確定拠出年金の金額は、自分が拠出可能な最大限の金額で利用したい。利用出来る金額は、勤め先の年金制度の規約や本人の経済的事情によって異なる。とは言え、一般に、公的年金に加えて確年拠出年金の運用だけで老後の生活資金の「全て」を賄える人は少数だろう。

(本記事は、山崎元氏著『 確定拠出年金の教科書 』日本実業出版社(2016/6/9)の中から一部を抜粋・編集しています)

自分に可能な最大限の金額で利用する

(画像=Webサイトより ※クリックするとAmazonに飛びます)
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多くの場合、確定拠出年金以外にも、何らかの形で資産運用をすることになるはずだ。そうであるなら、確定拠出年金は通常の運用よりも有利な器なのだから、運用全体における確定拠出年金での利用額を可能な限り大きくすることがベストの運用になるケースが多い理屈だ。

企業型の確定拠出年金に加入していて、拠出金額が選択可能な場合は生活と両立する限り大きな金額を割り当てるのがいい。マッチング拠出が可能な場合には、出来るだけ多く利用することを検討してみて欲しい。

確定拠出年金の資産は、原則として60歳になる迄引き出すことが出来ない。「起業することになったら資金が要る」、「家を買う場合に頭金が要る」、「自分への教育投資にお金を掛けたい」、など、当面使えるお金が縮小することもあって、確定拠出年金を最大限利用することに躊躇する人が時々いるが、老後の生活資金は必要であり、確定拠出年金の所得控除と運用益途中非課税の有利さは多くの場合圧倒的だ。

人生は人それぞれなので、「確定拠出年金に使うお金が無いほど当面お金が要る理由」に逐一反論はしないが、資金が必要になる確率、その場合に可能な資金を大多数の方に当てはまる方針として、確定拠出年金の捻出方法、消費が所得に対して不相応ではないか、といった理由を検討してみて欲しい。筆者としては、なるべく大きく利用することをお勧めしたい。

(企業型の加入者ではない場合)個人型の加入資格があるかどうか確認して、出来る限り利用する

自営業の人や、勤めている会社の年金制度が厚生年金のみで企業年金はないという人の場合、個人型の確定拠出年金を是非利用したい。特に、勤め先に確定拠出年金制度がない人は、先ず個人型の加入資格があるかどうかを確認して欲しい。

確定拠出年金において一番もったいないのは、「加入資格があるにもかかわらず、その事に気づいていない」ケースだ。実際、厚生労働省のデータをみると、個人型の加入資格を持つ人の99%以上が確定拠出年金を利用していないという。決して他人事ではない。勤め先に確定拠出年金制度がないサラリーマンは、是非この機会に確認してみて欲しい。

また、これまで加入資格のなかった公務員や国民年金3号被保険者、勤め先が確定拠出年金以外の企業年金を導入している会社員等も、2017年1月1日以降、法改正によって加入出来るようになった。

こうした法改正は今後も充分にあり得るので、向こう数年は、確定拠出年金に関わる情報に敏感になっておきたい。同じように、既に加入者であっても、法改正によって拠出限度額やマッチング拠出額が増加したり、更に使い勝手がよくなる可能性があるので、その場合も、上手に利用したい。

繰り返し述べているように、確定拠出年金やNISAの制度拡充は国からの、「公的年金では不足だと思う国民は、自助努力で老後に備えて下さい。そのための制度は用意してありますよ」というメッセージなのだ。もちろん、個人型の確定拠出年金に加入する場合には、運営管理機関は、確定拠出年金に適した商品のある金融機関を選ぶことが重要だ。

確定拠出年金での運用「自分の資金運用全体の一部」だと心得る

確定拠出年金やNISAといった枠の中で個別に運用方針を考えて、別々に分散投資を行っているケースをしばしば見かける。例えば、リスク資産を国内株式と外国株式に50%ずつ投資しようと考えていて、確定拠出年金の枠内で、国内株式と外国株式にそれぞれ投資し、NISAでも50%ずつ、それ以外の課税口座でも同様に、国内外に半分ずつ投資しているといった具合だ。

また、金融機関が提供する投資教育などで、そのような方針が推奨されることも少なくない(バランス型の商品を売りたいためだろう)。しかし、これでは自分の運用全体として、税制上のメリットや商品選択の損得を最大限に利用することが出来ない。

例えば、確定拠出年金のラインナップの中に手数料の安い外国株式のインデックス・ファンドがあった場合、別の口座で運用している外国株式の割り当て分を確定拠出年金の中でまとめて運用する方が、全体としての運用の効果が改善する。

またNISAでは、TOPIX連動型のETF(上場型投資信託)に低コストな選択肢があるので、「NISAは国内株式から」が最適な運用の割り当てになる公算が大きい。確定拠出年金もNISAも、あくまで自分の運用の「全体の中の一部」であり、運用方針は、自分の資産運用全体として最適なものを考えるべきなのだ。

公的年金や企業年金のような巨額の資金を運用する基金は、数多くの運用機関を使う。この場合に、最適な運用機関の雇い方、資金運用の任せ方の構造を「マネージャーストラクチャー」と称する。このマネージャーストラクチャーにあって、肝要な事は、基金の意思で運用全体をコントロール出来るようにすることと、全体の合計が最適であるような状態を作ることの2点だ。資金の規模は小さくなるが、個人の資産運用でも、理屈は同じだ。

運用全体の中で「期待収益率の高い商品」を集中的に割り当てる

それでは、全体を最適化した上で、確定拠出年金ではどのような運用を選択すればいいのだろうか。

確定拠出年金の最大のポイントは、「運用益が非課税になること」だ。このメリットを最大限に活かすには、自分の運用全体の中で期待リターンの高い部分の運用を、確定拠出年金に集中的に割り当てるのが原則だ。

運用全体でリスクを取りたくないというポリシーがあれば別だが、特に低金利の現在、定期預金や貯蓄型の保険商品など、確定拠出年金に元本確保の商品を割り当てるのは実にもったいない。

山崎元
経済評論家。専門は資産運用。楽天証券経済研究所客員研究員。マイベンチマーク代表取締役。1958年、北海道生まれ。1981年、東京大学経済学部卒業、三菱商事入社。野村投信、住友信託、メリルリンチ証券など12回の転職を経て現職。雑誌連載、テレビ出演多数。