1円玉や5円玉といった少額貨幣の流通量が減少している。原因は明らかに電子マネーの普及で、小銭を出し入れする機会が減っているためだ。

最近では電車に乗るのに切符を券売機で買い求める人もめっきり減ってきたように見える。飲食店やコンビニエンスストア、ドラッグストアなどでも支払いにSuicaなどの電子マネーを使う人は多くなり、支払時に財布を出す機会は4、5年前と比べて格段に減っている。ただ、同じ硬貨でも100円玉や500円玉の需要は増えているという。最近のコイン事情に迫ってみたい。

電子決済普及、2016年度1円玉流通がゼロに

1円玉,流通量
(写真=PIXTA)

2017年5月16日付日経新聞朝刊によると、同年3月末(2016年度末)時点での1円玉の流通額は379億円で、ピーク時から8%ほど減って1994年以来の低水準となった。5円玉は539億円、10円玉は1922億円でいずれも1990年以来の少なさで、さらに50円玉も1996年以来の低水準だという。

一方、100円玉や500円玉の流通額は増加しており、特に500円玉は同年3月時点で2兆2083億円と年度末ベースで過去最高だった。同紙は「ほかの硬貨に比べて邪魔にならず、貯金用の需要もある」との専門家の意見を紹介している。

2017年3月13日付日経新聞電子版では、2016年度に新たに流通する1円玉が4年ぶりにゼロになりそうだという予測記事もあった。財務省は2016年度の製造枚数を従来計画の半分の55万枚にしたが、その55万枚も記念硬貨など特殊な販売ルートにあてたためという。

低額コインがどんどん世の中からなくなっている理由として、スマートフォンでの決済や電子マネーの普及により、取引が少なくなったためというのが衆目の一致するところだ。

別の見方として、「財布を太らせる小銭を敬遠する若者が増えている」ことがあるという。2015年1月27日の産経ニュース「経済インサイド」は「若い世代を中心に体にフィットした洋服を着こなすことが流行しており、ポケットに入れてもラインが崩れないことを重視している」という百貨店担当者の意見を紹介している。一方、「行列しているレジの支払いでもたつきたくないと考える高齢者も増えている」という流通大手の担当者の声も紹介し、小銭回避の動きが全世代に及んでいることを指摘している。

世情に合わせて生産調整していた

硬貨の生産調整は過去にも行われている。造幣局によると、1円玉が初めて造られたのは昭和30年(1955年)。その後6年間の生産量は多くても50億枚だったが、それでは不足したため、昭和30年代後半から大量生産を続けたところ今度は流通過剰になってしまい、昭和43年(1968年)の1年は製造を休止した。なので、昭和43年製の1円玉は探してもないのだ。

3%の消費税が導入された1989年には小売店や金融機関で深刻な供給不足が生じ、同年から3年間は過去最高の23億~27億枚を製造。その後、徐々に減らしつつも10億枚台で推移し、1997年に消費税が5%に引き上げられた際は増やしていない。その後の生産量はガクンと落ち、2011~2013年は40万~60万枚台で、これらは一般流通用には回されなかった。

8%に引き上げられた2014年には再び1億枚台に増やしたが、この頃にはすでに電子マネーが浸透し始めており、供給不足は起こらなかった。このときは逆に、10円玉と50円玉不足が起こり、財務省はあわてて生産量を増やしている。それはこの年、税率上昇に合わせ、たばこや飲料などを10円単位で値上げする動きが目立ったためだ。ペットボトルの清涼飲料水は500ミリリットルのサイズが150円から160円になった。JR東日本も券売機で購入する東京近郊のきっぷ運賃を10円単位で値上げし、各駅の路線図が掛け替えられたことは記憶に新しい。こうしたことから、1円玉ではなく10円玉、50円玉の需要が高まったのだ。

少額コインが減ることのメリットは?

最後に、少額コインが減ることのメリットをあえて考えてみたい。それは、1円玉と5円玉に限っては、億単位で製造コスト(税金)を減らすことができることだ。

硬貨を造るコストについては、実は造幣局から正式な発表はされていない。一方で、各種硬貨に含有されている金属の種類や重さは公表されているので、市場取引価格をみればざっくり分かる。

たとえば、1円玉は重さが1グラム、100%アルミニウムだ。5円玉は60~70%が銅で残りは亜鉛、10円玉は95%が銅で残りは亜鉛とスズで造られている。このほか、50円玉と100円玉は75%が銅で残りがニッケル、500円玉は銅72%と亜鉛20%にニッケル8%だ。

2016年7月時点の相場価格は、アルミニウムが1キロ当たり約215円だった。銅が同約540円、ニッケルが約950円、亜鉛は約265円となっている。ここから造幣局の予算と硬貨の製造枚数を照合すれば、大雑把な材料費を推計できる。

その結果、原料費込みの原価は1円玉が1.8円、5円玉は2.3円、10円玉は3.6円、50円玉は8.7円、100円玉は15.3円、500円玉が64.5円くらいだった。つまり1円玉と5円玉は、造れば造るほど採算割れになるということだ。需要が少ないならば、切り捨てるというのは当然の判断だろう。1円玉はピーク時から33億枚ほど(8%)減ったということは、33億円×(1.8円-1円)=26.4億円が浮いたということになる。

たかが1円玉、されど1円玉。消費税が10%に引き上げになる時期は決まっているわけだが、そのときは硬貨をめぐってどんな話題が展開されるのだろうか。(フリーライター 飛鳥一咲)