人のかたまりである「人口」という観点から住宅の資産価値について考えてみたいと思います。みなさんは、資産価値が高いのは、人口が「今多いところ」それとも「これから増えるところ」のどちらだと思いますか?

(本記事は、大久保恭子氏著『資産になる「いい家」の見つけ方・買い方』日本実業出版社(2017/4/20)の中から一部を抜粋・編集しています)

これから人口が増えるところの方が価値は高い

マイホーム
(写真=PIXTA)

答えは、「これから増えるところ」です。

真に資産価値が高いとは、今高いだけではなく、将来に向けても価値が維持・向上することだと考えます。それは過去・現在・未来にわたり、紆余曲折はあるものの、長い目で見て人口が増え続け、成長する立地のことではないでしょうか。現在の人口の絶対数の多さだけではなく、将来の増減で命運は分かれてしまいます。

人口の絶対数が今多いところと、少ないところを比較すると、地価の絶対額は人口が多いところのほうが高くなる傾向にあります。しかし、現在の人口は多くてもすでに減少傾向にあり、将来に向けても減り続ければ、先々の資産価値は目減りしていき、それにつれて地価はどんどん下がっていきます。こうした立地は資産価値が高いとはいえません。大阪市がこれにあたります。

人口の絶対数は少ないけれど、これまで増加傾向にあり、この先も人口が増え続ければ、地価は上昇していき、家の資産価値は上がることが予想されます。つくば市がこれにあたります。そこで、西の大阪市と東のつくば市とを比べてみることにします。

西の「大阪市」と東の「つくば市」を比較

現在(2017年3月)の大阪市の人口は270万2242人、対するつくば市は22万7314人と絶対数では10倍の開きがありますが、伸び率で見ればつくば市が優勢です。

大阪府の中心都市である大阪市は、繊維産業などを中心にかつて栄えましたが、成長産業への移行の立ち遅れ、東京一極集中の加速、国際化に立ち遅れたことなどにより地盤沈下が進んでいます。そのため、2015年は日本で二番目に人口の多い市(ちなみに第1位は横浜市)ではあるものの、2040年には14%減と予測されています。

一方、つくば市は水戸市に次ぐ茨城県内第2位の都市ですが、2015年の人口は全国で121位であるのに対し、2005年のつくばエクスプレス開通により東京・秋葉原まで直結した効果が都市の成長を後押しし、2040年には9・8%増えてランキングも90位に上昇すると推測されています。

それでは、両市の人口増減が資産価値にどう反映しているのかを、最新の地価を二つの時点での地価と比較しながら見ていくことにします。二つの時点とは高度経済成長の終えんとなる1986年と狂乱地価バブルの天井となる1990年です。

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データ上は1991年が最高値なのですが、その年の2月にバブルが崩壊したので、1990年を見ることにしました。

地価の絶対額は、大阪市、大阪市北区がつくば市、研究学園を大きく上回っています。しかし、将来の資産価値が高まるか否かをはかるには、絶対額の大きさではなく、地価の上昇率・下落率を見るほうが適切です。

『住宅選びのプロが教える 資産になる「いい家」の見つけ方・買い方』 日本実業出版社 (2017/4/20)画像をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします
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大阪市の2015年の地価は86年、90年よりも下落しています。つくば市の2015年の地価は86年より上昇しており、90年より下落していますが、下落率は大阪市より低くなっています。このことから、つくば市のほうが資産価値は高いと見なすことができます。

より範囲を狭めて、大阪市北区と研究学園都市とを比較してみましょう。いずれも市内において一番平均地価の高いところです。この二つを比較しても、研究学園都市の地価は86年、90年いずれに対しても上昇していることがわかります。さらなる人口増にともない、地価ひいては資産価値は将来も維持、上昇することが予想されます。こうした幸運な立地は全国でもきわめて少ないといえます。

将来的な人口の増減を見分けるには、国立社会保障・人口問題研究所が定期的に行っている人口予測が一つの目安となります。インターネットで検索してみましょう。

つくば市以外に、この先人口が増える都市はどんなところなのか、気になる方も多いでしょう。

2040年時点で人口が増えると予想される人口10万人以上の市・区は以下の図表のとおりです。

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これから人口が増えるところの、おおまかな傾向がわかります。職場と住まいの距離が近い「職住近接」の人々が多数集まる都心部。比較的住宅価格が手ごろなため、都心へ通勤する人々が多数住む都心周辺部の住宅地が、人口増加地域となっています。

たとえば、東京圏では、中央区、港区、新宿区といった都心部。埼玉県の戸田市、神奈川県の川崎市といった周辺部の住宅地。関西圏では、大阪などの都心部へ通勤する人々のベッドタウンとしての滋賀県の草津市などです。

ただし、都心周辺の住宅地は、今でこそ人口増ですが、街の機能が「住」中心で単一、かつ都心から離れていればいるほど、今後は人口減になる可能性が高くなります。住宅の都心回帰が進み、新住民の流入減、旧住民の高齢化が進むからです。この点は留意したいところです。将来、人が増える立地は資産価値が高くなる可能性が高いことがわかりました。

大久保/恭子
住生活コンサルタント。主に東京圏の中古マンションを評価する「マンション評価ナビ」の企画・運営を手がける(株)風の代表取締役。「マンション評価ナビ」は、2008年度の国が公募する長期優良住宅先導的モデル事業に採択される。2009年に、都市住宅学会・業績賞を受賞。住み手の視点からハウスメーカーなどへ住宅のマーケティングや商品開発のコンサルテーションも手がけている。1979年リクルートに入社し、87年『週刊住宅情報』編集長(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)