「全員一律の規制」が社会をダメにする!

畑正憲,ムツゴロウ流,ムツゴロウ流「気にしない」生き方,働き方
(写真=The 21 online/畑 正憲(作家))

80過ぎという年齢を感じさせない「ムツゴロウさん」こと畑正憲氏。この50年間、ほぼ休みなしでアグレッシブに活動してきたという。
そんな氏の目から見ると、今の日本人は細かいことを気にしすぎで、どうも窮屈に生きているように感じられるそうだ。

自身の波瀾万丈の半生を振り返っていただきながら、その人生論、仕事論について語ってもらった。

アフリカで大怪我!それでも仕事は休まず

作家として活動しながら、かつてはロケで1年の半分は海外にいる生活を30年も続けていたという畑氏。それでも、病気や体調不良で休んだことはなかったという。

「私は飛行機や車の中ではどうしても文章が書けないもので、飛行機の待ち時間や現地での空き時間が貴重な執筆のチャンスでした。空港の片隅で原稿用紙を広げたり、人里離れた明かりのない村では、懐中電灯をガムテープでつるして原稿を書いたり……。

ロケから戻ると締め切りが待っているので、常に緊張した状態が続いていました。緊張感は人の免疫力を高めるようで、この50年、一度も風邪すら引いたことがありません。

一方、責任感から休むわけにはいかない、ということもありました。アフリカロケに行った矢先にウシに激突され、ろっ骨を折ってしまったことがあるのですが、ここでロケをやめてしまったらスタッフ全員に迷惑をかけ、金銭的な損失も膨大になってしまう。痛くてもごまかすしかないと、自分でテーピングをして1カ月のロケをやり切りました。

日本に帰ってしばらくして、どうも呼吸をするとき変な音がするなと病院に行ったら、ろっ骨が変な方向に曲がってくっついてしまっていました。

あるいは、アマゾンロケに行く直前に馬に足の小指を踏まれてしまい、小指が親指と同じくらいまで腫れ上がってしまったこともあります。3サイズくらい大きな靴を用意して、なんとか足を入れて、ロケに出かけました」

人間の「生きる力」はバカにできない

なんとも壮絶な体験ではあるが、畑氏はそこから「気力というものの重要性」を学んだのだという。どんなときも平静でいたほうが、結局、仕事もうまくいき、回復も早い。

「これはある意味、動物たちに教わったとも言えます。生き物と接していると、ゾウに振り回されて骨にひびが入ったり、ライオンに咬まれたり、いろいろあるわけです。でも、そんなときほど平気な顔をして、『おぉ、咬んだか。ヨシヨシ』と頭をなでる。弱みを見せれば、その瞬間に攻撃してくるからです。

そんな毎日でしたので、当時は常に200~300カ所、身体じゅうに傷がありました。これほど多くの傷をいちいち消毒していたら、すべて化膿してかえって大変です。だから私は放っておくのですが、それでも傷が治るのは非常に早かった。

もちろん、無理のしすぎは禁物ですが、細かいことを気にしすぎるべきではありません。人間の気力や生きる力というものを馬鹿にしてはいけないと思います」

「一つの正義」を押しつける人が多すぎる

だが、今の日本はむしろ、細かいことを気にしすぎる風潮があるのではないかと、畑氏は警鐘を鳴らす。

「ささいなことで騒いだり、菌を必要以上に気にしたり……。私の家は医師で、自分も一度は医学部を目指していましたから、近代医学を否定しているわけではありません。でも、私はよほどのことがない限り、病院には行きません。

また、最近は『一つの正義』といいますか、自分の考えを一方的に押しつけようという人が目立つように思います。その正義を自分の中にしまっておくならいいのですが、『俺が信じていることをあいつはやっていない、だからおかしい』と考える人が増えていますよね。私はそれを『民主主義の害毒』と呼んでいます。

私は愛煙家なのですが、最近のタバコに関する規制に、そうした風潮を感じますね。受動喫煙の害はまだ科学的に証明されていないにもかかわらず、一方的なバッシングに走る。

たとえば以前、あるテレビ番組でタバコの身体への影響を調べる実験がありました。10本のタバコにまとめて火をつけ、ウサギの鼻先にその煙を突きつけて、心拍数が上がった、などとやっていたのですが、別にタバコでなくとも、ただの紙の束を燃やした煙でも、心拍数は上がります。そんな科学的とは言い難い実験を医師がやっているのですから、あきれてしまいました。

それでもタバコの煙が気になるというのなら、車の排ガスはどうなんだ、という話になります。もう家から一歩も出られませんよ」

全員一律の規制がむしろひずみを生む

最近、話題になっている「長時間労働」の問題も、すべてを一律に規制しようとする風潮に危うさを感じるという。

「最近は『同一労働・同一賃金』とか、夜遅くまで働かせてはならないといった議論が盛んです。でも、それで社会が成り立っていくでしょうか。たとえば作家が朝8時に起きて、夕方5時には筆をおかなくてはならないとなったら、いい作品なんて生まれるわけがありません。

同一労働・同一賃金などという考え方は、チャップリンの『モダン・タイムス』の時代の労働者の話です。今は働く人もいろいろな考え方を持っているし、一人ひとり環境も能力もやる気も違う。にもかかわらず、一律に残業をするな、という規制には違和感を覚えます。もちろん、長時間残業で苦しんでいる人には対処しなくてはなりませんが、体力もあり、自分からやりたくて長時間働いている人を否定するのはどうでしょうか。

私は学校を出たあと、記録映画を撮る仕事についたのですが、そこで『接写での微速度撮影』というものを始めました。たとえば、カエルの卵を近くで撮影し、それが徐々に分裂していって、オタマジャクシになるまでを映像に収めるわけです。卵が分裂し始めてオタマジャクシになるまでは約21日間。つまりその間、ずっと撮影を続けなくてはならない。

あるとき、どこから聞きつけたのか、役所の人が『こんな働かせ方はけしからん』と会社を指導しにきたことがありました。私はその場に乗り込んでいき、『これができるのは自分しかいない。好きでやっているのになぜダメなのか』と啖呵を切ったほどです。

結局その後、タイムカードを押さないことで目をつけられないようにしようという話になったのですが、やはり、つまらない規制をするから歪みが出てくるのだと思います」

60代から新しい語学に挑戦

(写真=The 21 online)

さすがに昔のような体力はなくなったという畑氏だが、好奇心や向上心はまったく衰えていない。

「乗馬もかつてのようにはいきません。2年ほど前にテレビ番組に出たとき、予定にはなかったのですが、サービス精神で馬に乗ったらボキッと(笑)。

ただ、好奇心や学ぶ力はまったく変わっていません。たとえば私は60代になってから、新たにポルトガル語の勉強を始めました。この1月にもアマゾンに一人で行ってきたくらいです。

先日、アブダビ行きの飛行機に乗ったときのことです。隣に座った乗客が、ノートパソコンの画面を見ながらしきりと手を動かしている。画面がチラッと眼に入ったのですが、どうやら手術の様子を収録した映像のようでした。その人はおそらく外科医で、10時間以上のフライト中ずっと、手術のシミュレーションをしていたのです。圧倒されましたね。

こうした向上心があれば、人間はいくつになっても成長し続けることができるのではないでしょうか」

畑 正憲(はた・まさのり)作家
1935年、福岡市生まれ。東京大学大学院で生物を研究。会社員を経て著作活動を始め、「ムツゴロウさん」の愛称で親しまれる。77年に菊池寛賞、2011年に日本動物学会動物教育賞を受賞。(写真撮影:まるやゆういち)(『 The 21 online 』2017年4月号より)

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