家は適正な設計、施工があってはじめて、質の高い=利用価値の高い=資産価値の高い家となります。そしてそれは、誰が建てるのかで、大きく変わってくるのです。そこで質問です。資産価値が落ちにくいのは、大手ハウスメーカーが建てた家? それとも中小工務店が建てた家?
(本記事は、大久保恭子氏著『資産になる「いい家」の見つけ方・買い方』日本実業出版社(2017/4/20)の中から一部を抜粋・編集しています)
住宅性能表示制度が大手、中小の壁を壊した
答えは、2000年以降に建てられた家に限れば、「どっちもどっち」となります。
国は2000年に、耐久性、耐震性、遮音性、メンテナンスがしやすい構造等々、10のモノサシを設け、それぞれに等級1〜3までのレベルを設定する住宅性能表示制度を制定しました。建築基準法並みのレベルで普通の性能を等級1として、等級が上がるほど高性能・高品質であるというものです。
その基準よりもさらに厳しい認定条件をクリアし、きちんとメンテナンスすれば、木造で100年、鉄筋コンクリート造なら200年持つとされる「長期優良住宅」が徐々に普及してきました。これについての詳細は後述します。
つまり、この家の耐久性は何等級、耐震性は何等級というように性能を相互比較しながら選ぶことができるようになったのです。また、この性能表示により、木造軸組み、2×4(ツーバイフォー)、鉄筋コンクリート造など、異なる構造・工法の住宅が、等級という同じ土俵で比較検討できるようになった結果、構造・工法の違いに惑わされずに、品質本位で家を選ぶことが可能になりました。
また、この住宅性能表示制度は、大手ハウスメーカーや中小工務店といった会社の規模や、老舗とか新興といった建てる側の実績を頼りに、施工会社選びをしなければならない私たち消費者の不安解消にもつながりました。建てる家の性能と等級で比較して、実質本位の選び方ができるようになったのです。
大手が等級1で、地元の中小工務店が等級3で建てたとすれば、中小工務店の家のほうが、良質な家といえるようになったのです。同様に、老舗工務店が等級2、新興工務店が等級3であれば、実績はなくとも、新興工務店が建てる家のほうが品質は良い、ということになるのです。
このように住宅性能表示は、大手ハウスメーカーと中小工務店の壁を取り払うことになり、ネームバリューや規模・実績ではなく、建物の質本位で家を比較できるようにした制度なのです。その結果、質問の答えは、「2000年以降はどっちもどっち」ということになるわけです。
実際の取り組みには、大手と中小で差が生じている
ただし、これはあくまで住宅性能表示制度導入により期待される、理論上の効果です。残念ながら実際のところ、中小工務店の住宅性能表示制度への取り組み状況調査によれば、最も等級レベルの高い長期優良住宅を手がけたことのある工務店は全体の4分の1にとどまっています。
工務店の雇用社員数別に見てみると、「ある」と答えたのは、社員が0名のひとり親方の工務店では11・2%、2名で14・6%、5名で42・5%、50名以上で85・7%となっており、規模の大きさと住宅性能表示制度への取り組みは比例していることがわかります(国土交通省、平成26年「中小工務店・大工業界の長期優良住宅に関する取組み状況の調査結果」より)。
また、大手ハウスメーカーによっては、手がける住宅すべてが長期優良住宅の認定要件を満たしているところもあり、実際の取り組みには、差が生じています。
こうした実態を見ていくと、住宅性能表示制度により、建物の質について大手と中小の垣根はとれつつありますが、質の良い家づくりへの取り組みが遅れている中小工務店もかなりあることは否定できない事実が浮かび上がってきます。
とはいえ、住宅市場における大手のシェアは20%に満たない状況で、80%強を占めるのは中小工務店です。家を建てるにあたり、最も身近な存在である地元の中小工務店の住宅性能表示制度への取り組みの有無を見分けることが、資産価値が維持できる家を持つための肝となりそうです。
大久保/恭子
住生活コンサルタント。主に東京圏の中古マンションを評価する「マンション評価ナビ」の企画・運営を手がける(株)風の代表取締役。「マンション評価ナビ」は、2008年度の国が公募する長期優良住宅先導的モデル事業に採択される。2009年に、都市住宅学会・業績賞を受賞。住み手の視点からハウスメーカーなどへ住宅のマーケティングや商品開発のコンサルテーションも手がけている。1979年リクルートに入社し、87年『週刊住宅情報』編集長(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)