話し方を磨くための「非言語情報」のコントロール法
どんなにスラスラと話しても、目が泳いでいたら説得力は一気になくなる。非言語情報のコントロールは、話し方を磨くうえで非常に重要な要素だ。噺家の研究をしている認知科学者・野村亮太氏に、言葉以外の「話術」の極意をうかがった。
目を合わせるのが苦手な人はどうすべき?
まず、視線の話から始めましょう。視線は豊富な情報を含んでいて、話しながらさまざまな判断をするうえでの強力な指標になるからです。
話し手が自分の言葉に自信を持っているかどうか。きちんとこちらを向いて話しているかどうか。私たちは会話をしているとき、相手の視線から、そうしたことを無意識に判断しています。ですから、相手との距離を縮め、信頼感を得るためには、まずは相手の目を見て話すことが重要です。
もっとも、文化によっては、相手と目を合わせることが敵意の表現になる場合もあります。しかし、少なくとも現在の日本では、そんなことはありません。目を見るのは「心を開いています」というサインとして相手に伝わります。
ただ、中には人の目を見るのが苦手だったり、相手と視線が衝突したりするのが苦手だという人もいるでしょう。その解決策は2つあります。
1つは、相手と正面から視線がぶつからない位置取りをすること。テーブルを前に座って話すなら、相手と直角の位置に座ったり、相手の正面には同行者に座ってもらったりして、視線が衝突しないようにします。
もう1つは、古くからの礼法にもあるように、相手の目を見るのではなく、目と肩、胸を結んだ六角形をぼんやりと見る方法。これなら、視線を合わせることなく、きちんと相手のほうを向いているように見えます。
ただし、いずれの場合も、話が大事なポイントにさしかかったときや、とくに伝えたいことを話すタイミングでは、しっかりと目を合わせるようにしましょう。「ここが大事です」と目でも強調するわけです。
「何もしないこと」も重要な技術
視線の他にも、相手に良い印象を与えられる非言語のサインはいろいろとあります。
たとえば、椅子の片方の肘かけに寄りかかったり、足を組んだりして話を聞いている人に対しては、きちんと話を聞いてくれているように感じられません。
左右対称ではない姿勢は「自分のほうが力が上だ」と誇示するものだという説があります。実際、上司と部下の会話を観察すると、たいてい上司のほうが足を組んでいたりします。
相手を尊重して話を聞いているというサインを見せるには、両膝を相手に向け、まっすぐに、左右対称の姿勢で向きあうことです。
部下や後輩の話を聞くときは、とくに意識してまっすぐに向きあうようにするだけで、「ちゃんと聞く耳を持つ上司」「話のわかる先輩」という印象を与えることができるでしょう。
相手がこちらの話を聞く状態になっているかどうかの指標としては、こんなものもあります。
私は、講義中に、話をしながら左右に歩きまわることがあります。すると、きちんと話を聞いている学生の視線は動きについてくるのです。もちろん100%そうだというのではなく、確率的にそうである可能性が高い、ということですが。
商談などの場で歩きまわるのは難しいでしょうが、机の上の資料を動かしたり、座りなおしながら小さく左右に動きを作ってみたりしてみましょう。そのときに相手の視線がついてこなければ、「まだこちらの話を受け入れていないな」と判断することができます。
また、頷きなど、こちらの話にあわせて相手の身体が動くのも、聞く体勢になっていることの指標です。
では、「どうもこちらの話を聞いていないようだ」とわかったときに、相手に注意を向けてもらうには、どうすればいいのでしょうか。
心理学では、何かを指し示したり、身振り手振りをしたりといったサインを送ることが有効だとされています。
それは確かにそのとおりなのですが、同じくらい大切なことがあります。それは、「何もしないこと」です。
私が研究している落語の世界では、たとえば扇子を箸に見立てて蕎麦を食べる、といった身振りがよく使われます。この身振りが伝わるのは、それまで動かずにいたからこそ。何もしないときとのコントラストで「あっ、今、箸を取ったな」とわかるわけです。もし演者が普段から落ち着きなく手を動かしていたら、どこで箸を取ったのかわかりません。何もしないときと、動いたときとの、メリハリが重要なのです。
話しながら資料を指し示したり、説明に身振りを加えたりといったサインは、重要なポイント以外では何もしないからこそ、有効に働くのです。
お手本を見つけて「横」から勉強しよう
非言語コミュニケーションによって伝わる意味は、社会的、文化的に共有されているものです。ですから、経験豊富な「お手本」を見習うことが、上達のコツです。上司でも先輩でもいいので、モデルになる人と一緒に行動し、その人がどうやって非言語情報を活用しているのかを横で見ながら、「自分だったらどうするか」を考えるといいでしょう。
こうしたお手本を持たずに、ただただ場数を踏んで、自分でなんとかしようと試行錯誤するだけでは、うまくいかないと思います。自分に足りないところ、あるいは自分の過剰なところに気がつけないからです。
落語家は、師匠から噺を教わることはほとんどありません。その代わり、いつも楽屋から高座の師匠の噺に聞き耳を立てて、「なるほど、こうやればいいのか」と勉強しています。
学校の勉強では先生と対面して話を聞きますが、落語では師匠や兄弟子の芸を「横」で聞くことが勉強なのです。営業マンが先輩の商談に同行するというのは、これと似ているでしょう。
非言語コミュニケーションの上達のためには、まずは身近にお手本を見つけることをお勧めします。
野村亮太(のむら・りょうた)東京大学大学院教育学研究科特任助教
1981年生まれ。認知科学者。九州大学教育学部卒業、同大学院人間環境学府修士課程および博士後期課程修了。博士(心理学)。専門は、落語の間、噺家の熟達化。International Society for Humor Studies Graduate Student Awards 2007、日本認知科学会2014年論文賞、各受賞。(取材・構成:川端隆人)(『
The 21 online
』2017年4月号より)
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