や後継者に対して事業承継に関する専門の窓口を設置し、支援活動を積極的に行っている例なども増えている。

事業継承は決して簡単ではなく、時間もかかる。しかし、せっかく始めた事業が廃業や倒産とならないためにも、上記に紹介した官民による支援制度やサービスなどの利用を前向きに検討したい。中高年以上の経営者にとっては、いよいよ本気で次なる事業の次の担い手を考える好機が訪れているといえるのではないだろうか。(提供: 百計オンライン

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