「苦手な部下がいる」「部下の欠点ばかりが気になって仕方がない」……そう悩む上司は多いはず。サイバーエージェントにて取締役人事統括を務める曽山哲人氏は、そうした感情は自然なものだと認めつつ、意識を切り替えることでチームの力を最大限高めるマネジメント法を提案する。著書『強みを活かす』(PHPビジネス新書)を発刊した曽山氏にお話を伺った。

「強みの押し付け」では、人は育たない


まず「強みを伸ばすべきか」、それとも「弱みを埋めるべきか」……人材育成における永遠のテーマだ。ただ、曽山氏は明確に「強みを伸ばすべき」と言い切る。

「これまで10年以上人事の世界にいて、弱点の穴埋めをするよりも、得意分野を伸ばすことで大きく成長していった人を数多く見てきたからです。弱みの穴埋めはマイナスをゼロにしかできませんが、自分の強みを見つけ、それを伸ばしていけば、成果はどこまでも上振れしていきます。

私は『人材育成』ではなく『才能開花』という言葉を使っていますが、才能を開花させることが、部下本人はもちろん、チームや会社全体の生産性を最大限に高めることになるのです。たとえばサイバーエージェントには、新会社の社長として新人を抜擢することがあるのですが、こうして成功している社長が何人も出てきています」

「弱みを埋める」よりも「強みを活かす」ことが重要。曽山氏には、そのことに気づかされた原体験があるという。

「もう二十年近く前、私が初めて営業マネジャーになった時のことです。私自身、成果を上げてきた自負があったので、営業の仕方を事細かに部下に指示しました。ある部下はそれを忠実に実行して成果を上げていたのですが、一人、口では『わかりました』と言うのに、全然それを実行してくれない部下がいた。当然、成果も上がらず、私もしょっちゅう怒っていました。

しかし、そんな彼が別の部署に異動するとすぐに成果を上げ始め、翌月には社内表彰をされるに至ったのです。いったいどうしたのかと彼のマネジャーに聞いてみると、『好きなようにやらせただけ』とのこと。結果、それが彼のモチベーションや責任感を高め、自分の強みを生かした営業手法で次々と成果を上げていったのです。

人の個性は千差万別ですから、ある人がうまくいった方法で、別の人もうまくいくとは限りません。成果が上がった部下は、たまたま私とタイプが一致しただけ。私が彼にやっていたことは『強みの押し付け』に過ぎなかったのだと気づかされましたね」

こうした傾向は、プレイヤーとして実績を上げてきた人のほうがより強い。曽山氏自身もまた、すぐに意識を切り替えられたわけではなかったという。

「実際には『強みの押し付け』型のマネジメントから脱却するまで、4~5年ほどかかりました。ただ、『強みを活かす』マネジメントのほうが圧倒的にやりやすいということに、徐々に気づいていったのです。

なにより、部下の表情がまるで違うんです。笑顔が自然に出て、『これ、やっておきますよ』と自発的に動いてくれる。物理的にも気分的にも楽になりました。これを体験してしまうと、もう元の指示命令型のマネジメントには戻れません。

ポイントは『ほめること』です。前述の上司も、部下からの提案に対して『いいじゃん、いいじゃん』とひたすらほめていたそうです。人は感情で動く。自分が認められたと感じたとき、人は最大限の力を発揮できるのだと思います」

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(写真=The 21 online)

弱みは伸ばさない。むしろ「明かす」

一方、「弱み」は放置しておいていいのだろうか。

「もちろん、最低限の『デンジャーコントロール』は必要です。業界の最低限のルールや法律に関連することなどはしっかりと習得させておくべきでしょう。ただ、日本企業の人材育成は、ここにばかり注力し、結果、教科書的な人ばかり生み出しがちに思えます。デンジャーコントロールと『強みを伸ばす』ことは、同時並行で進めるべき。そこさえ押さえておけば、弱みを直そうとするのは『時間のムダ』だと言い切ってしまっていいと思います。

