東芝 <6502> は、米原子力事業における巨額損失など一連の企業統治失敗から、2017年3月期決算では当期利益が9500億円の赤字、株主資本が5400億円のマイナスに陥った。しかも決算に監査法人の承認が得られないなど、上場企業としての体をなさなくなっている。

来る8月には東証1部から東証2部への降格が決定しており、現在難航している半導体メモリ事業の売却が成立しなければ、2018年3月期に2期連続の赤字となって、東証からレッドカードを突き付けられ上場廃止になる可能性が高い。既存債務や複雑な契約を一挙に解消できる法的整理、すなわち解体の可能性さえ囁かれる始末だ。

そんな「情けない」東芝の株式は多くの投資家に見捨てられて、つるべ落としのように下げる一方だったが、ここに来て米著名投資家デービッド・アインホーン氏が率いるヘッジファンドであるグリーンライト・キャピタルが4~6月期中に東芝株を大量に取得していたことが、グリーンライト・キャピタルが出資者に送った書簡で明らかになった。

同書簡には、「東芝が現在直面する不確実性を解決できれば、投資家は東芝の収益性と株価の上振れ余地に再度注目するようになる」と楽観的な予想が示されていた。

このニュースが7月18日に市場を駆け巡ると、経営危機にある東芝の株価が一時、前日終値比+22%の急騰を見せたのである。村上世彰氏が率いた元村上ファンドのメンバーが運営するエフィシモが2017年3月末時点で東芝の発行株式数の9.84%を保有する大株主になったことに続き、投資家の思惑で東芝株は「甦った」のだ。

だが、なぜ「売り浴びせ」「空売り」で15億ドルもの資産を築き上げたアインホーン氏は、もはや上場企業の名に値しない傍若無人ぶりと落ちぶれぶりを示す東芝を買ったのか。そこには、東芝の事情とアインホーン氏の事情が交差する必然が見えてくる。

意外としぶとい「スタボロ状態」の東芝

デイビッド・アインホーン,東芝,グリーンライトキャピタル
(写真= Alexander Tolstykh/Shutterstock.com)

すでに「ズタボロ」状態の東芝ではあるが、アインホーン氏が書簡のなかで述べた、「メモリ事業の売却をもとに事業再建を進めれば、株価が400円程度まで上昇する」という読みは当たらずとも遠からずかも知れない。

なぜなら、ドタバタのちゃぶ台返しやどんでん返しが続く「東芝劇場」において、株価の上昇に続き、これまで東芝不利と見られてきた米裁判所での訴訟で、明るさが見え始めたからだ。米カリフォルニア州の上級裁判所のハロルド・カーン判事は7月11日に、東芝がメモリ協業先の米半導体大手ウェスタンデジタルに対して製品開発の機密情報に接触できないよう通信を遮断したことに関して、解除を命じる仮処分を命じた。

ウェスタンデジタルが売却差し止めの仮処分を求めた訴訟も同じカーン判事が担当することから、米国では「東芝敗訴、ウェスタンデジタル完勝」の観測が拡がっていた。ところが7月14日、カーン判事は予想に反して結論を持ち越し、両社に話し合いによる解決を促す姿勢を見せた。

さらに7月18日には、通信遮断の訴訟について、カリフォルニア州控訴裁判所が東芝の不服申し立てを認めた。米裁判所は必ずしもウェスタンデジタルに勝たせる意図があるとは限らなくなってきた。東芝は意外としぶとい。

そうなると、アインホーン氏の読みの通り、東芝メモリを官民ファンドの産業革新機構、米投資ファンドのベインキャピタル、韓国の半導体大手でウェスタンデジタルのライバルのSKハイニックスによる日米韓連合に売却できる可能性が出てくる。「不確実性の解消」である。

本訴の国際商業会議所の仲裁裁判所での審理は残るが、短期的な運用と「売り」で儲けるアインホーン氏にとっては、さらなる東芝株価の上昇で収益が見込める構図になってきた。

東芝株が一日で11%も上げて261円をつけたことで、232円の購入価格に比べると、すでに大きな利益が出ている。それだけでも、東芝株を買った意義がある。これで日米韓連合による東芝メモリ買収が成功すれば、400円には到達せずとも、高値で売却できるだろう。

アインホーン氏の挽回のチャンスか

アインホーン氏は最近、旗色が悪かった。イケイケ相場で上げているアマゾンやアップルの株式をショート(売り)にしたため、大きな儲け損ねを重ねていた。これは、アップルを底値で大量に仕込むロング(買い)で大きな利益を出している「投資の神様」のウォーレン・バフェット氏とは対照的だ。

だが、ついに挽回のチャンスが回ってきた可能性がある。ただ、すべてはアインホーン氏の売却タイミングにかかっている。うまくチャンスをつかめば良いが、東芝に関する情勢は未だ流動的すぎる。米裁判所で東芝が最終的に勝訴するかは未知数であるし、1年から2年間かかる仲裁裁判所で最終的かつ不可逆的に敗訴すれば、莫大な賠償金をウェスタンデジタルに支払わねばならない。そうなれば、東芝株はただの紙くずである。

シンガポールの市場調査会社Smartkarmaのアナリスト、トラビス・ランディ氏は、「東芝の将来は、エレベーターや地熱発電など、メモリ事業売却後の残存事業の将来的価値にかかっている。これら残りの事業は現時点で3兆7000億円の売上と50億円の営業利益を叩き出しているが、まだまだコスト削減で企業収益率を上げる余地がある」と述べ、アインホーン氏が東芝株を長期保有しても儲けが出る可能性を指摘した。

だが、アインホーン氏の唱える「株価400円」を達成するには、営業利益が現在のレベルの26倍、企業収益率を3.6%まで引き上げなければならないという。「それには、従業員を15%リストラすることが必要だ」と、ランディ氏は断言する。

もし本当にアインホーン氏が東芝株の長期保有で株価が400円になった際に売るつもりであれば、東芝の経営陣は「物言う投資家のアインホーン氏」の要求を容れて、残留する従業員を大幅にリストラすることを迫られるかも知れない。

アインホーン氏は東芝の回復の可能性を鋭く見抜き、大半の投資家に見捨てられつつあった東芝株で、少なくとも現時点における短期的利益を上げた。その東芝株を、いつ売却するのか。注目が集まっている。(在米ジャーナリスト 岩田太郎)

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