2017年夏のボーナスについての動向調査が5月22日付の日経新聞朝刊で発表された。それによると、全産業の平均支給額はリーマンショック前の水準を確保したものの、前年比増減率は5年ぶりにマイナスとなった。

円高の逆風を受けた製造業が支給額を減らしたことが全体を押し下げ、全体の平均支給額は昨年比で2.75%減、83万9560円に。業界ごとに明暗が分かれているが、苦境に立たされている業界にあっても業績を伸ばしている企業や、あえてボーナスを増やした企業もある。「勝ち組」「負け組」それぞれの事情に迫ってみたい。

製造業は円高で打撃

ボーナス
(写真=PIXTA)

日経新聞が発表した「夏のボーナス業種別回答・妥結状況」は上場企業と同社が独自に選んだ非上場企業の計2094社のうち集計可能な218社から得た回答に基づく。218社のうち8割が製造業だった。今回は中間集計で、最終集計は7月中旬に発表される予定という。

まとめによると、昨年夏の対比で製造業は3.02%減、非製造業は0.41%減だった。

製造業で最も減少幅が大きかったのは、5.51%減の自動車・部品で97万8932万円だった。これは2016年上半期に円高が急ピッチで進んだことが影響しているとみられる。同様に落ち込んだのは医薬品が5.43%減、ゴムが2.45%減となった。一方、上昇したのは4.05%増の非鉄・金属製品を筆頭に、精密機械2.68%、窯業2.36%、食品2.20%のそれぞれ増加となった。

非製造業では減少幅が大きかったのは外食・その他サービスが21.57%減、続いて6.27%減の建設と続く。また、ガスとマスコミ・出版広告が微減となった。ただ、それ以外は軒並み上昇しており、百貨店・スーパーの5.29%を筆頭に、商社が4.49%、鉄道・バスが2.73%のそれぞれ増となっている。

「勝ち組」ソニーは34.5%大幅アップ

では「勝ち組」の企業から個別にみていこう。

電機は業界全体では0.74%と微減だったが、スマートフォン事業が黒字化するなど、主力のエレクトロニクス事業が改善されたソニー <6758> は34.5%と大幅増の131万3500円を支給する。

内需主体の食品は堅調で、機能性ヨーグルト「Rー1」などが好調の明治 <2261> は7.14%増の86万6142万円。ポテトチップスの原料となるジャガイモ不足が報じられる一方でグラノーラ食品「フルグラ」がヒットしたカルビー <2229> は5.57%の増加となった。

これまで長時間労働が指摘されることがあった百貨店・スーパーは社員の待遇改善が課題で、その一環としてボーナスが引き上げられたようだ。高島屋 <8233> は2.57%増の62万5322円で、関西スーパーマーケット <9919> やイズミ <8273> も増加しているようだ。

業界全体では円高の打撃を受け、軒並みボーナスを減らしたクルマ産業だが、日産 <7201> とホンダ <7267> は別だ。日産は1.99%増の115万50円を支給する。また、ホンダは業績が改善し、3.19%増の109万7000円となった。

日産は2017年3月期の連結最終利益は前の期比26.7%増の6634億円に伸びたものの18年3月期は前期比19.4%減の5350億円に減る見通しとなった。この状況でアップした理由を「社員の士気向上のため」とした。

一方、ホンダは2017年3月期の連結純利が前期比79%増の6165億円だった。北米や中国の四輪車販売が伸び、タカタ製エアバッグのリコール(回収・無償修理)に関連する費用の減少などが好転に影響した。

「負け組」トヨタ18.24%減の衝撃

これに対し、トヨタ <7203> は、18.24%減の121万円だった。トヨタ自動車の2017年3月期決算で売上高は前年比2.8%減の27兆5971億円、営業利益は前年比30.1%減の1兆9943億円と、大幅な減益決算となっていた。これまでは無双の増収増益だったが、主戦場である北米市場での不調と円高(同決算は1ドル108円の為替レートで計算)が響き、東日本大震災の翌年の2012年3月期以来の売上高前年度割れとなってしまった。

また、ソニーが大幅増を見せつける一方、同じ電機のOKI(沖電気工業) <6703> は13.02%減の69万5100円と大幅減となってしまった。2017年3月期決算は、売上高が前年同期比3.9%減の1467億2500万円、経常利益が前年同期比73.9%減の19億8300万円となったことが影響した。

建築資材の高騰に悩む建設業界は、それ以上に人手不足が深刻で、人材の囲い込みに躍起だ。戸田建設 <1860> はベースアップを2倍に増やしたうえで、ボーナスを3.5%増の135万7000円を支給する。鉄骨・橋梁の川田グループ <3443> も25%と大幅増の75万円で現状打破を目指す。

医薬品業界は、薬価改定や円高、主力品の特許切れなどの影響で多くの大手が売り上げを落とすなど振るわなかった。中外製薬 <4519> は抗がん剤の価格引き下げなどに伴う収入減で、最高益を更新した前の期から一転、2016年12月に最終減益となり、支給額も6.61%減の87万3642万円となった。

消費の最前線が元気なのはよい傾向

今回の調査の結果からうかがえる景気にとっての明るい材料は、商社や百貨店、鉄道など消費者がらみのサービス業のところがみんなプラスだったことではないだろうか。いつも消費者と接しているこれら消費の最前線に、元気があることがうかがえるのだ。このエネルギーが近いうちにGDPにつながることを期待したい。(フリーライター 飛鳥一咲)