個人金融資産(17年3月末): 16年12月末比では5兆円減

資金循環統計,個人金融資産,企業資金
(写真=PIXTA)

2017年3月末(2016年度末)の個人金融資産残高は、前年比48兆円増(2.7%増)の1809兆円となった(*1)。残高は過去最高を記録した昨年12月末(1815兆円)に次ぐ高水準。年間で資金の純流入が26兆円あったほか、年度後半の株価回復と円高是正によって、時価変動(*2)の影響がプラス22兆円(うち株式等がプラス17兆円、投資信託がプラス3兆円)発生し、資産残高が押し上げられた。

四半期ベースで見ると、個人金融資産は前期末(昨年12月末)比で5兆円の減少となった。例年1-3月期は一般的な賞与支給月を含まないことからフローで流出超過となる傾向があり、今回も6兆円の流出超過となったためである。なお、市場ではトランプ新政権の期待後退などからやや円高が進んだものの、株価が底堅く推移したため、時価変動の影響はプラス0.2兆円(うち株式等がプラス0.6兆円、投資信託がマイナス0.3兆円)と、ほぼ中立に留まった(図表1~4)。

56039_ext_15_0

56039_ext_15_1

ちなみに、家計の金融資産は、既述のとおり1-3月期に6兆円減少したが、この間に金融負債は3兆円増加したため、金融資産から負債を控除した純資産残高は9兆円減の1492兆円となった。こちらも過去最高であった昨年12月に次ぐ高水準となっている(図表5)。

なお、その後の4-6月期については、一般的な賞与支給月を含むことから、例年フローで10兆円前後の流入超過となる傾向が強い。さらに、金融市場では3月末から株価が大きく上昇しているため、時価変動の影響も10兆円余り資産の増加に寄与していると推測される。従って、6月末時点の個人金融資産残高は3月末から20兆円余り増加し、過去最高を更新すると見込まれる。

------------------------------
(*1)今回、遡及改定ならびに推計方法の見直しにより、2005年以降の数値が改定となっている。
(*2)統計上の表現は「調整額」(フローとストックの差額)だが、本稿ではわかりやすさを重視し、「時価(変動)」と表記。
------------------------------

内訳の詳細: 投資信託への資金流入が回復

1-3月期の個人金融資産への資金流出入について詳細を見ると、季節要因(賞与等)によって例年同様、現預金からの資金流出(取り崩し)が発生している。例年の同時期との比較では、定期性預金からの資金流出が進んだ点は同様だが、流動性預金(普通預金など)に資金が流入した点が特徴的である。例年この時期には流動性預金からも資金流出が起きるのが常であり、流入は現行統計開始以来、初となる。

マイナス金利政策導入以降、定期預金金利がほぼゼロに引き下げられた影響で、引き出しに制限のある定期預金の魅力が低減し、(同じくほぼゼロ金利だが)流動性の高い普通預金の選好が強まっている。

56039_ext_15_2

リスク性資産に関しては、株式への資金流入が0.5兆円と前年同時期の流入額(2.0兆円)を下回ったものの、投資信託への資金流入が2.4兆円と前年同時期(0.2兆円の流出)から回復をみせた。市場がやや落ち着きを取り戻したうえ、個人型確定拠出年金(iDeCo)の加入対象拡大といった制度的な追い風もあり、投資信託を通じた投資が持ち直したとみられる。

ただし、対外証券投資(0.9兆円の流出)、外貨預金(0.1兆円の流出)などその他リスク性資産への資金流入は進んでいないうえ、既述のとおり、(一定の元本保証がある)流動性預金への選好が極めて強いことからも、まだ家計がリスク選好の動きを大きく強めたわけではないと考えられる。

なお、株と投資信託に外貨預金や対外証券投資などを加えたリスク性資産の残高は312兆円、その個人金融資産に占める割合は17.2%と、昨年12月末の310兆円、17.1%からそれぞれ増加・上昇している。投資信託への資金流入がその主因である。

その他証券では、国債への資金流出入が流出から流入に転じた点が目立つ。国債への資金流入は、2008年10-12月期以来のこととなる。個人向け国債には最低金利保証(0.05%)が付いており、預金に対する投資妙味が高まったことや、金融機関が積極的にキャンペーンを実施したことが底入れに寄与したとみられる(図表6~9)。

その他注目点: 企業の現預金残高は過去最高を更新、国内銀行は外債を売り越し

2016年度の資金過不足を主要部門別にみると、従来同様、企業(民間非金融法人)と家計部門の資金余剰が政府(一般政府)の資金不足を補い、残りが海外にまわった形となっている(図表10)。前年度との比較では、企業の資金余剰が5.5兆円減少した一方で、家計の資金余剰は7.8兆円増加した。家計の資金余剰増加については、雇用者の増加によって雇用者報酬が伸びた割に消費が伸び悩んだことなどが背景にあるとみられる。民間部門(企業+家計)の資金余剰がやや増加した一方で、一般政府の資金不足が減少したため、海外部門の資金不足がやや拡大した。

3月末の民間非金融法人のバランスシートを見ると、現預金残高は255兆円とこれまでの過去最高であった昨年9月末(245兆円)を大きく上回り、過去最高を更新した(図表11)。企業が現預金を積み上げる動きが続いている。なお、12月末との対比では、現預金が11兆円増加した一方で借入金が6兆円増加したため、企業の純借入(借入金-現預金)は5兆円減の146兆円となった。

56039_ext_15_4

56039_ext_15_5

国庫短期証券を含む国債の3月末残高は1083兆円で、12月末から横ばいとなった。

国債の保有状況を見ると(図表12)、これまで同様、預金取扱機関(銀行など)の保有高が減少(202兆円、12月末比10兆円減)し、保有シェアも低下した(18.7%、12月末は19.6%)。一方、大規模な国債買入れを継続している日銀の保有高は引き続き増加(427兆円、12月末比7兆円増)し、シェアも39.5%(12月末は38.8%)と4割に肉薄している。日銀は近頃、国庫短期証券の残高を落としているうえ長期国債の買入れペースも縮小しているため、増勢はやや鈍化しているものの、今後も大規模買入れ継続に伴ってシェアが上昇していくことになる。

なお、海外部門の国債保有高も116兆円と12月末から2兆円増加。シェアも10.8%(12月末は10.6%)と若干上昇している。海外勢はドル調達コストの関係で有利な条件で円を入手できる状況が続いており、国債に資金が流入している。

最後に、国内銀行の1-3月期の資金フローを確認すると(図表13)、近年同様、国債からの資金流出、現預金と貸出の増加が続いているが、対外証券投資は流出(取り崩し)となっている。対外証券投資は、昨年10-12月期に大幅な流出となったが、1-3月期もその流れが続いたことになる。昨年秋の米大統領選後に米国債利回りが急上昇(価格が急落)し、保有国債に損失が発生したことなどを受けて、地銀などで外債投資の動きが消極化したためとみられる。

上野剛志(うえの つよし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 シニアエコノミスト

【関連記事 ニッセイ基礎研究所より】
貸出・マネタリー統計(17年5月)~不動産向け貸出は過去最高を更新
日銀短観(6月調査)予測~大企業製造業の業況判断D.I.は3ポイント上昇の15と予想
それでも緩やかな円安を予想するワケ~マーケット・カルテ7月号
エンゲル係数の上昇を考える
消費税における軽減税率の効果-景気安定化の観点からの検討