村上世彰氏が貫いてきた信念は投資を通じた日本でのコーポレートガバナンスの浸透であった。村上ファンドを有名にしたニッポン放送や阪神電鉄などの投資やこれまでの人生の歩みについて語っている。

生涯投資家,村上世彰
(画像=Webサイトより ※クリックするとAmazonに飛びます)

『生涯投資家』
著者:村上世彰
出版社:文藝春秋
発売日: 2017年6月21日

「物言う株主」が株式市場の健全化に貢献した

株を大量に保有して経営陣に無茶な要求を突きつける。このようなファンドに対する世間のイメージは相当悪い。メディアはアメリカで1980年代に頻繁に起こった敵対的買収をファンドが私的な利益のみを求め、企業に迷惑をかけた悪しき事例として報道することが多いように思う。

しかし、真実は放漫経営を続ける企業にファンドが敵対的買収を次々に仕掛けたことで、それを恐れた経営者たちは企業価値を高める経営をするようになり、コーポレートガバナンスが普及し株式市場に好影響を与えたのだった。

日本でコーポレートガバナンスが欠如したために起こった事例は、バブル期の財テクやシナジーを生まない企業買収、損害の隠蔽など数知れない。

村上ファンドは、企業の手元資金や内部留保と比較して、市場価値が著しく低い企業に投資し、経営の効率化や株主還元の徹底を求めた。その時の被買収企業の経営陣の反応やその後の趨勢は本書を読んでもらいたい。ただ、当時は筆者の強引な手法がバッシングされたもの、現在では「コーポレートガバナンス・コード」が政府主導でまとめられ、ようやく企業もコーポレートガバナンスに真剣に取り組み始め普及しつつある。

日本企業のROE向上は資金循環を促進し経済成長につながる