本当に家は資産になるのでしょうか? 答えは「資産になる」です。「家は資産になる」ことを説明するために、まずは家の資産価値とは何か、という定義づけから始めたいと思います。
(本記事は、大久保恭子氏著『資産になる「いい家」の見つけ方・買い方』日本実業出版社(2017/4/20)の中から一部を抜粋・編集しています)
資産になる家は「万人受け」する家 売値・家賃がゼロ円にならない家
家に資産価値があるということは、家がお金になるということです。つまり、貸せば家賃収入が得られる、売れば売却代金が得られるということです。お金になる家には利用価値が求められます。家ですから、住んだり、使ったりできなければ利用価値はありません。また利用価値は、個別的利用価値と一般的利用価値に分けられます。
個別的利用価値のある家とは、ある特定の人だけが、「欲しい」「住みたい」と思う家です。不便であろうが、使い勝手が悪かろうが、その人独自のものさしで計ったときに価値の高い家です。特殊性の高い独りよがりの家といっていいかもしれません。
一方、一般的利用価値のある家とは、交通や生活の利便性、住環境の良さ、適切な間取りや広さなどを、住み手としての常識的な目で見たときに、住みたいと手を挙げる人が複数現れる家です。平たくいえば、万人受けする家です。
つまり、資産になる家とは「一般的利用価値のある家=万人受けする家」のことなのです。
それでは、万人受けする、一般的利用価値のある家とは具体的にどんな家なのかと思われるでしょう。餅は餅屋ではありませんが、「資産になる家」を専門家にズバリひと言で定義してもらいました。
日本大学経済学部教授の中川雅之氏は「市場価値(マーケットバリュー)」、HOME‘S総合研究所副所長の中山登志郎氏は「再販売価値(リセールバリュー)」と直球の答えが返ってきました。
使っている言葉こそ違いますが、二人の意見は実は同じです。経済、不動産ビジネスの視点から見ると、資産になる家=一般的利用価値のある家(万人受けする家)=市場(再販)価値のある家ということなのです。
こうした捉え方を参考にしつつ、私なりに定義すると、資産になる家=一般的利用価値のある家=市場(再販)価値のある家=流通性のある家ということになります。あなたが、これから買う家、もしくはすでに住んでいる家を、不動産会社を通して売る、貸すときに、きちんと売値や家賃がつき、買い手や借り手が見つかる家が流通性のある家なのです。
また、資産になる家とは「時を経ても居住価値のある家」という持論を提唱するのが、京都大学名誉教授・京都美術工芸大学教授の高田光雄氏です。
家の価値は「住み心地」で決まる
家の価値は住み心地で決まります。住み手がその家から受けられる利便性や快適性の高さといったサービスとしての居住価値が問われます。また、居住価値は住む人や年月の経過によっても変化します。この変化に対応して住み手がていねいに家に手を入れて、居住価値を維持・向上していくことが求められます。
今は先進的な設備や間取りであっても15年も経てば時代遅れになったり、故障して使えなくなったりします。長い間手を入れないまま時間の経過とともに劣化し住みづらくなった家は、居住価値が低下して、買い手も借り手もつかない、「流通しない家」「資産にならない家」と化してしまいます。
資産になる家とは、時を経ても資産になる家=中古になっても流通性のある家でなければなりません。新しいときは、多くの家が流通しやすい資産になる家。でも、きちんと手を入れて住み心地を保たなければ、いずれは流通しないボロ家になってしまうのです。
そうした意味でいえば、究極の資産になる家は、万人受けするピカピカの中古住宅、といえるでしょう。
資産になる家は、中古になっても「売り」「貸し」がしやすい家。家を買っても放っておいたら資産になりません。資産にしたいなら、万人受けのする家を買い、きちんと手入れをして住み心地を良くしておきましょう。
資産になる家の定義がはっきりしたところで、次に知りたくなるのがより資産価値の高い家、流通性の高い家とはどのようなものか、でしょう。流通性の高い家は売却価格の高い家、家賃が高くとれる家、と見なすことができます。
私は、売値や家賃の高い家は主に「立地」「建物」「売買のタイミング」の三つの要素で決まると考えています(人によっては異なる視点もあります)。
一番大きな要素は「立地」です。多数の人が集まって仕事をしたり住んだりするところにある家は、需要が多く、流通性も高いので、売値・家賃も高くなる可能性があります。
資産価値に与える影響は「立地」ほどではありませんが、次に見ておくべきは、「建物」です。時代が変わっても、その時々に人々が望む暮らしに合わせて、リノベーションしやすい可変性の高い建物。しかも災害に強く、人間同様長寿命なら、時を経ても住み心地の良い家、流通性の高い家になるでしょう。
そして3番目に挙げるのは、買うとき、売るときの「タイミング」です。実はこの「タイミング」こそ、資産価値に与える影響が大なのです。「立地」「建物」の価値を変動させる力を持っています。
世の中に景気の変動があるように、家の価格も「時」によって上下します。安いときに買い、高いときに売れば資産は大きく膨らみます。その逆なら、どんなに立地や住み心地の良い家であったとしても、負債となってしまうことがあります。買うとき、売るときの「タイミング」が資産価値の命運を分けます。
「楳図かずおさんの家」と「積水ハウスの家」資産になりやすいのは?