むしろ、弱みをオープンにすることで、マネジメントは非常にスムーズになります。実は、これがうまいのが弊社社長の藤田晋で、『これは苦手だから、任せる』とさらっと言ってしまう。でも、そう言われると任されたほうも頑張ろうと思いますよね。いわば『貢献できるスペース』が広がる。こうして権限委譲を進めながら、それぞれが得意分野に注力できるようになるのです」

かつて上司は「何でもできる人」でなくてはならなかったが、時代背景的にも、今はそれが難しくなっているようだ。

「現代は『コミュニケーションがばれる時代』です。上司が部下に言ったことが、同世代の人たちにネットを通じ一瞬で共有されてしまう。私は新卒採用の最終面接を行っているのですが、面接で何を聞かれたかという情報もすぐに共有されます。余談ですが、私は面接中、相手の緊張をほぐすため飴を用意していたのですが、その情報が出回って『●●味の飴を取るといい』『●●味はNG』などという都市伝説が勝手に生まれているほどです(笑)。

こんな時代ですから、指示命令だけで統制を取るのは難しい。ならば、弱みを認めて、明かしてしまうほうがいいのではないでしょうか」

実体験から生まれた数々のツール

部下の欠点よりも「強み」に着目し、それを伸ばしていく。ただ、実際には「部下の欠点ばかりが気になって仕方がない」という上司のほうが多いはずだ。

「人間はそもそも『人にダメ出しをしたい』という習性を持つ動物ですからね。そうして、自分の優位を確保したい。それは私自身も同じです(笑)。

ただ、言い換えれば、放っておいても欠点は目に入ってくるということ。だったら、むしろ意識的に強みに目を向けるくらいで、ちょうどバランスが取れるのではないでしょうか」

とはいえ、「部下の強みを引き出す」のはそう簡単ではない。そこで曽山氏が活用するのが「ツール」だ。著書『強みを活かす』(PHPビジネス新書)にも、数多くのツールが掲載されている。

「そもそも『自分の強みは何ですか』と聞かれて、すぐに答えられる人のほうが少ないですよね。では、どうやったらそれぞれの人の強みを見出せるか、さまざまな試行錯誤を重ねてきました。本書に載せられているツールは、こうした試行錯誤を経て効果があると実証されたものばかりです。

中でも1つ挙げるなら『価値観9ブロック』です。これは3×3の9マスの中心に自分の名前を書き、自分が大切にしている価値観をその周りの8マスに埋めてもらうというもの。フォーマットがあるだけで、価値観がどんどん出てくるし、それを眺めていると、自分が本当に大事にしていることが何かが見えてくる。面談でも、これを元に話をするとぐっとスムーズに進みます。『想像力』『常に前向き』『嘘をつかない』『平和』など、本当に想像がつかないほどさまざまなものが出てきますよ。ぜひ一度、体験してみてください」

日本には「上司は嫌われてナンボ」という思想がある。

「確かにその覚悟はすごいなと思うのですが、私はできれば、人に嫌われたくない(笑)。もちろん、嫌われずに成果が出ないのは最悪ですが、嫌われずに成果が出るならそれに越したことはありません。そのほうが人生も楽しいですよね。ぜひ、我々の取り組みを参考にしていただいて、そんな楽しさを味わっていただければと思います」

曽山哲人(そやま・てつひと)サイバーエージェント取締役人事総括
上智大学文学部英文学科卒。株式会社伊勢丹(現・株式会社三越伊勢丹ホールディングス)に入社し、紳士服の販売とECサイト立ち上げに従事 したのち、1999 年株式会社サイバーエージェント に入社。インターネット広告事業部門の営業統括を経て、2005 年人事本部長に就任。現在は取締役として採用・育成・活性化・適材適所の取り組みに加えて、ブログ「デキタン」、Facebookページ「ソヤマン(曽山哲人)」をはじめとしてソーシャルメディアでの発信なども行っている。
著書に、『サイバーエージェント流 成長するしかけ』(日本実業出版社)、『サイバーエージェント流 自己成長する意思表明の仕方』(プレジデント社)、『最強のNo.2』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『クリエイティブ人事』(金井寿宏氏との共著、光文社新書)などがある。(『 The 21 online 』2017年07月17日 公開)

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