資産になりやすい家とは「流通しやすい家」のことです。たった一人に愛される特殊性の高い家ではなく、万人受けする一般的利用価値の高い家のほうが資産になりやすいということは前項でご説明しました。
そこで質問です。楳図かずおさんの家と積水ハウスの家では、どちらが資産になりやすいと思いますか?
もうおわかりですよね。答えは「積水ハウスの家」です。
『まことちゃん』などの作品で知られる漫画家・楳図かずおさんが東京都武蔵野市内に建築中の自宅をめぐり、住宅地の景観を破壊するなどとして、周辺住民が工事を差し止めるよう求め東京地裁に提訴したニュースを、ご記憶の方もいらっしゃるでしょう。
外壁は楳図さんのトレードマークになっている赤白の約60センチ幅のストライプ。屋根に設置された赤い煙突状の塔にある二つの丸い窓は、人気キャラクター『マッチョメマン』の目をイメージしています。その超個性的な家を「周囲との調和を無視した極彩色の不快な建物を、眺めて暮らさざるを得ないのは苦痛」と住民側が訴え、楳図さん側は「バランスのとれた色彩だ」と反論したことから注目を浴びることになりました。
東京地裁は「周囲の目を引くが、景観の調和を乱すとまでは認められない」とし、請求を棄却しました(共同通信2007年10月24日)。
こうした家が売りに出たとしても、「住みたい!」と手を挙げる勇気のある人は、そう多くはないと想像できます。楳図かずお色の強烈な家を、一般人が住みこなすのは、近所からの好奇な目に耐えうることも含めてとても難しいからです。したがって流通性は低いということになります。
一方、積水ハウスの家はどうでしょうか。積水ハウスの一戸建販売数は、例年ハウスメーカー中1位で、創業以来の累積住宅販売戸数は233万4222戸(2017年1月末・積水ハウス公表データ)に上ります。
1世帯4人家族とすると約930万人超の日本人がこのハウスメーカーが建てた家に住んだ経験を持つということです。多くの人々の暮らしの器としてそれなりに評価されてきた家は、耐震性、耐久性といった性能面、間取り・設備面ともに、誰もが無難と思える家です。
したがって、積水ハウスの家は、普通の人が住みたいと手を挙げる可能性の高い、一般的利用価値が高い家、流通性の高い家といえるのではないでしょうか。
個別的利用価値の高い超個性的な家より、万人受けする無難な家のほうが資産になりやすい、ということです。
しかし、楳図かずおさんの家のように、超個性的な家には、無難な積水ハウスにはない特異性があります。一般的な利用価値は低いけれど、熱烈な楳図ファンの方にとっては何にも代え難い高い価値がある、ということです。金に糸目はつけないから、どうにかして譲ってほしい!と、手を挙げる愛好家は宝くじに当選する確率並みでしか現れないかもしれません。でも、破格に高い価値を秘めていることも否定できません。
超個性的な家は資産価値が大化けする可能性を秘めていますが、好き嫌いは別として人気ハウスメーカーの家のように、万人受けしやすいほうが流通しやすく、資産として安定しています。
大久保/恭子
住生活コンサルタント。主に東京圏の中古マンションを評価する「マンション評価ナビ」の企画・運営を手がける(株)風の代表取締役。「マンション評価ナビ」は、2008年度の国が公募する長期優良住宅先導的モデル事業に採択される。2009年に、都市住宅学会・業績賞を受賞。住み手の視点からハウスメーカーなどへ住宅のマーケティングや商品開発のコンサルテーションも手がけている。1979年リクルートに入社し、87年『週刊住宅情報』編集長(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)